143 黒い瘴気を持つローブの男が現れて、異世界へ
トレントの二つに分かれた体の両方の目から生気が消えたのを確認してから蓮人は刀を鞘に戻した。そしてリー達が駆け寄ってくる。
「蓮人さん! やりましたよ!」
「ああ、セイクリッドバニッシュならあの黒い瘴気を浄化できるみたいだな。これは大発見だぞ!」
「はい!」
リーは満面の笑みを浮かべているがそれも無理はないだろう。自分で作り出した魔法が邪神や黒い瘴気を放つモンスターと戦う際に非常に有効的なものだと分かったのだから。
「まあまあ一旦落ち着こうよ。これで今日受けた依頼は全部終えたわけだし早く街に戻ろう!」
「それもそうだな、今戻れば日暮れ前までに街に戻れそうだし」
「おいらお腹空いたー! ご飯ご飯!」
こうして来た道を戻り皇都へと戻ろうとするのだが、異変は突如して起こった。
「ひっ……!?」
今までお腹空いたと声を上げていたポチがいきなり震えながらしゃがみ込んだのだ。
「おい、ポチいきなりどうした?ってすごい汗じゃないか……」
蓮人はポチに急いで駆け寄り声をかけるのだが、返答をする余裕もないようだ。冷や汗を垂らしながら小刻みに震えている。
「皆、ポチがどうしたのか分かるか?」
蓮人はリー達の方を振り向いたのだが、そこでもポチ程ではないが皆が顔を青ざめさせて冷や汗を流していた。
「わ、私でも感じられるくらいの何か嫌な感じです……ポチちゃんはそれにやられているのかもしれません、ポチちゃんは私達よりも感覚が鋭すぎますから……」
ジュシュが冷や汗を流しながら答えてくれた。リーとジリーは杖と盾を構えて何が起こってもいいように備えている。
「でも俺には何も感じられないぞ……?」
そのとき、いきなり上から声が降ってきた。
「よくも毎度毎度邪魔をしてくれるな、忌々しい……」
「健吾……!」
上から降ってきた声の主は黒いローブを来た男だったのだ。そのまま蓮人の目の前に降りてくる。
近づいてくるにつれ、今までは感じることの出来なかった嫌な感じというものが感じられるようになってきた。蓮人でそうなのだからポチやリー達には遥かに強く感じられるのだろう、皆後ずさりしている。
「健吾……? 残念だが、俺様の名前はナイトメアだ。そんな弱っちい名前のやつと一緒にしないでくれ」
名乗りと共に黒いローブのフードを脱いだ。それによって素顔が明らかになるのだが、その顔は蓮人にとって予想と違うものだった。
「赤目に、赤髪……?」
蓮人の知っている健吾は日本人らしい黒目黒髪だ。一瞬本当に人違いかと思ったが瞳の奥を見た瞬間、疑問は消え失せ確信に変わった。
「いや、俺は騙されないよ。確かに健吾は黒目で黒髪だったけど、その瞳は俺がよく知ってる健吾のものだ。ナイトメア、お前が健吾の体の乗っ取っているんだな?」
睨みつけながらそう吐き捨てる。その視線を受けたナイトメアは大声で笑い声を上げた。
「はっはっはっはっはっは! よく分かったじゃないか、その通りだ」
「お前は何者だ! 何が目的なんだよ! 早く健吾の体から出ていきやがれ!」
「まあそう怒るなって、ちゃんと答えてやるからよ。
俺様の名はナイトメア、偉大なる邪神様の右腕にして邪神様の一部であるものだ。
目的は俺様の手で邪神様を完全に復活させることだ。そのためにはこの体が必要でな、最後のやつに答えることは出来んな」
またもナイトメアから神経を逆なでするような笑い声が上がった。
蓮人は今にも激昂し刀で斬りかかりそうになるが、歯を食いしばってこらえる。
「……どうしたら出ていってくれるんだ?」
「そうだなぁ、お前が俺に勝てたら出ていってやるよ」
「本当だな? 行くぞ!」
無属性魔法を全開で発動させ、余裕の笑みを浮かべているナイトメアへと飛びかかり、肉薄する。そのまま胴体を薙ぐように刀を横へ振るうのだが、ナイトメアに避ける気配はない。
(やばい!)
蓮人は慌てて刀を止めた。
「どうした? 俺に勝つんじゃねえのか?」
ナイトメアは蓮人の首を右手で掴み、持ち上げる。
「ぐ、ぐうう…………」
あまりの苦しさに声を上げることも出来ない。それに舌打ちしたナイトメアは蓮人を放り投げた。
「……つまらん、さっさと消えやがれ」
「ゲホッ、ゴホッ……う、うるせえ、お前が消えろよ!」
そう叫んで蓮人はまたも斬り掛かった。
今度は大上段に振り上げた刀を躊躇することなく振り下ろすのだが、
――――パキン
ナイトメアの腕で受けられた刀はその部分から真っ二つに割れてしまったのだ。
「うそ、だろ……?」
「しょーもねえな、さっさと寝てろ」
その声が聞こえた瞬間、蓮人の胸に今までに受けたこともないような衝撃が走った。
ナイトメアに胸を思いっきり蹴られたのだ。
蓮人はそのまま吹き飛ばされてしまい、意識を手放すのだった。
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