142 真っ黒なトレントを倒しに、異世界へ
「私に、考えがあります」
リーが控えめに、しかし自信の籠った声で言った。皆の中にはほんの少しだがどうしようもないという雰囲気が流れていたので、その言葉でリーに視線が集まる。
「それで、その考えはなんなんだ?」
トレントが変な動きをしないか確認してからリーに問いかけた。リーは少し緊張した面持ちで頷き、話し始める。
「蓮人さんは、キングスケルトンと戦った時に私が使った魔法を覚えていますか?」
「確か、セイクリッドバニッシュだったっけ? その魔法のおかげでキングスケルトンの動きが鈍くなって刀で斬れたんだよな」
「そうです。あの魔法は光属性魔法の浄化魔法なのですが、そのときに1つ気づいたことがあるんです」
「それが、あのトレントと何か関係あるのですか? 浄化魔法ならアンデッド特攻でそれ以外のモンスターにはあまりダメージを与えられないと思うのですが……」
少し言葉を詰まらせながら話すリーに、ジュシュは疑問を投げかけた。
「確かに、ジュシュちゃんの言う通りセイクリッドバニッシュは浄化魔法でアンデッド以外にはあまり効きません。
キングスケルトンにあんな大ダメージを与えられたのはキングスケルトンがアンデッドだったからだっていうのも分かってます。でもあのとき、魔法を放った私にはあの黒い瘴気も浄化していたような手応えがあったんです
もちろんトレントがアンデッドじゃない以上全く効かない場合もありますが、浄化魔法なら、セイクリッドバニッシュならあの黒い瘴気も浄化することが出来るんじゃないか、って思うんです」
「なるほど……」
蓮人はキングスケルトンとの戦いを思い返す。
(確かに、最後の刀の一撃の手応えはそれまでと比べて格段に弱くなっていた。セイクリッドバニッシュで弱っていたにしては軽すぎた気がする。試してみる価値はあるか)
「分かった。どうせ他に思いつく手もないんだ。まずはそれを試してみよう。リー、頼むぞ!」
「はい!」
「リーは今すぐ魔力を練ってセイクリッドバニッシュの準備を、ジリーとジュシュはりーの側でトレントの攻撃から守ってやってくれ。それで俺とポチでトレントの注意を引く。ポチ、いけるか?」
「うん! 任せて!」
いつでも元気なポチから元気いっぱいな返事が返ってきた。それで少し肩から力が抜けた気がした。
ポチに心の中で感謝しつつ、皆に気合を入れる。
「よし、行くぞ!」
蓮人とポチは隠れていた茂みから飛び出した。
その瞬間にトレントからまたも真っ黒な葉が襲いかかるのだが、無属性魔法を発動している蓮人とポチの素早さについていけるわけもなく時間を稼ぐことに成功する。
「蓮人さん、いつでもいけます!」
魔力を練り終え、いつでも魔法を放つことの出来る状態のリーから声が上げられた。
「次にこの真っ黒な葉が撃ち終わった瞬間に頼む!」
「はい!」
その返事を聞いた蓮人は襲ってくる葉を目の前にして足を止めた。
そして蓮人は刀を縦横無尽に振り回し、全ての葉を切り刻んで無効化する。そんな葉など、どれだけ撃っても無駄だと分からせるために。
トレントもバカではないのかそれをすぐに理解し、撃つのをやめた。
「セイクリッドバニッシュ!」
完璧なタイミングで放たれたセイクリッドバニッシュはトレントを真っ白な聖なる光で覆い尽くす。
その中でトレントは顔を苦痛で歪ませていた。体から真っ黒な瘴気を出し、それら全てを浄化されながら。
「蓮人さん!」
「分かってる!」
蓮人は刀を構えて力を貯めている。
(勝負は、あの黒い瘴気全てが浄化されたすぐ後だ!)
だんだんと薄れていく黒い瘴気を見ながら斬りかかる時が来るのを静かに待つ。
その時はすぐにやってくる。最後の黒い瘴気が浄化された瞬間、真っ黒な葉が周囲の木と同じ緑の葉なったのを蓮人は見逃さなかった。
「うおおおおおおお!!!!!」
またも雄たけびを上げながらトレントへ飛び掛かり、大上段から刀を振り下ろす。
今度はすっと刃が通り、トレントを縦に真っ二つに切断するのだった。
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