139 体が痺れて、異世界へ
蓮人、リー、ジュシュの全員が新たな魔法に成功してルンルン気分で森の奥深くへ進んでいるときに異変は起きた。
蓮人の横でジリーがいきなり膝をついて倒れたのだ。
「おい! どうした!」
「分からないけど、いきなり体が痺れて……」
ジリーはもう指一本も動かせないようだ。そんなジリーを蓮人が支えていたのだが。
「とりあえず、そっちの木の陰に……ってあれ?」
支えていたジリーに覆いかぶさるように倒れてしまった。
「ちょっと!!」
「悪い、俺もいきなり体が痺れてきて……」
傍から見ればなんとも危ういように思えるのだが指一本動かすことの出来ない蓮人にはどうすることも出来ず、ジュシュが何とか引き剥がそうとするのだが力の抜けている人体は重く、ジュシュの力では動かすことが出来ない。
「俺達はいいから、周りに注意しろ! 何か、いるぞ……!」
「は、はい! だからってお姉ちゃんに変なことしたらダメですよ!」
ジュシュはそう言ってから杖を構え、周囲の警戒に入るのだが、一向に何も姿を現さない。
「何もいないですよ……って私まで……」
ジュシュも杖を取り落とし、地面に倒れてしまった。残るはリーとポチだけとなり、より一層周囲を見回す。
「いた! 上!」
蓮人達の上にいたのは二枚一対の羽から目に見えない何かを降らせているモンスターだった。
「あれはきっとポイズンバタフライですね。ポチちゃん、行きますよ!」
「うん!」
その掛け声と共にリーは突き出した杖先から空気の弾丸を3発撃ち出した。それは寸分の狂いなくポイズンバタフライの羽を撃ち抜いた。
穴の開いた羽では満足に飛ぶことも出来ないようで墜落してきている。そこを地面を蹴って高くジャンプしたポチはポイズンバタフライの頭と胸の境目にナイフを突き刺し、そのまま引き裂いた。
「よし、何とかなりましたしね」
ポイズンバタフライを討伐できたリーとポチは一息ついているが、問題はこれからだ。
「ポイズンバタフライは倒せたみたいだけど、俺達はまだまだ動けそうにないな。このまま他のモンスターに襲撃されるのは本当にまずい」
体は動かないが口は動く蓮人はどうしようもない現状での最善の手を考える。
「それなら私に任せてください! ライトヒール!」
リーがそう唱えた瞬間、蓮人とジリー、ジュシュの体がどこか温かな光に包まれた。その瞬間、少しづつだが全くなかった体の感覚が戻ってきたのだ。
「おお! すご……うわあああ!」
戻ってくる体の感覚に驚いているといきなり突き飛ばされた。
「ちょっと近すぎ……戻ったんなら早くどきなさいな」
「あ、ごめん……」
真っ赤な顔をしているジリーにとりあえず謝罪を返しておいてリーに今の魔法は何なのか尋ねてみる。
「今のは光属性魔法のライトヒールです! アクアヒールは水属性魔法で体の傷を直してくれる魔法でしたけどライトヒールはさっきの麻痺だったり毒だったりの状態異常系を直してくる魔法なんです!」
「なるほど、だからポイズンバタフライの依頼も受けたかったわけか」
「は、はい……でももしダメだった時でも大丈夫なように皇都で麻痺なおしも買ってたので大丈夫ですよ!」
「まあいいとしよう、これであまり元気のなかった皇都のギルドも良くなるだろうしな。さ、残るはトレントだけだ。早く終わらせて街に戻ろう」
ジリーだけは今だ顔を赤らめて返事をしなかったが歩を進めようとするのだが、
「ねえねえ、何か変じゃない? どこか嫌な感じがするっていうか……」
ポチが自信なさげではあるがそう言って皆は引き留める。
「うーん、そうか?」
「いえ、私には分かりませんけど、ポチちゃんがいうのなら何かあるのかもしれません」
「そうだなあ」
皆で周囲を見回してどこか変なところがないのか探してみるのだが違和感は見当たらなかった。
「何もないみたいだな」
「うん、でも何か嫌な感じがするんだ」
「そうか……じゃあ用心しながら進んでいこうか」
こうしてまた更に森を奥に進んでいく。
結局、ポイズンバタフライの死体からほんの少しではあるが黒い瘴気が漏れ出しているのには誰も気が付くことはなかった。
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