137 新たな魔法を試して、異世界へ
森の中は木が空高く伸びていることもあってかなり薄暗く視界が悪い。そのうえジメジメしており、あまり長時間居たいと思うような場所ではなかった。
「ジメジメして気持ち悪い……」
ポチはそう言ってあまり元気がない。それを表すようにケモノミミもヘニャっとしている。
「あまり奥には行かず、早めに切り上げよう。だから頑張ろう」
蓮人はそう言って先頭を歩き出す。
隊列は先頭が蓮人とジリー、真ん中にポチ、後列にリーとジュシュと並んで森を進んでいく。
森の中はどちらかというと凶暴な動物の方が多く、日本でいうトラのような動物がいたるところで歩いていた。しかもこちらの姿を見つけた瞬間襲い掛かってくるのだ。
Aランク冒険者となった蓮人にとって最早モンスターでもないただの動物など敵ではなく、無造作な刀の一撃だけで屠ることが出来る。
(日本ではあんな凶暴な動物に襲われたらひとたまりも無かったのになぁ……なんだか人間をやめた気分だな)
変なポーズを取りたくなるがぐっとこらえてまた道を歩き出すのだった。
森の奥へと進めば進むほど野獣の数は減ってきて、それとは反対にモンスターの数が増えてきた。
そんなことを考えている間にもまた蓮人達の頭の上から風の刃が降ってきた。
「パワーシールド!」
ジリーが大きな盾を構えてその刃を受け止めた。そして後方からリーが飛び出てくる。
「私に任せてください!」
そう宣言してから杖を高く掲げ、魔法を発動する。
「ウインドショット!」
杖の先から圧縮された空気の弾丸らしきものがかなりの速さで撃ち出された。目がかなり良い蓮人ですら何とか追えるくらいの速さである。
そしてその弾丸は寸分の狂い無く、木の上にいるリトルトレントの眉間を撃ち抜いた。
「おおおおお!」
新たな魔法とその威力に驚いた蓮人は思わず声を上げてしまった。その反応にリーは嬉しそうに胸を張っている。
「これって昨日読んでた本の魔法か?」
「その通りです! どうですか!」
「すごかったよ! 魔力を練っていたわけでもなくすぐに使っただけの魔法なのにあの威力なんだもんな。しかもあの速さならそうそうよけられないだろうしな」
「そうでしょうそうでしょう!」
リーはかなり誇らしげだ。そんなリーを羨ましそうに見ているジュシュ。
「次は私の番ですよ! さあ早く行きましょう!」
ジュシュは意気込んで皆の背を押していくのだった。
そして次のチャンスはすぐにやって来た。先頭を歩く蓮人とジリーの目の前から蜂の胴体にカブトムシの頭と角を持つモンスターが5匹まとめて飛んできた。
「行きますよ! 少し離れてください!」
ジュシュは魔力を練り、杖先に集めている。それを見て蓮人達はジュシュよりも後方へと下がり、ジュシュへの奇襲攻撃がないか周囲を見張る。
その間にも魔力は杖先に集まり、ある形を取り出した。
「それは大砲か?」
杖の先に透明の水で出来た、直径40センチメートル、長さ2メートル程の砲身が出来ていたのだ。
「ご名答です! 見ててくださいね! ウォーターキャノン!」
水で出来た砲台からすさまじい轟音と共に直径40センチメートルの水球が発射された。そのまま一直線にキラービートルへ向かって飛んでいき、ぶつかった瞬間に大爆発を起こす。その爆発と共に水球のかけらである水滴が飛び散り、そしてキラービートルの体を撃ち抜いた。
それで全てのキラービートルが退治されてしまった。かなりの威力である。
「やりましたよ! どうですか!」
先ほどのリーに負けず胸を張って振り返ってきた。
「あ、ああ。すごいよ」
しかし、蓮人達はあまりの威力に薄い反応しか出来ないのだった。それになんとも不満そうではあるが、やはり新たな魔法が成功したのが嬉しいのだろう。すぐに気を取り直していた。
「張り合いないですねー、まあいいです。それより次は蓮人さんの番ですよ! 新しい魔法見せてくださいね!」
「そうだな! じゃあ早く次のモンスターを探そうか」
蓮人は昨日覚えた魔法の中でウォーターキャノンに負けない派手な魔法はないのか思い返しながら森の中を進んでいくのだった。
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