136 依頼を受けて、異世界へ
次の日の朝早く、蓮人達の姿はギルドにあった。
「ガサラとか王都にあったギルドとは雰囲気が全然違うんだな」
「向こうでは喧嘩っぱやい人が多くて騒がしかったもんね。
こっちは魔法使いが多いからか物静かな感じがする」
冒険者といえば血の気が多く常にどこかしらでケンカが起きているイメージを持っていた蓮人は、これとは程遠い現状に驚きを隠せない。
静かなギルドに違和感を感じながらも依頼掲示板の中からどの討伐依頼を受けるのか吟味していく。
「とりあえずDランクかCランクモンスターの討伐依頼を何個か受けておきたいな」
「それじゃあこの辺りとかどうですか?」
ジュシュが掲示板から3枚の紙を取って蓮人に手渡す。それを受け取りそれらのモンスターの特徴について読み上げていく。
「えーっと、Dランクモンスターのリトルトレント。これはここに来るまでに一度倒したやつか。
次も同じくDランクのキラービートル。昆虫のような見た目をしており硬い殻で覆われているが魔法に弱い。集団で固まって飛んで襲って来る際は危険度はCランク同等となるので要注意、と。
次がCランクモンスターのトレント。リトルトレントが根を地面に下ろした後の姿で周囲の養分を吸い取って大きく成長するモンスター。動き出すことはないが近づく際は枝などが襲ってくるため要注意。
まあいい感じだな。今日のところはこの3つの依頼を受けることにしようか」
「待ってください! これも、受けませんか?」
そう言うリーから受け取った依頼書には至急求むと書かれていた。
「何だこれ?」
「Bランクモンスターのポイズンバタフライの討伐依頼です。その名の通り毒を持つ蝶であるらしく、かなりの数の冒険者が返り討ちにあっているようでこのまま放って置くとまずいかもしれません。なので、私達の腕試しも兼ねて受けませんか?」
いつになく真剣なまなざしのリーに押されてしまった。
「向かう先も一緒だし、他の依頼も1体だけの討伐だから時間もそんなにかからないだろうし受けてみるか」
「はい!」
こうして計4枚の依頼書をカウンターにいる受付嬢に渡す。
初めは本当にこんなに依頼を受けられるような冒険者なのか怪しむような顔をして対応してきていたのだが、蓮人達がギルドカードを渡した瞬間に態度が一変した。
「Aランク冒険者ですか!? こ、これは失礼しました! すぐに依頼受理のハンコを押させていただきます!」
大きな声で言うものだから周りにいた冒険者達にも聞かれてしまったようで、どこかザワついている。
中には蓮人達がポイズンバタフライの依頼書を持っていったのを見ていた人もあり、これで安心だと話をしている人もチラホラいた。
どうやらここまで静かだったのはポイズンバタフライにやられた人が多かったからなのだろう。
「これで依頼が受理されました、お気をつけて行ってきてください。
特にポイズンバタフライの放つ毒粉には注意してください。致死性のものではありませんが指一本動かすことの出来ないほど麻痺する粉を振らせてきますので」
「いえ! 大丈夫です! さあ早く行きましょう!」
受付嬢の善意によるアドバイスにリーは元気よく返事を返し、蓮人達の背中を強引に押しながらギルドを出ていくのだった。
なぜ大丈夫なのかはサッパリ分からないがリーのことだから何かあると信じて目的地へと出発する。
目的地は皇都から龍の峠の逆方向に歩いて2時間程にある名前もない森だ。かなりの広さがあり、中では無数のモンスターや動物たちが暮らしているらしい。
早朝に出発した蓮人達はお昼前にはその森の入口へと到着し、軽い休憩を取ってから中へ入ろうとするのだが、いきなり木の上から風の刃がジュシュに向けて発射されてきた。
「危ない!」
蓮人はジュシュを抱えて横に飛ぶことで避ける。
この間でどこにモンスターがいるのかを把握したリーはすぐさまウインドアローを放ち、モンスターの胸を突き破った。
「見覚えのある魔法だと思ったらリトルトレントか。こりゃ森の中に入っても気を抜けないな」
木の上から落ちてきたリトルトレントの死体に目をやりながら背筋を嫌な汗がつたっていく。
その横でジュシュも顔を少し青くしていた。一歩間違えれば死にはしなくとも大けがをするところだったのだ、仕方ないだろう。
「皆、ここから先は気を付けて進もう」
蓮人の言葉に皆は緊張した面持ちで頷きを返す。
こうして森の中へと進んでいくのだった。
読んで頂きありがとうございます!
よろしければブックマーク、評価、感想お願いします!




