116 ワイバーンに襲われて、異世界へ
ジリーがテントへ戻ったあとは特に何も無く、そのままリーとポチとの交代の時間がやってきた。
蓮人は交代して眠い芽を擦りながらテントへと潜り込み、眠るのだった。
「朝ですよー! 起きてください!」
体を揺さぶられることで起きた蓮人は目を開ける。
そこにいたのは元気いっぱいのジュシュだった。
「朝ご飯出来てますよ! 早く起きてください!」
そうして朝ご飯を済ませた蓮人達はテキパキと火の始末などの片付けを始める。
今までリーとポチとの3人で野営をするときは皆慣れておらず、毎度毎度四苦八苦していたのだが、経験豊富なジリーとジュシュが入ってくれたことによってその辺りの後始末も効率よく行うことができるようになった。
もうおふたり様様である。
片付けを終えた一行は龍の峠へと歩き出す。
今日も昨日と同じようにジュシュのワンマンショーだ。
「リーン皇国の周りには炭鉱が多く、ミスリルがよく取れるんです。
だからリーン皇国はミスリル武器が他の国よりも安く質の高いものがよく手に入るので、武器や防具を買うのならばリーン皇国へ行ってみるのもいいかもですよ!」
「ウェスナ王国は武術の国と言われ剣や槍などを得意とする冒険者の方が多く、魔法の適正を持っている人は少ないです。
リーン皇国は反対で、魔法の国と言われており、魔法の適正を持っている人は他の国と比べても非常に多く、2つ以上の適正を持つ人も中にはいるんですよ!
魔法を使う身としては1度行ってみたいですよね」
こんなうんちくを話していたり、
「ポチちゃんの故郷の獣人族の村ってどんなところなんですか?」
そんな疑問を聞いていたりした。
元気いっぱいでとても楽しそうだが、話に夢中になっている。
しかし、それのせいでジュシュだけは空を飛んでいる襲いかかろうとしている翼竜のようなモンスターの接近に気づくことが出来なかった。
ギャァァァァァという咆哮が聞こえたかと思うと、大きく開いた口から真っ赤な炎が吹き出される。
そんな中、ジュシュだけは回避行動をとることが出来なかった。
「危ない! パワーシールド!」
それに気づいたジリーは迫り来る炎に立ち向かうと盾に魔力を流し、ジュシュを背中に庇う。
モンスターの攻撃がジリーに集中している間にリーは魔力を練っており、炎が止んだ瞬間モンスターの背後から、魔法を放つ。
「アクアカッター!」
6つの水刃が生み出され、それが翼竜のモンスターの翼をズタズタに引き裂いた。
穴の空いた翼では満足に飛ぶことも出来ず、落下してくる。
蓮人はそれに合わせて無属性魔法を発動させ、翼竜へと駆け寄っていく。
そして目の前のモンスターの長い首めがけ、刀の居合の一閃を食らわせ、そのまま駆け抜ける。
刀をパチンと鞘に直した瞬間、滑らかな線を持った翼竜の首が地へと落ちた。
切断面からは血が吹きだし、ワンテンポ遅れて体も力なく地面へと倒れ伏せる。
モンスターの死を確認した蓮人は周囲を警戒しながらジリーの元へと向かう。
「大丈夫か?」
ジリーはリーの水属性魔法で治療を受けているが特段大きなケガはなく、ちょっとした炎のヤケドを治してもらっていたようだ。
「うん、平気だよ」
「そりゃ良かった」
大丈夫そうなジリーに安心した蓮人ではあるが、その横ではジリーが目に涙を浮かべながら謝り続けていた。
「お姉ちゃん、ごめんなさい、私のせいで……ごめんなさい……」
「ああもう、うるさい!」
蓮人達がなんと声をかければ良いのか迷っているところ、ジリーからの叱責がとんだ。
「で、でも……」
「謝るのは1回でいいの!後はその反省を次にどう活かすかよ!
ほら、シャキッとしなさい!私は元気だから!」
リーの治療を終えたジリーは立ち上がってジュシュの肩をバシバシと叩きながら元気付ける。
「……うん、わかったよお姉ちゃん。それと痛いよ!」
なんとか涙を引っ込めたジュシュは肩を撫でながらそう怒る。どうやら通常運転に戻れたようだ。
それを確認した後、蓮人はジュシュへと疑問を尋ねる。
「なあ、さっきのモンスターって何だったんだ?」
「あれはおそらくCランクモンスターのワイバーンでしょう。Cランクと言われてはいますが空中からの機動力を使わえばBランクモンスターでも敵わないこともあるそうです。
そして生息地は龍の峠の頂上付近……ってあれ?頂上付近のはずなのになぜこんな所に……」
まだ龍の峠には半日以上歩かなければ着かない距離にある。そんな所にワイバーンが現れたのだ。
龍の峠に何か異常が起きている可能性が高い。
「ワイバーンがこんな所に現れた理由と龍神の石像が壊れたことに何か繋がりがあるんでしょうか……」
ジュシュのそんな呟きに蓮人はそうだろうと半ば確信する。
「とりあえず先を急ごうか」
蓮人達はまた龍の峠への道を歩き出すのだった。
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