114 2人のランクアップに、異世界へ
ムーラの部屋に通された蓮人達はカウンターの受付嬢と繰り広げていた押し問答について説明した。
「このままじゃジリーとジュシュをホワイトストライプスに入れてやることが出来ないんだ。
だから俺達はAランクへの昇格を辞退したい。そうすればランク差は1つのままで、2人を正式にパーティーに入れることができるからな」
「……なるほどな、事情はよく分かった」
ムーラはそう言ってから無言で考え込む。
それを蓮人達も無言で待つ。
そして数分が経った頃、ムーラは口を開いた。
「やはり、ホワイトストライプスのAランク昇格の辞退を受け入れることは出来ない。あのパーティーで発表された時に拒否することなく受け入れていたのと、もう既に情報が出回りすぎているのが理由だ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
蓮人は机をバンっと叩いて立ち上がる。
「もういいって、私達が早くランクを上げればいいんだからさ。それまでは緊急討伐依頼の時みたいに臨時パーティーでもいいじゃない」
「そうです! パーティーに入れてもらえるのに、どんな形でも文句なんかないです!」
そんな蓮人をジリーとジュシュは宥めてもう一度座らせるのだが、腹の虫は治まりそうにない。
「まあ待て、話には続きがある。最後まで聞いてくれ」
ムーラはそう言って皆を落ち着ける。
「蓮人達のAランク昇格を取り消すことはもう出来ない、それは事実だ。
だが、緊急討伐依頼に多大なる貢献をしてくれた君たちを蔑ろにするのも忍びない。ジリーとジュシュの活躍も下から伝わってきてはいるしな。
そこでだ。君達にある依頼を出したいんだ」
「その依頼とこの件で何の関係があるんだ?」
蓮人は半ば睨みつけるように言いつける。
「この依頼の報酬がジリーとジュシュのBランクアップだとしたら?」
「……話を続けてくれ」
蓮人は怒りを押さえ込んて話の続きを促した。
ムーラは蓮人が怒りを押さえ込んだことで少し緊張が解れることが出来たようで、そのまま話を続ける。
「この王都から離れた所に龍の峠と言われるところがある。それは知っているか?」
蓮人とリーにポチは首を横に振り、ジリーとジュシュは首を縦に振る。
「ではまず龍の峠についてから話をしよう。
はるか昔、この王都が出来るよりも前の話だ。
そこでは龍神という龍の神である存在とその眷属である下級龍の群れが住んでいたそうだ。
龍種であると伝えた通り人間よりも遥かに高い知性と力を持っていたそうだ。
もっとも龍種なんて伝説の中の話で、見たことある人はいない。
それに龍の峠なんて仰々しい名前をしているが、かろうじて下級の竜種のモンスターがたまに現れる程度で、お前たちにはなんの驚異にもならないような峠だよ。
それで今回の話に戻る。
その峠の頂上には龍神を模した等身大の石像があったんだ」
「……あった?」
「そうだ、あったんだ。しかし、何故かは分からんがその石像が壊れてしまったらしい。モンスターの仕業とは思うんだがな。
そこでだ、君達に頼みたいのはその壊された石像の調査だ。そして壊したであろう元凶がいればそれの討伐もだな。
悪い話じゃないだろう?」
ムーラのその問いかけに蓮人は無言で頷き、仲間達の顔を見回す。
ジリーとジュシュは自分達がBランクに上がることが出来るかもしれない嬉しさと、下位とはいえ竜種のモンスターが出るかもしれないという恐怖の混ざったよく分からない顔をしている。
「さあ、どうする?」
蓮人としてはこの依頼を受けたいのだが、竜種が出る危険性があるものを強制する訳にはいかないので判断はジリーとジュシュへと任せる。
「……受けよう!」
少し間を置いて緊急して震える声ではあるが、ジリーから返事が返ってきた。
その横でジュシュも頷いている。
「私達の折角ランクアップ出来るチャンスを逃す訳にはいかないよ。
2人だけなら不安だけど、今なら蓮人達もいる事だし安心だからね」
「分かった、それでは早速依頼書を作るとしよう。明日の朝までには作っておくから、またそれ以降に来てくれ」
こうしてジリーとジュシュのランクアップのためにこの依頼を受けることになるのだが、これが後々とんでもないことになるとは誰も気づいていない。
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