108 蓮人のピンチに、異世界へ
キングスケルトンの槍先の魔刃による鋭い突きが蓮人へと放たれる。
今度は身を守るものがない腕や太ももを執拗に狙ってきている。
太ももを攻撃されれば移動速度が格段に落ちるし、腕を攻撃されれば刀を振るうのが難しくなる。
どちらも一撃も食らうことが出来ない部位だ。
そんな緊張感を持ちながら蓮人は突きに刀を合わせることで軌道を変えるか体を捻るかして逃げに徹していた。
しかし、それもずっとは続かない。
1突きごとに早くなる突きは着実に、少しずつではあるが蓮人の体に傷を増やしていく。
(このままじゃやばい……どうすりゃいい？)
槍を捌きながら頭をフル回転させるが、思い浮かぶのはジリ貧で槍に串刺しにされている自分自身の姿だけだった。
そのせいで、反応が少し遅れてしまう。
「考エゴトカ？」
キングスケルトンのその呟きと共にまた一段と速くなった突きが放たれ、鮮血が舞った。
蓮人は突きが放たれた俊寛後方へと大きくジャンプしたため左腕が串刺しになるのだけは防ぐことが出来たが、二の腕が少し切れたようだ。
蓮人はそのまま距離を取ったまま刀を構え、キングスケルトンの動きを伺いながら一瞬でプランを決める。
(このままじゃ押し込まれるだけか……なら、やるしかない！)
これ以上長期戦になると部があるのはキングスケルトンだと判断した蓮人は次の一撃で勝負をかけることにした。
「次で、決める！」
「オモシロイ。ヤッテミロ」
キングスケルトンのその余裕に悪寒が走り冷や汗が止まらなくなるが、刀を強く握りしめ、声を上げることで心の奥底へ恐怖を押し込める。
「うおおおおおおおお！！！」
蓮人はキングスケルトンへと一直線に駆けていく。
キングスケルトンはその様子をやけに冷えた目で見ている。
「恐怖ニ負ケタカ」
キングスケルトンは小さく呟いただけなのだが、やけに鮮明に蓮人の耳に入った。
それを振り払うように蓮人は刀を大上段の構えから振り下ろす。
しかし、その一撃には今までのキレや覇気はなく、ただガムシャラに放っただけのものだった。
そんな1振りなど簡単に受け止められてしまう。
「終ワリダ」
そのまま軽々と刀が空へと飛ばされてしまい、体勢を崩された。
そしてがら空きになった胴に槍の1突きが放たれる。
蓮人にはそれをどうすることも出来ず、守るものもないお腹に深々と突き刺さった。傷口からは血がダラダラと流れ落ちている。
勢いよく槍を引き抜かれた蓮人は声にならない声をあげ、そのままうつ伏せに崩れ落ちた。
口から血を吐き出し、穴のあいたお腹から出た血が赤い水たまりを作っている。
(体が冷えて寒い、感覚がない、頭もクラクラする……俺は、死ぬのか……？)
意識が霞んできており、そんなことが頭をよぎる。
「安心シロ、我ガ一思イニ殺シテヤル」
蓮人の首の上に槍が構えられていた。
(逃げ、なきゃ……でも体が動かない……)
這って逃げることすら出来ない。
「死ネ」
ドス黒い魔刃が振り下ろされる。
(悪い、皆……)
心の中で皆に謝りながら、蓮人はそっと目を閉じる。
そんなとき、ある声が響いた。
「蓮人さん！」
その声の主は蓮人を風に乗って空を滑空しているリーだった。
ウインドアローが5本放たれる。
狙われているキングスケルトンは振り下ろそうとする槍を止め、後ろへ飛んで回避行動をとる。
リーはキングスケルトンが元いた場所へとふわりと着地した。そして自分が血で汚れることも気にせず抱え起こす。
「蓮人さん、今すぐ治します！アクアヒール！」
リーの持つ杖先から聖なる光を放つ水球が生み出され、それが蓮人の傷口を覆っていく。
(痛みが、引いていく……)
その痛みがなくなった頃には穴の空いていたお腹はキレイに塞がっていた。
「リー、ありがとう。本当に助かったよ」
蓮人はお礼を言いながら立ち上がる。
「ほ、本当に無茶するんですから……帰ったらお説教です……！」
リーが半ば泣きながらそう言ってくる。
「ああ、そうだな。今度こそ、勝ってくるよ」
蓮人は二度とリーを泣かせないと心に誓い、刀を拾い上げてキングスケルトンの方へと向かうが、リーに引き止められる。
「今度は、私も戦います。2人で、勝ちましょう」
涙を押し込め、笑顔を浮かべながらリーはそう言ってきた。
「ああ！ よろしくな！」
蓮人は今なら負ける気がしなかった。
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