変「電話×中の人=ベストマッチ!」
網橋理子は、自宅の、それも自室でこそ、自身の趣味を開放する。
「空に瞬くスター・ライト♪ 大地広がるフラワー♪ 貴女と私で探したいユートピア~♪」
そんな彼女の趣味とは、ネット声優。普段より無報酬で同人ゲームや同人アニメの声優を請け負っているほか、自身でネットラジオやゲーム実況動画、歌唱動画などを投稿している。今もまさに、その歌唱動画に使う歌声をお気に入りのコンデンサーマイクで収録していた。
歌も最後のサビに突入し、気持ちが最高潮になった、そんなときだった。
彼女の携帯電話が大きな音で鳴り響いたのは。
「空に瞬くスt………………もしもし柑奈? なに?」
『理子? ……今、大丈夫?』
「うーん、まあ……」
『ダメ……だった?』
「いや……今ちょうど録音してて……まあ、いいよ。着信音切り忘れた私が悪いんだし。あとでそのフレーズを録り直せばいいだけだから」
『そう? ならいいんだけど』
「それで? なんの用事?」
『無いわよ用事なんて』
「……は?」
『単に、理子の声が聞きたくなって電話したのよ? 悪い?』
「……」
『なに、不満なの?』
「別にそんなんじゃ……」
『特に用事は無くても、恋人の声が無性に聞きたくなる時が、女の子にはあるのよ』
「私だって女の子なんだけど……。というか声を聞くだけなら私の動画を観てくれたらいくらでも…………」
『不特定多数に向けた声じゃなくて、アタシに向けた声が聞きたかったのよ! 生の! 声が!』
「……はいはい」
『はいはいって……それが恋人にかける言葉!?』
「…………」
『ちょっと! 聞いてるの!?』
「……めんどくさ」
『はぁ!? もう一回言ってみなさいよ!』
「……んんっ! ……………………『ピ~ン……クマっ!』」
『!?』
咳払いを一つしたあと、彼女はそれまでの気だるそうな声を一変させた。
「『やあ! ボクの名前はピンクマ! 柑奈ちゃん、今日はどうしたんだベアー?』」
『じ、実はね、ピンクマ……。恋人がね……構ってくれないの……』
説明しなければならない。
何を隠そう、網橋理子は秋村柑奈の大好きなキャラ、ピンクマのキャラクターボイスを務めているのだ。別の言い方をすると、いわゆる「中の人」である。