未「不躾な客×それなりの罰=ベリーマッチ!!」
「……いらっしゃいませ」
私は、しがないバーテンダー。私が経営するこのバーには、浮き世に疲れた高貴な紳士淑女が集う。私はこの小さな箱庭を提供し、より良い社会づくりの手助けをさせてもらっている。
……だが、今朝の星座占いが当たってしまったようだ。今夜はこの箱庭には明らかに場違いな人間がやって来てしまったのだ。「牡羊座十二位」を侮っていた。
「マスター、美味いカクテルをくれ」
「申し訳ございませんお客様。当店は一見様はお断りさせていただいております」
「……なら、これでどうだ」
下品にもこの人間は、六桁の額はありそうな札束を封筒にも入れずにそのままカウンターに出してきた。この箱庭には似つかわしくない代物だ。
「ふふっ、どうやら興味があるみたいだなぁ」
呆れているのだ。礼儀もなにもあったものではない。
「金」
「は?」
「俺には金がある。俺はサラリーマンをやってるんだが…………。ここだけの話……」
人間は、一人語りを始めた。非常に不快である。
「人生の当たりクジを引いたんだ。きっと、この店にいる社会のしゃの字も知らないような奴等には到底手に入れられない、当たりクジだ」
「お客様、お帰りください」
「……マネージャーだ」
だめだ、聞いていない。ブラックリストにでも載せておこう。ここは他人を馬鹿にする場所でも自慢をする場所でもない。
「『Nebburico』って知ってるか?」
その名は知っている。今年中学生になる娘が大好きなネット声優の名前だ。
「これがホントとんでもねぇ奴でよ。最初専務に頼まれた時はなんでこんなガキのお守りなんかしなくちゃいけねぇんだって思ってたよ。それがドンドン売れていって……金の成る木……いや、金の成るガキになったよ。おかげで俺は売れっ子を育てた敏腕マネージャーときたもんだ。今まで俺を見下してきた奴等を……今度は俺が見下す番だ。笑えるだろ? 俺なーんもしてないんだぜ? なにもしなくても勝手にアイツが稼いでくれるもんだから、人生イージーモード過ぎるぜこりゃ。クククククク。……酒は?」
「お客様に出すようなお酒は当店にはございません。お引き取りください」
「……チッ。まーいいや。金ならある。アンタも俺の世話になりたくなったら連絡してきな。んじゃ」
そう言い残して、人間は「知戸光助」と書かれた名刺をカウンターに置いていった。
「……天寿の社員か。…………貴女の会社は、民度が下がったんですか?」
私の問いに対して、奥の席に座っていた女性は答えた。
「さあ?」
……とりあえず、あの人間は出禁にしておこう。




