一「再会×苦悩=ベストマッチ!」
アタシとNebburicoとの再会は、思っていたよりもずっと早かった。
「…………あ! あのときの!」
それは、私立の中高一貫校である星花女子学園の中等部へ入学して、三日目の昼のことだった。
◆
「……いた」
アタシはNebburicoの腕を引っ張り、人目につかなそうな校舎の一角の壁に追い込んだ。アタシに壁ドンされるような形になり、彼女は静かに苦痛の声を漏らした。
「……なんなの」
「ずっと、観てるわよ! 動画!」
「それは、ありがとう…………?」
「……はぁー。やっぱり、動画の時とは全然喋り方が違うのね。動画のあんたはもっと……アタシ達視聴者に希望を与えるような……そんな感じなのに」
「…………」
「それに……覚えてるわよ。あの悟ったような言い方。まるで別人みたいで、なんか裏切られたような気さえしたわよ」
「……なら、なんでずっと私の動画を観てくれているの」
「……え? それは…………あんたの動画が好きだからよ。…………決して上手いプレイングじゃないけれど、状況の説明や視点移動が配慮されていて、たまに出る悲鳴がかわいいゲーム実況動画。実際に体験していないのに、まるで聴いているこっちが今まさにその状況におかれているように感情移入してしまう歌唱動画。たった一人で年齢も性別も種族もたやすく越えてしまうアフレコの技術。その全てが、アタシの心を掴んで離さないのよ……。……なのに、偶然とはいえ実際に会ったらあんな態度とられて……すごく、ショックだったのよ…………」
「…………」
「……だから、アタシはあんたに文句が言いたくて…………」
「……動画の中の人間が、そのまま現実と同じ人間だと思う?」
「……なによそれ」
「親への喋り方と、初対面の子どもへの喋り方、あなたは同じ?」
「はぁ? そんなの、違うに決まってるじゃない」
「そう。人は話しかける相手によって、二人称や語尾、使う単語を調節する。現実と、非現実も、その例にもれない」
「なにが言いたいのよ?」
「…………人はみんな、多重人格者だってこと。あなたが今詰め寄っているのは、網橋理子という器に宿っている「理子」という人間。あなたがいつも観てくれている動画の投稿主は、網橋理子という器に宿っている「Nebburico」という人間。……あなたは、誰に対して文句を言いに来たの。あなたは、いったい誰を見ているの」
「そ、そんな難しいこと、わからないわよ…………」
「……用は済んだ? じゃあ、私はこれで」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
「……中等部三年二組、網橋理子」
「……は?」
「……あなたが文句を言いたい人が決まったら、また会いに来て」
壁ドンしていたアタシの腕を払うと、彼女はアタシを置いて立ち去ってしまった。




