載「憧れ×偶然=ベストマッチ!」
それから、アタシは毎日のように彼女の動画を観るようになった。
彼女の最初の動画は、アタシが小学二年生の頃に投稿されていた。そこから一〜二週間に一本くらいのペースで更新されていた動画の全てを観終えるのは、かなり時間がかかった。
……けれど、決して苦ではなかった。彼女の声を聴くと、心がふわふわとなって、気持ちがよかった。
アタシは、徐々に彼女への憧れを募らせていった。
そんな、小学六年生のある日。
「えっ!? ピンクマがアニメ化!? なにそれ観るしかないじゃない!」
それは、ピンクマを生み出した会社が製作した、ネット配信限定の五分ほどのショートアニメだった。ちなみにピンクマとは、アタシが昔から大好きだった、ピンク色の熊のキャラクターのこと。
「キャストは………………うそ、Nebburicoがピンクマ役!?」
確かに、動画投稿の世界では結構有名になっていたけれど、まさかアニメの声優に選ばれるなんて、思ってもみなかった。
「しかもなによこれ! アニメの放送記念イベントもするの!? 会場は……うん、大丈夫。これは行くしかないじゃない!」
◆
二ヶ月後、アタシは親と一緒にイベント会場のデパートへやって来た。今でこそ両親は滅多に帰ってこないけれど、この頃はまだアタシと出かけることくらいはできたのだ。
イベントは、本当に面白かった。実際にピンクマが現れて(……といっても、着ぐるみなのはさすがにわかってるけど)、実際にNebburico本人も来ていたらしく、彼女の台詞に合わせてピンクマが動いていた。だって、アタシ達観客の質問にも答えていたし。
ピンクマとNebburicoの雰囲気もバッチリだったし、ピンクマに抱きついたり、記念撮影のコーナーがあったり、最高の時間だった。
そしてイベントのあと、アタシは雑貨売り場でピンクマ関連のグッズを見ていた。
「あっ。これって、すぐに売り切れちゃったピンクマの缶バッジじゃない!」
アタシが手に取ろうと棚に手を伸ばすと。
「……あ」
「…………」
見知らぬ女の子と、手がぶつかってしまった。アタシと同じか、ちょっと年上くらいの、女の子。
「そ、それ…………」
「……なに。買うの? 買わないの?」
「……か、買うわよ!」
「……そう。じゃ、あげる」
そう言って、女の子は立ち去ろうとしていた。
「……な、なによ、態度悪いわね…………。ピンクマを見て癒されたあとなのに、気分悪くなっちゃったじゃない…………」
そんな風に悪態をついていると、女の子のところにスラッとした男の人がバタバタと走ってきた。
「ここにいたんですか! 急にいなくならないでくださいよ。あなたの身になにかあったら、俺の責任になるんですから!」
「……すみません知戸さん。ピンクマのグッズってどんなものが売ってあるのか見てみたかったので」
「もう……。……これからは気をつけてくださいよ、Nebburicoさん」
……え?
今、この人なんて…………。
アタシの気持ちをよそに、女の子は振り替えって、こう言った。
「…………現実って、そんなものだから」
「うそ………………」




