行「お土産×代金=ハウマッチ?」
「……オホン。……あ、秋村柑奈? 少々お時間よろしくて?」
説明しよう。
私、厳島映は、略奪百合の真っ最中なのである。自分で言うのもアレなのだが。
「……誰?」
……誰?
…………誰?
………………誰?
誰誰誰誰誰?
「……し、しまったですわぁー!」
「ど、どうしたのよ急に」
説明しよう!
私、厳島映は中学二年生。
彼女、秋村柑奈は中学一年生。学年も部活も異なる彼女が、私のことを知っているはずがない。なのに私は、なんの疑問もなく彼女をフルネームで呼んでしまった。
完全に導入を誤ってしまった。
「……あぁ! この前アタシの名前を呼んでた人!」
……せいぜい、彼女が持つ私のイメージはそんなものであるのだ。
「……そ、そうですわ! そのときの人物ですわ! そ、それよりも、寂しくありません? 一肌が恋しくありません?」
「な、なんでいきなりそんなこと聞かれないといけないのよ?」
「……そう、ですわよね…………」
「……ただいま、柑奈」
「……り……理子!?」
「あ、網橋理子!?」
なんということだろうか。
私の恋敵である網橋理子が修学旅行から帰ってきてしまった。
「ず、随分と早いじゃない?」
「たまたまバスが早く着いたんだよ。……で、まだ校舎にいるかなって思って。……すぐに、柑奈の顔を見たかったし」
「理子……」
むぎゅ。
「……ただいま」
「おかえりなさい、理子……!」
ぎゅう。
「ずっと……ずっと会いたかった……。寂しかった……!」
「ほんの数日じゃないか。……でも、私も会いたかった。お土産、たくさんあるから……空き教室で、一緒に食べよう。今日は、二人とも部活無いし……さ?」
「うん、うん……!」
むぎゅぎゅう。
「……う…………うわあぁぁぁんですわぁー!」
完敗である。
私は悔しくて、思わず廊下を走り去ってしまった。
「……なんだったの?」
「アタシに聞かないでよ」
◆
「あぁあぁあぁー! なんということですのぉー!」
その夜、私は屋敷で夕食のフカヒレスープをがぶ飲みしていた。
「作戦失敗、ですねお嬢様」
「なんですのなんですのなんですの! どうして今日に限っていつも以上にいちゃいちゃしてたんですの!?」
「……どうやら、装置が私達の狙いとは違った方向に作用してしまい、より二人の雰囲気を盛り上げてしまったようですね」
「あの装置は処分ですわ!」
「承知しました、お嬢様」
「……あぁあ体がむずむずしますわ! 網橋理子に向けたあのとろけた顔……なんて麗しいんですの! ますます秋村柑奈に惚れてしまいましたわ!」
「…………こちらも失敗でしたか、ちっ。やはり薬の濃度を上げるだけでは…………」
「なにか言ったんですの?」
「なんでもございません。ただの執事の独り言です」