旅「略奪百合×秘密兵器=ベストマッチ!」
「むきー! 悔しいですわ!」
説明しよう。
私、厳島映は、自宅である屋敷のリビングルームで夕食のステーキをヤケ食いしていた。
「お嬢様、そんなに急いで食べられますと、喉を詰まらせますよ。せっかく高濃度のお薬を混ぜた特注の牛肉を使っているので、しっかり味わっていただかないと」
「余計なお世話ですわ! ……薬?」
「おや、お嬢様にとっては知らない方がよろしかったですか」
「……っ! 捨ててきてちょうだい!」
「……もったいないですが、お嬢様のお望みでしたら、しかたありませんね」
「おかしくなるよりはいいですわ!」
「……決めつけが激しいですね。……そんな、せっかくのチャンスなのに一言も話しかけられずに数日を棒に降ったヘタレなお嬢様に朗報です」
「話を逸らさないでほしいですわ! ……で? どんな知らせですの?」
「ちょろいですね」
◆
説明しよう。
今日、網橋理子が帰ってくる。
これが最後のチャンスである。
「……翡翠」
「はい、お嬢様」
「……アレを出してちょうだい」
秋村柑奈が一人きりで廊下を歩いている今、動き出す時だ。
「……承知しました、お嬢様。……てってれー。『雰囲気増強装置』~」
「どこのタヌキ型ロボットですの!?」
この黒と赤の直方体の装置は、翡翠が注文したものだ。厳島グループの力にかかれば、摩訶不思議な装置を作るのも難しくない。
この装置には二つの差し込み口が搭載されていて、特殊な芳香剤を含んだ棒状のアイテム「アトモスティック」を組み合わせて側面のハンドルを回すことで、様々なシチュエーションを演出することができる……らしい。
「よろしく頼みますわよ!」
「グッドラックでございます、お嬢様」
『うさぎ!』
『ムーディーミュージック!』
翡翠が、装置に二本のアトモスティックを挿した。挿入されたアトモスティックを認識した装置が、対応するスティックの名称を電子音声で示した。
「さあ、演出を始めましょうか」
「見せてやりますわ…………魅惑のティーンエイジャー、厳島映の力を!」
「発音がカタカナ英語ですねお嬢様」
うさぎは万年発情期と言われておりますので。