え!乙女ゲームの世界なんですか?
光と闇さえも別れていない混沌の世界。
ひとつの輝きが生まれ落ちる。
その輝きは、世界を形作る精霊達を生み出した。
次に輝きは、空を大地を生み出した。
そして、最後に人間や動物達を生み出したのだ。
その輝きこそが、万物の母にして、森羅万象を司る精霊王である。
精霊王神話集 第一章より抜粋
「・・・え、それ私の事言ってる訳?」
「皆様、おはようございます!それとも、こんばんはかな?
今日も元気なゆうりちゃんでーす!
・・・じゃないしっ!どうしてこうなったっっ!!」
ことの始まりはもう本当に遥か彼方の、昔も、昔!
一万年程昔だったかなあ?
当時、一般的な何処にでもいるような女子高生だった私。自分の部屋ではまっていた乙女ゲームをしていたら、すっぽーんと床が抜けちゃった。・・・いや、抜けたと言うよりは黒い穴が開いたという方がわかりやすいかなあ?
それで落ちた先は、なーんにもない真っ黒な空間。自分の身体さえ見えないような場所。どんなに叫んでも声すらも、呑み込まれてしまうような場所。
一瞬で混乱して泣き叫んだのは嫌な思い出だなあ。でも、気が狂いそうになった時に心の底から願った。せめて、光りが欲しいって。そしたら、願ったとおりに光りが出現したの。
後は簡単、帰りたいっていう願い以外は自分の願い通りにどんどん沢山のものが出現していった。
そうして、何時の日か私は何故か精霊王と呼ばれるようになっちゃった・・・、てへっ。
「なちゃった、てへっ!
じゃないしっっ!!ふっざけんなあぁぁぁっっ!!!」
今日も今日とて、私はこの異世界に招き入れた何処の誰ともしれぬ元凶へ怒りの雄叫びを上げるのだった。
「お母様、また怒っていらっしゃるんですか?」
「母君はお怒りか?」
私の怒りの絶叫を聴き、やって来たのはすっごい美貌の我が子どもたち。光と闇をそれぞれに司る精霊だった。
帰れないと分かった私がやけくそになって色々した結果、生み出してしまったんだよ・・・。結婚もしてないのに、子だくさんとか有りえんし・・・。
まあ、美形に囲まれることは嬉しいよ。でもさ、平凡顔の私からこんなに美貌を誇る我が子と達が産まれるとは・・・。我が妄想力、侮りがたし!
話は変わっちゃうけど、最近になって気になることが出来た。
私が作ってしまったこの世界、何故か似ているんですよ。私が1万年程前にはまっていたゲームの世界観に!
数百年前にとある名前の国が出来た時は、魚の小骨が喉に刺さったような違和感を感じたものですよ。そうして注目していれば、同じように違和感を抱いてしまう名前の人達が産まれてきて「何かこいつら知ってる気がする」的なことを思ってからは早かった。
もう、一万年も前の事なんてほとんど覚えては無いけど、どうにか多少は思い出せた。まあ、攻略対象とか、ヒロイン、ライバルくらいだけど。
そう、ここは私がはまっていた乙女ゲーム、"百花繚乱~魔法の国で恋は花咲き、咲き誇る~"、略して百花!の世界だったのである・・・。
色々言いたいことはあった、"今流行の転生悪役令嬢とかじゃなくて何でゲームで名前しか出てこない精霊王?!"だとか、"なんで一万年前に召還っ!!"とか色々ねえ。
でもとりあえずは、一番好きだった人物に会いに行くことにしたのである。
私が一番好きだったのは、攻略キャラでも、ヒロインでもなくて、ライバル令嬢なんだよね!
なんていうかさ、お姫様でお転婆なヒロインはあんまり好きじゃなかったんだよ。もうね、ライバル令嬢の婚約者なのに彼女を嫌う公爵子息なんてもっと嫌い。
ライバル令嬢は、まあ何処にでもある設定かもだけどある公爵家の妾腹の娘で、強い魔力があって精霊と契約を結べる可能性があることから父親の公爵へ引き取られ、不遇の日々を送ることになる。そんな対応にもめげずに、努力を重ねて知識も教養も国一番とも言われる令嬢に成長するけど、結局お姫様に全てを奪われてしまう。・・・悲惨だよね。
決して汚い真似はせずに堂々とした態度で、恋も、魔法も、勉学も、ライバルとして立ちふさがった彼女は素敵すぎだしっっ!
そんな彼女よりも、ヒロインを選ぶなんて目玉腐ってんじゃないのっっと何度叫んだことか!
まあ、そんな事は置いといて大好きなライバル令嬢がいるかも知れないとなれば、会いに行って来るしかないじゃない!!
「お前のような黒髪の女は好きじゃない。
両親の決めた話だから側に置いてやるだけだっ!
好かれているなんて勘違いするなよ!!」
「・・・はい、マルセント様。」
「ふんっ!」
金髪の少年が婚約者となった黒髪の少女へ酷い言葉を吐き捨てる。黒髪の少女は俯き、唇を噛みしめ泣くことだけは耐えようとしている姿はあまりにも痛々しかった。
「アンの糞ガキ、何つー事をっ!天罰下してやろうか!!」
この時期すでに公爵家へ引き取られている幼いライバル令嬢とその婚約者の姿を裏庭に見つけ、隠れて見守っていると婚約者は一方的に喚き立てて、さっさとライバル令嬢を置き去りに屋敷の中へ戻っていく。そんな後ろ姿を悲しげに見つめる少女を見ると悔しくてたまらなかった。
「え、誰かいるの?」
思わず叫んだ私の声に何故かライバル令嬢が反応した。そうして、きょろきょろと辺りを見回して木の影にいた見えないはずの私と目が合った。
「・・・え?
貴女、私の声が聞こえるだけじゃ無くって、姿も見えちゃうの?」
「・・・。」
「ああ、ごめんなさい。
ええっと、怪しいものじゃないんだよっ!
いや、木の陰から見てるとか十分怪しいし・・・、でも身分を証明するものなんてないしっ・・・。
うぅぅ、困った。どうしよぉ・・・?」
私の姿に警戒するライバル令嬢の警戒心を、少しでも取りたくてワタワタと焦りまくる私の姿が面白かったのかクスクスと笑い出すライバル令嬢。
その姿が可愛くて、私は思わず頬を緩めてしまう。
「笑ってしまってごめんなさい。お姉様、貴女は誰ですの?」
「・・・うっわ、お姉様呼びとか最高過ぎて気絶しそうなんだけどっ!
ああ、ごめんね、私はゆうりだよ。・・・旅人かなあ?」
「ふふふ、面白い方。自分が旅人かも分からないなんて。」
そんな可愛らしいライバル令嬢と知り合う事が出来た私。この出会いを境にたびたび彼女とたわいもない話しをするためだけに会いに来てしまう私であった。
出会った日から数ヶ月、定期的にライバル令嬢とは会っている私であるが最近我慢できなくなってきていることがあった。それは、ライバル令嬢の婚約者の態度である。何かにつけてライバル令嬢を貶めるような事しか言わない糞ガキ。はっきり言えば、私の我慢がぶち切れてしまったのである。
「ふん、妾腹の子の分際で僕の婚約者となれたんだ。
それを認めてやっている僕に、お前のような奴は口答えせずに従っていればいいんだっっ!」
「ですが、勝手に子どもだけで精霊を召還するなんて危ないです!」
「黙れっ!」「きゃあっ!!」
子どもが精霊を召還するなど、無謀なことをしようとする糞ガキを必死で諫めるライバル令嬢に対し近くにあった飾りの水晶玉を投げつける糞ガキ。それはライバル令嬢の額に命中し、血が流れ始める。
「お前が悪いんだからなっ!この僕の言うことを聴かないからっ!!」
ライバル令嬢の願いで手を出さずに見守っていた私の我慢はとうとう限界に達した。
ごおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!
魔力を含んだ風が逆巻き、ライバル令嬢以外の全てのものを吹き飛ばす。風が止んだ頃には、部屋の中はめちゃくちゃに荒れ果てていた。大きな物音と、突然強大な魔力が出現したことに気が付いた人間が駆けつけた頃には、私の意識は腕の中のライバル令嬢にのみ向けられていた。
「ロゼ、大丈夫?
女の子になんて酷いことをするのかな、この糞ガキは。」
「お姉様、どうして?」
周囲の喧噪など無視して、自分の力を使ってライバル令嬢、マリーロゼの傷を癒す。彼女にだけ向ける温かな優しい魔力、それ以外のものには押しつぶすような凶悪な魔力を向けておく。
「貴女は、貴女様は一体っっ!!」
糞ガキの親であり、魔法庁長官でもある男が叫ぶ。そんな言葉なんて無視して私はロゼに喋りかける。
「ねえ、ロゼ。マリーロゼ、私と契約を結ばない?」
「契約?
でも、契約は精霊と人間が結ぶものだわ。」
「うん、だから契約。だって、私は精霊の一人だもの。
ねえ、ねえ、びっくりした?」
「・・・最初の時にあんな言葉を溢しておいて、気が付かない方が可笑しいと思うの。」
「え、ばれちゃってたとか・・・。びっくりさせたかったのに!」
「ふ、ふふふ。本当にお姉様ったら・・・。
・・・宜しいのですか?私などで、私は・・・。」
「人間の価値観なんて、私にとっては糞以下よっっ!!
少なくとも、その糞ガキやその血に連なるものとは契約など結びたくもないっっ!!!」
「・・・お姉様。
ありがとうございます。どうか、私と契約を結んで下さいまし。」
私達の会話に周囲が再びどよめく。私が精霊と言うことがわかったんでしょうねっっ!!
しかも、精霊の中で私のように人間に似た姿に具現化出来るものは、人間達の常識では高位精霊のみだと言われているからね。
私達の会話に周囲が息をのみ、注目していることを意識しながら高らかに宣言する。
「マリーロゼ!貴女と契約するわ!!
我は、森羅万象を司りし者、精霊王なり!!」
『っっ!!!!』
「ねえ、ロゼ。先に謝っとくね。
こんな糞みたいな家に貴女を置いときたくないの。
だから、誘拐しちゃうね。」
「構いませんわ。私もこのような家に好きでいた訳ではありませんもの。」
周囲の驚愕など無視して、私達は笑い合い、手を取り合って、姿を眩ませたのだった。
一万年の遙かな時を過ごした中で、私は今が一番幸せだと思います。
ちなみに、人間達がどうなったかも、乙女ゲームが始まったかも、ぜーんぜん興味の無い私だったのである。




