表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最良の道  作者: 日咲ナオ
8/17

来訪者 1

『結論はひとつでも、行き方はいくらでもあるのです。その中で、最良の道を選ぶべきでしょう?』

 時に強く、時に優しく、時には諭すように。ノエルの耳の中で、きっぱり言い切ったドロシーの言葉が響くことがある。

 彼女の声がよみがえると、無性に会いたくなる。顔を見て、声を聞いて、かすかだがさまざまに変化を起こす表情を、ただひたすらジッと眺めていたくなるのだ。

「おい、キース」

「何でしょうか、殿下」

「ケチケチしないで、もっとドロシー嬢の情報を寄越せ」

 よほど思いがけない言葉だったのか、キースがあからさまに驚く。

「そんなに、ドールが気に入りましたか? まあ、知的なことへの好奇心は旺盛なんで、殿下と話もよく合うでしょうし」

 ニヤニヤと笑うキースに、ノエルは露骨に鼻白む。

 どんな話でも、ドロシーは彼女なりに考えて、きちんと受け答えをしてくれる。

 姉妹でありながら、リリアンは聞いていないか、聞いていても「殿下って、たまにおかしなことを言いますよねー」とあっけらかんと答える。

 いつも華やかに着飾ってはいたが、褒める気にもなれなかった。言葉を交わすことも、かなり少なかっただろう。

 正直馬鹿らしくなって、城へ呼ぶこともなければ、来ても短時間で別れていた。

 そもそもの姿勢が違うのだから、扱いも興味の湧き方も別物になって当然だ。

「あ、そうそう」

 ひと言何か言ってやろう。そう思ったノエルが口を開きかけたところで。キースはさも今思いつきました、という顔で、左の拳で右手のひらをポンと叩く。

「今朝、タイン辺境伯宛てに、シプリー子爵とドールの婚約を白紙に戻す旨を伝える手紙を出しました。ドールを、ちゃんと支えてあげてくださいね」

「そうか。では俺も、ヘイデン辺境伯に宛てて、正式に出さなければならないな」

 すぐさまドロシーとの婚約とはならなかったため、今までのんきに放っておいた案件だった。しかし、ドロシーの婚約者が空白となったなら、こちらもまっさらな状態に戻さなければならない。

 感情の起伏は、決して激しくない。かといって、感情がないわけではない。きちんと見ていれば、喜怒哀楽がはっきりと示されている。特に目と口元は、言葉よりも多くを語ってくれた。

 ただ、そういった性格ゆえか、知らず知らず我慢に我慢を重ねているようだ。ある日突然ポキッと折れて、バラバラに壊れそうで怖い。

 ドロシーを見ていると、時折そんな感覚に襲われる。

 人に言わせると、姉のリリアンは『様々なものから守ってあげたい』と思わせる少女らしい。そんな気にはまったくならなかったが。しかしドロシーは、『そばで支えることで、壊れることから守りたい』と思ってしまう。

「……書けたら、お前に預ける。ヘイデン辺境伯に渡してくれ」

「のんびり待ってますよ、殿下」

 笑みを浮かべたキースは、するりと滑るように部屋を出ていく。

 芯の強さは、外見の冷ややかな印象をより強める。まったく笑わないのかと思いきや、面白いと感じれば笑みを見せた。自己主張は控え目だが、譲れないものは譲れないと、きっぱり言い切れる。

 キースやリリアンに似ているところはあれど、全体的には似て非なるものだ。

 仕事上でつき合うならば、キースがいい。時間つぶしの話題には、リリアンのような娘がピッタリだ。だが、長い時間をともに過ごすなら、一緒にいて疲れない、心地よくて時間を忘れる相手がいい。

 そう、たとえば、ドロシーのような。

「……俺には、少しばかりもったいない花だな」

 持って生まれた資質と、キースの『育て方』がよかったのか。彼女はきっと、いい王太子妃になれるだろう。

(……だが俺は、彼女にふさわしくあれるだろうか)

 彼女は、徹底的に庇護され続けることをよしとはしない。自分の力が及ぶ範囲なら、自力でどうにかしようとするだろう。

 ただし、その結果が悪い方向へ転がりそうな時は、きちんと誰かに頼る少女だ。

(今のところ、キースの方が頼られているんだろうが……)

 いつか、彼女に助けを求められるようになるのか。

 王子と呼ばれ、王太子となってから初めて、ノエルは自身に対して不安を感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ