命より優先すること。
世の中には自らの命よりも優先することが偶に存在する。
俺は普通の農家の家に生まれて家族と一緒に過ごし、可愛い恋人と甘い時間を楽しんでいた、このままこの時間が続くものと思っていて…………。
「…………………。」
ふと目が覚める、特に理由は無かった、ただあの幸せな夢を見続けてはいけないと思った。
「お目覚めかいご主人?。」
背後からしわがれた老人の声がする、振り返っても姿は見えないので振り返ることはしない。
「もうすぐお前の望みが叶う、あの時交わした契約も完了される。」
この声の主は悪魔この世界では現世に顕現するために人間に甘い言葉と魅力的な能力で契約させ魂を奪い取る怪物だ、俺が悪魔と契約したのはそうしてでも守りたい約束があったか らだ。
起きてから数時間歩いた、周りには手入れがされず荒れ果てた畑、未だに燃え続ける民家、だがこんな状況に関わらず人の気配は全くしない。
目指す場所は分かりやすい、この辺りの地主の家そこが目的地だ地主は優しく納税をギリギリまで待ってくれるようないい人だ、今は居ないが。
屋敷の前についた、少し前まで立派だった屋敷は今では薄暗くまるで幽霊屋敷のようだ。
門は開いていたどうやらアイツは俺を待ち構えているつもりらしい。
屋敷の中に入り進んでいく、アイツの場所は分かるから迷わずにそこに向かう、ついたのは寝室、扉を開けて中に入る中には人は居ない、人の形をした何かは居る。
「………よく来たな歓迎するよ。」
人の形をした男はベッドに優雅に寝そべり此方に声をかけてきた。
話をする理由も必要もない、俺は右手で扉を引きちぎるとそれをベッドに向けて投げた、扉はベッドに根元まで突き刺さったふ普通ならこれで終わるだが普通ではない。
「少しは話そうじゃないかなぁ、久しぶりの再会なだぞ。」
男は突き刺さった扉の間に先ほどのように座っているだが先ほどとは少し違う、ベッドの足下には新しい人影がいるどうやらそいつがベッドを真っ二つにしたらしい。
「君の愛しい彼女も君と話がしたいそうだぞ?。」
男は立ち上がり人影に近付く、俺はその言葉を聞いて身体の中が怒りで満たされていくのを感じた。
男は表情のない彼女の髪を愛おしそうに撫で始めた。
「さぁ、僕の愛しい君………アイツを殺せ。」
耳元で囁かれた途端彼女の目に光がともり人とは思えぬ速度で此方に突っ込んできた、気付いた時には俺は部屋から吹き飛ばされ空中を飛んでいた、そう分かっていた彼女はもう人ではない悪魔なのだと、床に受け身をとれずに叩きつけられる、せき込みながら立ち上がる。
「ご主人、今更躊躇するのか?。」
頭に奴の声が響く、彼女も降りてきたらしい両手に拳大の火の玉を持っていてそれを投げつけてきた、右に転がってかわす、火の玉は地面に当たった直後に爆発を起こし俺は吹き飛ばされた。
躊躇した訳じゃないただ驚いただけだ、俺が愛した彼女が生きていた頃のままで俺の前に表れたんだ、だがこれで覚悟は出来たやるべき事を見直せた。
俺は身体に纏っていたローブを投げ捨て腰の短刀を右手に持った、短刀は全てが黒く塗り潰されているが所々にルーンが刻まれた代物だ。
「それで何をするつもりかな?。」
男の高笑いが響く、そんなに見たいなら見せてやろうこれの使い方を。
俺は手に持った短刀を自分の心臓に突き刺した。
血は出ない、痛みもない、短刀は身体の中に吸い込まれていく。
「………よい旅路をご主人。」
奴の笑い声が最後に聞こえた。
男が驚きに固まっている、俺は彼女に近付きその心臓を右手で貫ぬき心臓を握り潰した、次は男だ。
「…………待て、謝るから、お前の欲しい物はやるから!!、頼むから命だけは助けて………。」
男が何か言っていたが俺はそれを無視して奴の頭を蹴り飛ばし頭蓋を粉砕した。
これでやっと眠れる、俺は彼女との約束を果たした、悪魔と契約してまで果たしたかった願いは彼女の肉体を滅ぼし悪魔を滅する事同時に約束だった。
身体に力が入らないな、俺の魂は悪魔の物だから来世は無いのか、あぁ最後に彼女の声が聞きたかった。
後日辺境の村で行われた悪魔儀式の処理を行うために大勢の騎士とエクソシストが派遣された、だがその村には悪魔は存在せず変わりに契約者と思われる遺体が二つ、片方は頭部を失っているおり身体に刻まれた刻印からこの事件の犯人と推測される、もう片方は満足そうな笑みを浮かべた18歳の少年だった。
報告書より抜粋。
勢いとノリで書いた作品。