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野良怪談百物語

映画館

作者: 木下秋

 ……俺の生まれた町にはね。地元民から、“お化け映画館”って呼ばれてる映画館があるんだよ。


 俺が小っちゃい頃からそう言われててさ。なんでも、『そこで映画を見てると、知らないうちに誰かが隣に座ってる』とか、『スクリーンの前をいないはずの子どもが横切る』、とかさ。そんな不気味な話が、噂として広まっていた。なんでも、『そこは昔、墓地があった場所だった』……だなんてさぁ。……ベタな話だろ?


 まぁ子どもの頃はそれなりに怖かったんだけどさ。でも、高校生くらいの年頃になると、そんなの信じなくなるじゃんか。……俺も、そんな風にさ。十七、八くらいの頃には、もう信じてなかった。それにその映画館は駅前にあって、近かったからさ。わざわざ電車に乗って違う映画館に行くのもメンドウで、よくそこに通ってた。……昔は映画も、今より安く見れたからなぁ……。


 一番よく行ってたのは、高校生の頃だった。よく授業サボって、一人で行ってたよ。平日の昼間なんて貸し切り同然でさぁ……。



 ――あっ、そういえば。一回だけ、不思議なことがあったんだよ。



 確か、高校二年生の時だった。……その日も高校サボって、俺は映画館に行った。……その日見たのは、ホラー映画だった。“ゾンビ”もののさ。そこでホラー見ると、なんか雰囲気あってイイ感じだったんだよなぁ……。


 あぁ、それでね。劇場入ったら、貸し切りだったんだ。俺以外、だぁれもいなくってね。「ラッキー!」ってんで、ド真ん中の席に陣とってさ。結局、映画が始まっても誰も入って来なかった。



 ……それで、映画を見てたんだけどさ。……俺ジッとしてるのが苦手でね。行儀悪いんだけど、靴脱いで椅子の上に胡座かいたんだ。どうせ一人だし、関係無ぇや、ってね。


 そのまま二時間近く、集中して映画見てた。これがおもしろくってねぇ……。今でもゾンビ映画の中で、傑作と言われてるやつだったんだ。「いやァー、いいもん見たなぁ」なんて思って、帰ろうとしたんだけどな。



 ――……靴が無いんだ。



 ……ワケわかんないだろ⁉︎ 「えっ……」ってな感じで、そりゃあビックリしたよ。だって、間違いなく靴を脱いで、そこに置いたハズだったんだ……。それが、映画終わって明るくなったらさ。……無いんだ。どこにも。もちろん椅子の下とか、探したんだ。……でも、無いんだわ。見つかんない。…………周り見たら、やっぱり誰もいないんだよ。……思わず笑っちゃったね。ははっ。「ウッソォ〜⁉︎」っつって。


 …………えっ? どうやって帰ったかって? ……そりゃあ靴下履いてるとはいえ、裸足で帰るのもなぁー……ってさ。近くの靴屋行って、一番安い靴を買ったよ。




 …………あの映画館、今でもあんのかなァー…………。

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