表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

3

「君はなんなんだ。」


電話を終え、隣の席に座る見ず知らずの私に目をやった彼は、iPhoneをカウンターに置きそう言った。


思えば空港に着いてからずっと泣いている気がする。とめどなく流れる涙を一度も拭わずひたすら泣いていた。化粧なんて剥がれ落ちてしまったのだろう、マスカラが目に入って痛いことにも今気が着いた。


「失恋でもしたのか。」


なんなのこいつ。

見ず知らずの隣に座った女子大生が、いくら泣いているからと言って、人のプライバシーにズケズケと。

失恋なら、どれだけマシなことか。


「…違いますけど。」


「では何故そんなに泣いているんだ。」


違うなんて言わなきゃ良かった。

答える義理なんてないのですが。

このカフェは泣いている人間は立ち入り禁止なのだろうか。


「答えたくありません。」


「教えてくれ、なんで泣いている。」


もう、なんなのこの人。

俳優のように整った顔立ちの中年男性は、眉間にシワをよせて私に問いかけ続ける。


「悲しくて悲しくて、心が潰れて、死にたいくらい辛いから。あなたにはわからないでしょうけど。」


私はとても面倒になって、見ず知らずの彼に涙を流しながらそう伝えた後、食べ終えていないサンドイッチと、飲み終えていない紅茶を残し席を立った。


お会計をしてカフェの外に出ると、空港内の色んな音が聞こえてくる。


子供の泣き声、恋人を呼ぶ声、友達同士の会話、グランドホステスのアナウンス。


全てが知らない国の言語に聞こえた。

違う世界に来てしまったような、取り残されたような違和感。


母が亡くなったなんて嘘に決まっているんだ、そう言い聞かせ歩き始めた瞬間に、目の前は真っ暗になった。








私は横になっていて、目を開くと見覚えのある中年男性が座っていた。


「なんで。」


「君が急にカフェを出て倒れた。貧血のようだったから、グランドホステスを読んで空港内の救護室に連れてきた。良かったな、泣きやめて。」


あぁ、もういっそこのまま目を覚まさなければ良かったのに。

そしたら母の元に行けたのに。


「君は死にたいほど辛いと言ったが、死にたいほど辛いこととはどんなことだろう。」


なんなの。ねぇ、なんなの。

見ず知らずのあなたに何で言わなきゃいけないの。なんでそんなに知りたいの。


「関係ないじゃありませんか。」


わたしがそう言うと、彼はすかさずこう言った。


「悲しい気持ちがわからない。死にたくなるほど悲しい気持ちとはどんなものなのか。僕にはそれが必要なんだ。」


なんなの、気持ち悪いんだけど。

ベッドから出た私は、この顔だけ整った気持ちの悪い男と目も合わせずに、荷物をまとめて救護室から出た。





「必要なら代わってよ。」





ぼんやりと呟いた言葉は空気にかき消されてなくなった。















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ