―11.昼食攻防戦―
いよいよ昼食の時間がやってきた
終業のチャイムが鳴ると翔は勢いよく廊下を出た
目標は瑠莉のクラスであるC組。場所は三階の端に位置しているため、そこにたどり着く為には階段を一回登り、廊下の端まで行かなければならない
しかし思うように事は進まない。ロスなく廊下へ出てきたにも関わらず、すでに階段の方向にはわざわざ翔を邪魔するかのように男達が立ちふさがっていた
その男達はみな襟元に青いピンを付けている。よく見るとピンには大きくアルファベットで「RS」と刻印されており、翔はそれをつい最近見た覚えがあった
(なるほど…|令嬢守護会(RS)ということか)
やはり休み時間に瑠莉の元へ行ったことが広まっていたようだ。翔は気づかれないうちに廊下の柱の出ている壁の隙間に身を潜め耳を澄ました
「そろそろ来るころだ。皆警戒しろよ」
「令嬢をあんな男と食事させてはいけない。何されるか分からないぞ」
「なんとしてもお嬢様をお守りするぞ!」
どうやら昼食を食べる事もバレているらしい
まあ、あんなに野次馬のいる中で瑠莉に直接会いに行ったのだから|令嬢守護会(RS)の連中が知らないわけがないだろう
彼らの目的は一緒に昼食をとらせないこと。翔は昨日一緒に帰ったことと今日の集会での態度で超危険人物に躍り出た人物である。彼らにとって翔が瑠莉に近づくのは死活問題であろう
(やはり来たか…それにしても瑠莉ってこんなに人気があったとは)
この短時間での情報の伝達速度と迅速な対応を見る限り|令嬢守護会(RS)にはかなりの人数が所属していることが分かる
あんなに人と距離を置いていたにもかかわらずそれほどの人数を夢中にさせるのだ…瑠莉はそれほどまでに人を惹きつける魅力があるのだ。伊達に令嬢ではないというところか
翔はそのまま階段で行くことを諦め、今度は下の階へ移動して昇降口へ向かった
翔は昇降口へ着くとすぐに一度周囲を見渡したがやはり授業が終わったばかりもあってかほとんど人の気配がいなかった
その後昇降口から外へ出ると、翔は人へ悟られないようにすばやく校舎の裏へ回った
校舎の裏で日陰になっている場所には螺旋状の階段があった
これは白銀高等学校が設立した当初からある非常階段である。以前は避難訓練などで用いられていたが今では中央ドームへの連絡通路ができておりほとんど使われることがなくなり、今では知っているものはほとんどいない
しかしその本来の機能は今も健在であるため、この階段を使えば目的の階へ移動することができる
翔は颯爽と目的である瑠莉の階へ足を進め、扉を開けると…そこにはRS会長の「執事くん」が仁王立ちしていた
「…やるじゃないか会長さんよ」
「いえいえ、まさかとは思いましたがこの非常階段まで知っていたとは…念のため待っていて正解だったようですね」
そういうと翔の腕をしっかりと握った。冷静な言葉とは裏腹にその握る力は強かった
「俺をどうするつもりだ?」
「わたくしたちは瑠莉お嬢様を守護する義務がありますので当然あなたのような危険人物と昼食を一緒にするなど絶対にさせません。あなたの昼食はわたくし達と一緒にとりましょう」
「…それは俺の命を差し出せという意味と解釈しても?」
「いえいえ。危害を加える気は一切ありませんし、そんなことをしたら瑠莉お嬢様が悲しむでしょう。あなたにはお嬢様とよきご学友でいてもらいたいのです。そのために色々とお話をしたいと思います」
「…で、本音は?」
「どうやって瑠莉お嬢様の仲良くなったのかすごく知りたいです!そしてその方法でわたくしともお話をして微笑んでいただきた……って、そんなわけないじゃないですか!」
「本音、駄々漏れしてる!」
「そ、そんなわけないですよ。そんなこと思っておりません!」
「ソウデスネ、ソンナワケナイデスヨネェ」
「し、信じていないようですね!やはり誤解を解くためにも今日はわたくしたちと…って待ちなさい!!」
執事くんが気がついたときにはすでに翔は駆け出していた
翔は制止の声を無視して一足飛びで非常階段を下りると、今度は校舎内に入っていった
靴を変え、再び階段に差し掛かると今度は1階からすでに男達が集まっていた
数にしておよそ5,6人というところである
「いたぞ!」
翔を発見するとその中の二人が捕まえようと向かい、残りの人数で階段を囲んでいた
相手をギリギリまで近づくと大きく左右に動き2人をかわした。そのまま階段のほうへ向かうと勢いよく飛び上がった
その跳躍力は凄まじく、囲んでいた男達を越えて階段の上段部分へ着地した
男達は一様に信じられないといった表情をしていたが、すぐに翔の後を追いかけ階段を駆け上った
一方の翔は男達の表情を見ずにその勢いのまま次の階へと向かう
しかし2階フロアにたどり着くとその勢いは止められてしまう。そこには1階にいた人数の倍近くの男達が立ちふさがっていたのだ
「いたぞ!みんなで確保しろ!!」
2階にいた男達は次々と階段を下りて翔との間隔を縮めていく
さすがにこの数を一足飛びすることは難しい。ましてや助走のとれない階段ではなおさらである。魔法を使えば(正式には使うふりだが)なんとかなるだろうが、基本的に校内での魔法の使用は禁じられている
このまま引き返そうにも下からも追手は来ており、まさに挟み撃ちされている状態である
(困ったな…このままじゃ捕まる)
翔は周囲を見渡しながらこの状況を打開する方法を考えていた
すると下ってくる男達の方向を見て、悪手だが状況を打開する方法を見つけた
やがて上の男達と下の男達との距離がほとんどなくなり捕まりかけた瞬間、翔は階段の手すりに飛び乗った
その行動が予想外だったのか上下の男達は勢いを殺す事が出来ずにぶつかり合い、やがて団子状態になった
その様子を見ながらそのまま1階まで一気に滑っていった
「なんとか逃げ切れたけど…これじゃ振り出しに戻っただけどよな」
無事に着地すると翔はため息まじりに独り言をつぶやいた
結局捕まりはしなかったが、今いる場所は1階…つまり初めの位置に戻されてしまった
瑠莉の教室までの道のりまではどうやら険しいようだ
「「「まてまてまてまて!」」」
そうこうしている間に男達は体勢が整ったのか一斉に追いかけてきた…心なしか目が血走っていて正直怖い
「とりあえずは逃げるしかない、かっ!」
その場は逃げるが最善と判断し翔は勢いよく逃げ出した
その後も何度か色々とチャレンジするがどれも上手くいかず、ただ時間だけが過ぎていった
やがて15分ほど経過したところで翔の携帯電話が鳴った。逃げながらのため確認はできなかったが…どうやら時間が来てしまったみたいだ
「タイムアップ、か」
翔は走るのを止め、方向転換をして追いかけてきた男達の元へ向かった
「あんたの所の会長さんと話がしたい。電話出来ないか?」
あれだけ逃げ続けていた人物がいきなり話しかけていたので男達は戸惑ったが、翔が逃げる様子がない事を確認すると会長と繋がった携帯電話を翔に渡した
『弓野翔くん。あなたからわたくしに連絡したいとはどういう風の吹き回しですか?』
「これ以上はお互いのために意味のないことだと思って電話したんだ。俺はこれから戦闘訓練があるから準備をするために自分の教室へ戻りたい」
『それは難しい相談ですね…』
「それに今回は瑠莉と二人で食事するのは中止することにした」
『それは本当ですか?』
「疑うのなら送ったメールをここにいる全員に見せる。それでも信じられないのなら戦闘訓練室まで監視をつけてくれてかまわない」
そういうと一旦携帯電話を返し、男達に翔が送ったメールを見せた。そこには「ごめん、今日は予定が入ったから学食で昼食とることできそうにない。ほんとごめんな」と書かれていた
それを男達に見せると小さなどよめきが起こった
一旦携帯電話を返してほしいといわれ返すと執事くんと男達で話し合いが行われているようだ
少し経つと話がまとまったらしく再び携帯電話を渡された
『…わかりました、あなたのいうとおりにします』
「感謝する。でもこういうのはこれっきりにしてくれ」
『それはどうでしょうね…わたくしたちも使命がございますし』
「随分と過保護だな。ご学友って言うんなら食事くらい一緒にしてもいいと思うけどな」
『ご学友のままで、いていただけるのなら喜んで』
「…その辺は今後話し合うことにして、俺はそろそろ向かうぞ」
『その携帯電話の持ち主に監視させてください。それではまた』
執事くんはそう言い残して電話を切った
(これは本当に話し合ったほうがいいだろうな)
話をした限りでは今後も妨害をしてくることがよく分かった
毎回こんなのでは面倒で仕方がない。翔はため息をつきながら後で解決策を考えることにした
「これの持ち主の人。俺と一緒に戦闘訓練室まで来てくれないか」
翔が男達に話しかけると、その中で長身で屈強な身体の男が1歩前に出てきた
その男は無言のまま携帯電話をもらうと、翔に一礼した後に3歩後ろのところへ移動した
どうやらその位置から監視するらしい…翔はそれを気にしないように自分の教室へと行った
教室内に入ると監視の男はドア付近で手を後ろに組みながら待機していた
その姿はまるでボディーガードのようで、翔が準備をしている間も注意深く周囲を見渡している
やがて翔はいつもの青いロングコートが基調の戦闘服を装着し、両脇に短剣をひとつずつ携えて教室から出てきたのを確認すると、男は再び元の立ち位置へと戻った
その姿を横目で見ながらため息をつき、両手をポケットに入れてつまらなそうに歩き出した
そのまま翔たちは中央ドームを経由して西棟へ移動して、目的である戦闘訓練室がある1階フロアへとたどり着いた
白銀高等学校の西棟は全部で5階建ての大きな建物である
ここでは自分自身の月の魔術の制御および強化を目的とした魔法訓練や、魔法の定義や魔法のメカニズムなどを学問として学ぶ魔法学の講義。そのほか魔法と名のつくものをとことん集約した魔法の専門施設である
ここは学生を始め、研究者、先生、政府の人間まで様々な魔法部門の人が訪れることがあり、そのおかげもあってか白銀高校の生徒はいろいろな魔法分野への関心が他の学校と比べて高いのである。この学校が人気である大きな理由にこの西棟の存在が挙げられるほどだ
1階は主に攻撃性の高い月の魔術を持っている者が実戦形式でその能力を高めるための施設が集約されている
ここでは個人で利用できる単独戦闘訓練室が8部屋、複数人で実戦形式で戦うことができる複数戦闘訓練室が4部屋、モニターや観客が入ることができ魔法闘技会に近い形式で訓練を行う戦闘会場が2部屋完備されている
一旦この場所に入室すると緊急時を除き、60分間外へと出ることができない
それは戦闘において月の魔術の活用方法や能力を他人に見られることを防ぐために行われている。魔法闘技会において自分の能力がばれるのは敗北を意味するといっても過言ではない
また基本的に1階の訓練施設は事前予約制で優先順位が存在している。複数人の授業での使用目的やイベントなどが優先順位が高く、個人使用に近ければ近いほど優先順位は低い
また翔や健吾などの「称号」を持っているとある程度の優遇をしてくれるのだ
翔は中央にある予約を確認すると幸いに1番の戦闘訓練室が空いていた。入室の確認のボタンを押しポケットから右手を出すと自分の生命の宝玉を機械にかざした。これによって個人を識別されて使用可能となる
すると控室の横にある1番と書かれた部屋の明かりがつき、ガチャリとロックが解除された音が鳴った
翔はそのまま1番の扉に移動してそのドアノブに手をかけて空ける前に監視の男に声をかけた
「それじゃ俺は訓練するから、会長さんによろしく伝えてくれ」
監視の男は周囲を2、3度見渡してから大きく頷いた。そのことを確認すると翔は戦闘訓練室の中へ入っていった
監視の男は完全に中に入るのを確認するとそのまま階段へと昇り西棟を後にした
戦闘訓練室へと入った翔は、ドアのほうを向いたまま監視の男がいなくなるまで気配を探っていた
「…よし、成功だ!」
そしていなくなったのを確認すると勢いよく室内のほうを向くと…
「よっしゃあ!」とガッツポーズをしている響と
「やったね!」とピョンピョンはねている知美と
「よかったぁ~」と胸に手を当ててホッとしている夕実と
「ん??」となにがなんだかわからずキョトンとしている瑠莉が、そこにはいた
もうしわけございません。
現在、新人賞応募の作品を重点を置いて書いています
このサイトにも載せはじめました
LV1勇者~これ以上レベルは上がりません~
をまず完結させてからこちらの続編を書いていきます。
それが終わり次第こちらも執筆していきます