表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/12

―10.噂の人とー

「はぁ~」

授業が終わるチャイムを聞くやいなや翔はため息をついた

翔の顔からは疲労の色が見て取れる。それが休み時間ごとに悪化しているようだ

「大丈夫?」

翔の様子が心配になったのか夕実が翔に話しかけてきた

「大丈夫っちゃ大丈夫だけど…」

翔はそう言うと横目で廊下の方へ目をやった

そこには話題の人を一目見ようと野次馬がどんどん押し寄せていた。耳をすませると「あいつが噂の美少女ハンターか…」「とうとう令嬢のブラックリストもトップになったらしいよ」「三冠王か!命知らずなやつだ」などと言ったことから今朝起きた事件はどうやら全校生徒に知られているらしい。今では朝と比べて野次馬が倍近くに膨れ上がっていた

「まさかこんなになるとは思ってなかったよ」

「そう、だねぇ…」

その様子を見て夕実も苦笑するしかなかった

「こういうのは前に何度かあったけどやっぱり慣れないな」

「一年前もすごかったもんねぇ」

「そうだな…あの時もしばらく「英雄」だの言われてこんな感じだったな」

「うん。それにそれだけ知美ちゃんと伊藤さんが人気あるって事だよ。二人とも可愛いもん」

「それ言ったら夕実も可愛いだろ」

「えっ!?」

翔の言葉を聞くと夕実の顔が一瞬で赤くなった。が…

「それじゃなきゃファンクラブなんてできるわけないんだし」

「そ、そうかな…」

続いた翔の言葉で赤さは薄れ少し寂しそうな笑顔を浮かべたが、軽く顔を2,3度振るといつもの表情に戻った

「そういえば翔。いつ伊藤さんと仲良くなったの?昨日なんか昼に二人でどっか行ったみたいだし」

「ああ。ちょっとあってな…」

翔は夕実に昨日知美にした内容と同じ説明をした

説明を終えると夕実の口から

「よかったぁ~…翔、ありがとう」

「なんで夕実がありがとう?」

「なんでも!」

「!…ああ」

翔は夕実の顔を見たときになぜ「ありがとう」と言ったのか理解した

…あんなに嬉しそうな夕実を見るのは久しぶりだ

あの「女神」と呼ばれている夕実のことだ、一年前に同じクラスだったときに色々頑張っていたに違いない。そして今のクラスになってからもずっと気にかけていたのだろう

(…まったく、俺の周りは本当にいい奴ばかりだな…そうだ!)

その様子を見てふと思いつき、夕実に確認をとることにした

「夕実は瑠莉と面識はあるんだよな?」

「うん。何度か話したことあるよ」

「そっか。ならちょうどいいか…夕実、今日の昼食は人数が少し増えるけどかまわないよな?」

「え!?私はすごくいいと思うけど…」

何を言いたいか察した夕実は一瞬笑顔になるも、すぐに困った顔で廊下を見た

「ある程度ほとぼりが冷めてからにする?」

「いや。瑠莉とみんなが友達になるには今、この状態で一緒に食べなきゃいけないと思う。」

「そうなんだ…でもこの状況でできるの?」

「正直かなり厳しいけどなんとかしたいな……よし。交渉するか」

「交渉?」

「あいつとだ」

翔がそう言いながら指を差した先には姿勢正しく席に座っている響がいた

いつもなら常に明るく誰かと話しているのに今日に限ってはとても大人しかった

響は翔とともに2時限目から顔を出したのだが、それからずっとあの調子である

「響。ちょっと頼みがあるんだけど」

翔から声をかけられると跳ね上がるように身体がビクッと動いた。よくみると畏怖しているのか表情は強張り、手は震えているように見えた

「翔様。このわたくしめになんの御用でしょうか!?」

「話し方がおかしいぞ?まあいいや。今日ちょっと瑠莉とみんなで昼食をとりたいんだけど…あれをどうにかできないか?」

「あ、あれをなんとかですか!?」

「なんとか協力してくれ…もしできたら今回のこと全て水に流そうと思うのだが…」

「本当ですか!?なんとかします!!」

「ありがとう…それとこれ以上怒らないから普通に話してくれ」

「了解であります!」

まだ変な口調なのは否めないがこれで何とか大丈夫だ

その様子を横で見ていた夕実は頭に?マークを出していた

「翔。響くんと何かあったの?」

「いや、別になにもないよ?」

「そ、そう…?」

二人の態度…の前にこの騒動をみれば何かあったに違いなかったが、夕実はそれ以上何も聞かなかった。翔の表情を見てどうやら言いたくないと察したのだろう

「じゃあ、ちょっと伝えてくるよ」

翔はそのまま立ち上がると廊下のほうへ向かった

あの野次馬の中に入りさらに瑠莉のところに行く行為は、まさに火に油を注ぐようなものである。果たして無事に着けるのだろうか…

その様子を心配そうな目で夕実が見ていたのに気づくと、翔は振り向かないまま

「大丈夫。友達同士で昼食とるのは当然だろ?楽しみにしていてくれ」

「うん…」

「そ、それとさっきのことなんだけど……俺も夕実のこと可愛いと思ってるよ」

「へぇ!?あ、ありがと…」

思いもよらない翔の言葉に夕実は先程とは比べものにならないくらいに顔が赤くなった

夕実の返しを聞かないまま翔は廊下へと消えていったが、夕実はしっかりと翔の顔も赤くなっているのを見ていた

次の時間ギリギリで戻ってきた翔は疲れた顔をしていたが、夕実と目があうと笑顔で親指を立てて見せる。そして翔からのメールで「授業は任せた」と送られてきた

この後の授業を夕実に任せて響とメールのやり取りを秘密裏に行ない、今回の作戦を打ち合わせしていた

授業の終盤にさしかかると再び翔からメールが送られてきた

メールの題名は「最初の晩餐(命名響)」と書かれている。中を開くとそこにはこれからの作戦内容が書かれてあった…確かにこの方法なら落ち着いて皆で食事ができるだろう

すぐさま夕実から「わかった。みんなよろしくね」と返信が来た


これで準備が完了した…あとは授業が終わるのを待つだけである


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ