その1
そこには非常識が満ちていた
建物であったらしい残骸の群れ、
噎せ返るような血臭の満ちた広場には、老若男女の人間であったモノ達。
その全てを纏うかのように
1人の少年が立ちすくんでいた。
その姿は
周りの悲惨な光景を作ったのが少年である
という事実を否定できるほど弱々しい。
少年の紫紺の瞳に映るのは、恐怖、驚愕―――
震える手では、立方体の結晶―カタルシス―が返り血で赤く染まり、光を放っている。
ふいに吐き気を感じその場にへたりこむ。
「これが、純白のカタルシス――White CUBEの威力なのか…っ素晴らしい……っ素晴らしいよっ!!」
吐き気を堪える少年の後で、狂ったように笑う白衣の研究員。
「実験は成功だ。ホントに素晴らしい成績だ…ひっはははっ」
狂喜に震える研究員は
骨ばった手で少年を立たせ、
慈愛のつまった目で少年の手にある結晶を見つめる。
「合格だ、No.923クン。君に存在権を与えよう。組織の手足となり働いてもらう」
少年には何も聞こえない。
正しくは、何も響かない。
思考を埋めるものは
数秒前の日常的な景色。
今目の前に広がる惨劇。
真っ赤に染まった自分の手の中で、白い立方体が脈打っている。
(…なに…これ気持ち…悪)
自分の一部になっていく感覚。鼓動が重なって………いく…
(…いやだ…気持ち悪い……)
そして少年は叫ぶ
声にならない叫びは心の内に留まり、自分を締め付ける。
我が身を否定する。
自分への嫌悪と共に流れ出る負の感情に身を任せ、
少年は意識を閉ざし、
暗闇に自我を逃走させた。
これは
人の想いを巡るおとぎ話