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ねた的な小説  作者:
7/28

貴族と奴隷

 自分が他の人間より目立つ容貌を持つのは自覚していた。

 もともとクォーターであり先祖がえりといって良いほどの容貌に加えて銀の混じったような赤髪に金の強い赤い瞳はよからぬ者たちの関心を惹き付けるに十分らしく変質者やら誘拐騒ぎに巻き込まれたことは数知れない。

 だが、まさか自分が異世界に来るという異常事態に巻き込まれた挙げ句に右も左も分からない状態のときに最初に遭遇したのが奴隷商人だったのはどんな神様の嫌がらせですか?と言いたい。


 「はぁ・・・・」


 考えると溜息が出る。

 普通なら異世界に来たというだけで人生の一大事だというのにそこのところよりも目下自分の人間としての尊厳が失われていることの方が彼女にとっては大事だった。


 「どうしたもんだか・・・・・」


 捕まった時も檻に入れられた時も商品としてものすごく露出の激しい服に着替えさせられた時も力の限り暴れて叫んで抵抗したのだが結局の所彼女は今回の目玉商品として舞台に上げられようとしている。


 「ったく・・・・人を商品扱いしてんじゃないわよ!この××××!」


 小さく毒付いた彼女の言葉にたまたま側にいた見張り役がぎょっとしたように檻に入れられた少女を見た。

 鳥かごに似せて作られた檻の中に居るのは珍しい髪と瞳の色を持った極上の美少女。

 銀の混じった赤い髪は綺麗に結い上げられ紅玉のはめ込まれた髪留めが光っている。纏っている白い衣装は彼女の赤い髪と瞳をよくはえさせており耳元でゆれている雫型のイヤリングも極上の紅玉だ。

 そしてそれらの装飾品の美しさに引けを取らないどころか全てを引き立て役にしてしまうほどの美しさを持った少女。紅を差さすとも赤い唇・真っ白な処女雪を思わせる肌。そして何よりも惹き付けられる、その瞳。強い意思を宿したその金紅の瞳に眼を奪われてしまう。

 男なら誰でも手に入れたいと思うほどの容貌と魅力に溢れた少女がえらく荒れた口調で下町のゴロツキが言うような言葉を口走ったのだから見張り役が眼を丸くして少女を見たのは仕方がないだろう。

 しかもえらく凄惨な瞳でこちらを睨みつけてくる。


 「ああ?なによ?何見ているのよ?見せもんじゃないのよ?お金取るわよ?」


 もうこの段階でどれだけ綺麗な格好をしていてももうただのゴロツキにしか見えない。

 ついでに言えば彼女は盛大に「見世物」にこれからなる予定なのだがそこを突っ込む勇気は彼にはない。言ったら自分は最後だと本能が悟っていた。

 盛大に据わった眼で睨みつけてくる少女に見張りの男は冷や汗を流しながら眼を逸らした。


 「けっ!根性なし」


 「・・・・・・・・・・・・・」


 今、見張りの生存本能は安堵しているが男の矜持は盛大に砕け散った。

 煤けた見張りを他所に舞台から合図がよこされ少女が乗った檻がフワリと浮いた。


 「うわっ!」


 人がいないのにフワリと浮んだ檻の中で少女が慌てふためく。


 「な、なに?ま、魔法?」


 すっと音もなく舞台に向かう檻に周りの誰も驚いていない所を見るとどうやらこれは当たり前のことらしい。


 「剣と魔法の世界?」


 あながち間違いではなさそうと思っているうちに檻が舞台の中央に到着する。


 「さぁ!皆さんお待ちかねの本日の目玉商品です!」


 檻の中にいる少女に向けられる眼・眼・眼。

 その視線に醜悪なものを感じて少女は顔を歪めた。


 「銀が混じった赤い髪・金紅の瞳を持った美しい少女。妾にするもよし本妻にするもよし!いや~~お金があったら私が落としたいぐらいの掘り出しものです!まさに本日最後の商品に相応しいといえましょう!さぁ、お値段は100万ガラからスタート!」


 この世界の貨幣価値は分からないが会場が騒いだところをみると結構なお値段らしい。だがすぐに「110」という声が上がり見る見るうちに値段が釣り上がっていく。

 それほどの価値をここにいる人間は少女に認めたということなのだろうが正直少女にとってみれば「気持ち悪い」の一言である。

 えらく熱くなった会場とは裏腹に少女の顔はどんどん冷たいものになっていく。足と腕に飾りのように細工された鎖が巻かれているため暴れられないが幸い口は塞がれていない。

 少女は一度深呼吸をしてもう一度会場を見る。

 どれもこれも醜悪で最悪な顔ばかり。

 人間を売り買いすることになんの疑問も持っていないのだろう。

 あるいは奴隷は同じ人間とは思っていないのか・・・。

 くくっと小さく笑う。そういう奴らって自分が奴隷になったらみっともない醜態を晒すのだろうと思った。


 「400」


 肥満体型のいかにもあくどそうなおっさんの声に会場がどよめく。


 「400!400が出ました!他に声はないですかぁ!」


 司会者の熱心な声におっさんが勝利を確信した顔でふんぞり返る。

 そこそこで悔しそうな顔をしている男たちがいるが声は上がらない。


 「400以上を付けられるかたはいらっしゃいませんか!いらっしゃいませんようでしたららくさ・・・・」


 少女は息を吸い込む。

 盛大に心のままにこの場にいる全員を罵り倒してやろう。殴られても・・・・殺されても言いたいことを全部言い切ってやる。


 「あんたらぁええ加減に・・・・!」


 「1000万ガラ」


 静かなそれでいて聞き逃せないほど強い声が少女の怒声に被せるように会場に響いた。

 しーんと静まりかえった会場の視線が一人の青年に集中する。

 金色の髪に同じ色の瞳が静かに少女を見詰める。着ている服は地味だが見るものが見れば上質な作りでどこかの貴族だろうと当たりをつけることができた。

 少女はそこまで察することは出来ないが彼がこの場で唯一自分が嫌悪感を抱かない相手であることに気付き、そんな相手が奴隷を売り買いするこの場にいることを不思議に思った。

 会場中の視線を集めた張本人は静かな顔のままもう一度繰り返した。


 「1000万ガラ」


 その言葉に時が再び動き出したかのように先ほどとは比べ物にならないほどのドヨメキが会場を満たした。

 



 結局、少女をセリ落としたのは突然現れた青年だった。

 怒涛の「1000万ガラ」発言に呆気に取られていた肥満体型のおっさんだったがよほど少女に執着があるのか結構しつこく食い下がっていた。が、しかし。


 「1050!」


 「2000」


 「くっ・・・・・2060!」


 「3000」


 「なっ・・・っっ・・・・3010!」


 「4000」


 「ぬっ!」


 とこんな感じでおっさんがどれほど食い下がろうとも青年が有り得ない金額の吊り上げを行い最後にはおっさんに憤死しそうな顔をさせつつも青年が5000万ガラで少女をセリ落としたのだった。

 ほくほく顔の奴隷商人たちを他所に青年が少女を引き取りにくるまでの間彼女は自分の「主人」になった青年について考えていた。


 「おかしい・・・」


 そう、おかしい。少女は会場を見ていた。だから分かる。


 「あんな人、いなかった・・・よね・・・」


 欲に眼のくらんだ奴らばかりだと嫌悪感を抱いたから良く覚えている。あの青年はいなかった。あんな存在感の強烈でそしてあの場に相応しくない欲のない瞳をした人を見落とすなんてしないと思う。

 なのにあの時、少女がセリ落とされそうになった瞬間、青年の声が響くまでは認識していなかった。


 「う~~ん?」


 「何を考え込んでいる」


 「へ?」


 顔を上げるといつの間にか鍵を開けられた檻の中にあの青年がいた。金色の感情の読めない目が静かに少女を見ていた。


 「あっ・・・・」


 「行くぞ」


 短くそう言うとこちらの返事は聞かずに少女の手足の拘束を解くとそのまま彼女を抱え上げ歩き出す。


 「うぁぁ!」


 慌てて自分にしがみ付いてくる少女にも周囲の唖然とした視線も全て無視して青年はずんずんと進んでいく。


 「え、あ、ちょっ・・・!行くってどこに!」


 青年は立ち止まることなく当然のように答えた。


 「俺の家だ」


 これは物語。


 異世界から落っこちてきた少女と無表情で変わり者な男の、出会いの物語。


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