背中合わせのきみ 小話2
目の前の光景はまさに阿鼻叫喚。
あるものは目を見開き石のように固まり。
あるものは頭を抱えうわ言のようにブツブツと呟き続け。
あるものは玉砂利の上で土下座をして動かず。
あるものは泣きながらひたすらに謝り続けていた。
十数人はいるであろう大の大人、しかも人より人相とガラの悪い……どう好意的に見ても一般人に見えない空気を纏った男達がただ一人立ち尽くす支の前でこんな醜態を晒しているのには勿論原因がある。
支本人としては物凄く納得のいかない理由が。
場面は数分前、支が帰宅した時までに遡る。
居候先の無駄に立派な門をくぐりながら支はふと先ほど友人に言われた 「あんた本当に無表情よね」という言葉を思い出して足を止めた。
「ふむ……」
自分が表情に乏しいことは自覚しているが特に改善しようとしたことはなかったような……。
そんな(余計な)思考が過ぎった支はいつもなら「姐さん」呼ばわりしてくるので冷たい一瞥しかしない出迎えの組員に(頼んでないのになくならない)向かっていつもとは違う対応を取ることにした。
修羅場の時には笑えるのだ。普通の朗らかな笑顔ぐらい自分にだってできる。
目を細め口の端を緩やかにあげて優しい声を出せば完璧だ。
「ただいま帰宅いたしました」
支曰く完璧な笑顔に 返ってきたのは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。なぜ?
この事件以降、支の無表情に益々磨きざかかったらしい。