吸血鬼
「屈伏出来なければ死ぬとか聞いてたけど案外簡単なんだね」
吸血鬼を殺すためだけに生み出された武器をねじ伏せ我が物としてみせた稀有な素質を持つ少女は人類の天敵であるはずの吸血鬼達を二人ほど背に従え、つい先程奪い取り我が物とした巨大な鎌を拍子抜けした顔で顕現させた。
「まさか本当に一人で敵を殺して神器を奪い取るとはな」
女にしとくには惜しいな、と 陰気な顔をした三人の中では一番年長者に見える青年が外見を裏切るイケメン声で傍らに立ついかにも気の強そうな目つきが凶悪な少年に話し掛ける。
「はっ!これぐらいの人数の人間すぐに殺せる。特別なことじゃねぇ」
少女に反感があるのか棘を隠そうともせずにそう吐き捨てた少年は苛立ちを紛らわすように近くに転がっていた人間の頭を蹴飛ばす。
子供っぽい少年の行動に陰気な青年が肩を竦めた。
「それは吸血鬼の場合だ……お前だって知っているだろ……あいつは……」
「知ってるからイラつくんだよ!」
諭そうとする陰気な青年を少年が怒鳴りつける。怒鳴り声に大鎌を適当に振り回していた少女が振り返る。
「なになに?ケンカ?」
「うっせえ!入ってくんな!女!」
条件反射のように罵ってくる少年に少女の頬が餅のようにふくれる。
「あ~~ヒドイなぁ~~。男同士でつるんでズルイよ!」
はたから見たら子供のじゃれ会いのようなやり取り。だが彼らの足もとにはこ途切れた人間の屍が幾つも転がりその虐殺の光景が殺戮者の異常さを浮き彫りにしていた。
「お前たち……」
きゃんきゃんと仔犬のように言い争う二人にあたまが痛いとばかりに陰気な青年が眉間の皺を解す。
「おや?どうしましたか?なにかお疲れ?」
「俺を無視してんじゃねぇよ!っうかお前なんで俺にだけタメ口なんだよ!舐めてんのか!ああっ!」
少年をマルっと無視した少女の態度に当然怒り狂う少年。どうやら少年以外には丁寧語で喋っているらしい少女の態度も彼の癇に障るようだ。煩さが倍増した現状に陰気な青年の陰気さも倍増である。
「お前たち……いい加減にしろ」
陰気な青年が視線を動かす。少年がつまらないと舌打ちをし同じく視線だけ動かした。二人とも何も言わず動かずただ最後の一人の動向を見定める。
そして少女は……。
「……」
吸血鬼と行動を共にし、神器を守っていた人間を何の呵責も躊躇いも感じることなく殺し尽くした少女は。
「あは」
笑う。
無邪気に新しいオモチャを目の前にした子供のような笑い声を発した。
「あはははははははははっ!!」
少女が笑いながら大鎌を振るう。黒い黒い底の見えない大鎌が襲ってくる斬撃を軽く受け止める。
お返しと言わんばかりに少女がかまを振るう。斬撃が重く空気を切り裂く。
「っう!」
少女の一撃を辛うじて受け流した襲撃者だったがそれが彼の限界だった。襲撃者が膝をつく。
少女に攻撃するよりも前に襲撃者は既に致命的な傷を腹部に負っていたのだ。致命傷を負いながらも攻撃を繰り出し少女の攻撃を受け流してみせた襲撃者の力量がかなりのものであることは明白であった。
少女の華奢な手が敵の首を狩るために鎌を振り上げる。それを見ながら襲撃者はただ問うた。
「なぜ、人間である君が吸血鬼といる!!」
その問いに少女は。
人間でありながら天敵である吸血鬼にではなく同族の血に濡れた少女は。
「ナイショ、です」
笑って鎌を振り落とした。