へたれ幼馴染みの恋愛相談
「こんのぉ~~へたれがぁぁ!!」
農作業初めてから十年ずっと鍛えられ、近隣住民から「リラの殺人蹴り」と恐れられている足でわたしは馬鹿げた報告をしてきた幼馴染みを蹴り飛ばした。
「ぎぇふ!」
農民が一生着ることのないであろう仕立てのよい服を着た幼馴染がわたしの蹴りを腹部に受けながらぶっ飛んでいく。見事に飛んだ幼馴染は近くの大木に激突し「きゅ~~~~」と目を回した。
その上に衝撃で舞った葉っぱが数枚落ちていた。
「ったく!毎度毎度毎度!!どこぞの夜会で一目惚れしては見ているだけ!!声の一つもかけれず永遠と見ているだけ!!あんたどんだけへたれなのよ!!」
ふーふーと威嚇する猫のように肩を尖らせ叫ぶわたし。
全く!!この男は昔から変わらないんだから!!
昔から女の子に一目ぼれしてはストーカーのごとく遠くから見ているだけ。ただただ熱い瞳で見つめ続け、女の子の情報を気色の悪いぐらい詳細に集めまくるだけ。
気持ち悪い!!ものすごく気持ち悪い。地位と顔とその他の所業が良くなけりゃ世の女性たちからリンチにあうこと間違いなしだ。
っつかわたしにしてみたらもうアウト。ブラック。抹殺対象だぁ!!
そして、何よりも問題は!!
「あんたは何で毎度毎度毎度わたしに恋愛相談をしにくるんだぁぁ~~~~~~~~!!」
この気色の悪いへたらと何の因果が幼馴染なんていう立場からやたらに恋愛相談されるということだ!!
恋愛相談といえば聞こえはいいが。ぶっちゃけストーカーの行動を逐一聞かされているようなものだ。
だからさ、自分の行動が異常だと自覚しようよ。いい大人なんだからさぁ!!
正座させ、その頭の上から仁王立ちで威圧しながら紺懇切説と諭す。「はい」と神妙にうなづいてはいるがこいつが態度を改めたことなどただの一度すらない。
「あ~~もう!大体ねぇ!わたしはもう貴族でもなんでもないの!平民なんだから気安く会いにこない!」
そうなのだ。今でこそ平民、農業を営んでいるわたしたち親子(父一人子一人)だが十年前までは確かに下級ながらも貴族の端っこに引っかかっていた。だが、人がよく、のほほんとしたお父さんは偉くて悪いことをたくらんでいた人にいいように利用されまくり、悪事の手伝いを知らないうちにさせられていた。
途中でそのことに気づいたお父さん。もちろん逃げようとしたんだけど家族………わたしのことを殺すと脅されちゃって手伝いを強要させられちゃったんだよね。
お父さんはわたしを守るために泣く泣く悪事を働いた………なんてことはなくこのままでは遠からず親子そろって殺されると判断したお父さんは監視の目を盗みわたしの手をとり、寒い冬の朝に人格者として有名な大貴族のお屋敷に逃げ込んだのだ。
自分が不利になることもまったく考えず。ついでに言えば家の存続とか財産保持とかもまったく考えず親子そろって生きていられたら御の字、最悪娘だけでも生活保障は引き出そうと決めていた我が父。
幸い大貴族は噂どおりの人格者で父の訴えに即動いてくれて最後には国を挙げての捕り物の末、黒幕は捕まり、わたし達親子の命は助かったけど騙されていたとはいえ父が悪事の片棒を担いでしまったのは事実だしそのせいで不利益や不幸になった人たちが少なからずいたことも事実。
それらは「知らなかった」で逃げていいことではない。
そこからの父の行動は父らしいと思うと同時に娘としては誇らしくもある。
父は爵位を自ら国に返還。乏しい財産すべてを自分の関わった悪事の損害補償に当てて自分はわたしを連れて農民になった。
今も農業で得た儲けの殆どを損害補償に当てている我が家の家計簿は毎月火の車だけど後悔はない。
父は意気揚々と毎日鍬を担いで畑に向かっている。
思うに父は貴族なんかより農民のほうがよほど性格にあっていたんだろうなぁ。
貴族やっていたころよりもずっと生き生きしてみえるし。
だから別に農民として生きていることにわたしも父もまったく不満なんてない。むしろ貴族の世界にはどうにもなじめなかったわたし達にとって農民として生きることの方がよっぽど楽に生きていける世界だ。だからもう貴族の世界に関わる気なんてさらさらないのに……この幼馴染は……!
「!そんなっ!そりゃ確かにリラの家はもう貴族位を剥奪されているけどそれでもリラは俺の幼馴染だよ!そこは変わらないよ!」
「わたしは身分の差を考えろと言っているのよ!」
ひよこひよこふらふらと鄙びた農村にひょっこりと現れる貴族時代の幼馴染にわたしは今日も怒声を浴びせかけていた。