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ねた的な小説  作者:
14/28

迷惑な妹、ため息な姉

「迷惑なんだ」


さぁて帰るぞと改札を通った途端に蔑みと苛立ちを隠しもしない見知らぬ(だけど見目は物凄く良い)男子生徒に睨みつけられつつ突然そんな言葉を投げつけられた。


………言い訳させてもらうと彼とは正真正銘初対面。顔も知らない相手に私がどんな迷惑をかけたというのだ、こんちくしょうめ。存在?存在自体が迷惑とでもいうのか。


等とつらつら内心で恨み言を連ねていると彼は苛立ったように髪をかきあげ、益々きつくこちらを睨みつけてくる。

イラついた顔も睨み付ける視線もどれもこれもマイナス要素にならず逆に魅力的に映るのだから美形とはかくも特別な生き物である。


「毎朝待ち伏せされるのもこちらの行動を見透かしたような手紙を送りつけるのもやめてくれ。迷惑だ。俺は君みたいな常軌を逸した女と付き合う気は毛頭ない」


きっぱり言い切る彼の言葉はかけられた迷惑の分あらぶり声が大きくなる。そしてそれはもちろん周囲の人々にも伝わり、私を見る目が一気に険しくなっていく。


はっきりいってその目は「ストーカー女」「勘違い女」「危ない子」と物語っている。

………だから私は関係ないって言うのに。

そんなストーカー行為してないってーーーーの!


と言いたいがこちらが口を開くよりも早く向こうが喋ってしまうのでタイミングが掴めない。

くそ~~元々が口下手な私には一番厄介な状況じゃないか!

悶々としながらどうにか主張を発しようと機会を狙っている私。はたから見れば一方的に責められる犯罪者候補である。


「………今後一切俺に近づかないと念書を書いてもらう!!」


「………だから、それ………」


勘違いなんです。と続けようとした言葉は眼前に突きつけられた念書によって遮られてしまった。

近すぎてよく読めないが高校生が持つにはいやに本格的なような気がした。

こりゃ、本気だ。本気で彼は彼を苦しめている女を排除しようとしているのであろう。


それが人違いなのだから間違われた私はいい迷惑だ。

人違いです。私は貴方なんて名前どころか顔すら知りません。

脳内で繰り返す。よし、大丈夫。いえる。

そう言おうとしたその時、背後からのほほんとした男の声が場の空気を引き裂いた。


「お~~~~?そこにいるのは多野じゃないか!………ん?なんだか見覚えのある顔が揃ってんな。なにしてんの?」


振り向くとよく知った顔があった。


「「河野………」」


勘違い男と私の声が綺麗にはもって目の前の彼の名前を呼んだ。


「「…………え?」」


顔を見合わせる私たちに「仲いいな~~お前ら」とけらけら笑うのは河野栄治。

私のお隣さんで一応幼馴染そして、この勘違い男の知り合いでもあるようだ。


そのまま立ち話もなんだと場所を近くのファーストフード店に変え、私と勘違い男と河野。

ちなみに座席は河野の隣に私、そして河野の前に勘違い男が座っている。


そして目の前のテーブルには件の念書がファーストフードに似合わない異彩を放っていた。


「ふむふむ。へぇ~~。ほぉ~~~~。なるへそなるへそ」


般若のようにこちらを睨みつけながら事情を説明する勘違い男に聞いているんだかいないんだがわからない相打ちをうつ河野。

あ、勘違い男の拳が震えている。

般若のような顔が今では明らかに私から河野に移動している。


「と、言うわけだ」


どうだ!といわんばかりに説明を終えた勘違い男が睨みつけながら河野に言った。河野はふむふむと猫のような細目を更に細めながら腕を組んだ。


何を考えているのかいまいち読みきれない幼馴染はうんうんと頷くとテーブルの上の念書を掴み流れるような動作でそれを勘違い男の顔に押し付けた。


ぐしゃりと紙が鳴る音がむなしく響く。

静寂。たまに聞こえてくるくぐもった音は多分、勘違い男が呼吸することで紙が鳴っているのだろう。

ひどく間抜けだけど。


「……………」


「……………」


ぷひぃ。


ぐいぐい。


ただひたすら勘違い男の顔に念書を執拗なまでに押し付ける河野。


本気で、何がしたいんだ、こいつは。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!なにしやがる!!」


あ、力技で勘違い男が河野の腕を振りほどいた。顔は怒りかはたまた呼吸困難のせいか赤鬼のように真っ赤になっている。

細身のくせに怪力を発揮し河野の胸倉を掴んで引っ張りあげた。あ、ウェートレスさんが青ざめて裏方に誰か呼びに行った。

店中の視線がいまや私たちのテーブルに釘つけである。


喧嘩か?とざわめく周囲をよそに河野は「ははははは」ととぼけた顔のまま笑う。喧嘩腰なのは勘違い男だけ。なにやら雰囲気が悪くなっていく。

頭が痛い。

こいつは本当に…………何がしたいんだ。

頭痛を抑えるように額に手を置く。私は知らない。私は他人。こいつらとは無関係ですよ~~~~。


逃げ出したいのに窓際に座らされているから逃げられない。


チッ!


まさかこれを見越して奥に座らせたんじゃないでしょうね!


きっと睨みつければこちらに気づいた河野がヒラヒラと手を振る。そして次の瞬間にはどんな魔法か胸倉を掴んでいた勘違い男の腕から逃れて席に戻っていた。


「あ、あれ?」


「落ち着けよ。多野。あ、お騒がせしました。ちょっとした意見の食い違いで若さが爆発しかけただけですよ。もう大丈夫ですんで。すんません~~~」


へらへらした笑顔で飛んできた店長らしき人を鮮やかに追い返し、周囲にもなんでもないですよ~~と笑顔を振りまく河野。


普通ならこんなことを言って店を追い出されるはずなのに何故だか河野が言うと奴の思う通りに話が進み、店長さんは「も、もう騒ぎは起こさないでくださいね!」と厳重注意だけで済ますし周囲はざわめきながらもそれぞれの食事に戻っていった。


…………相変わらず謎の手腕をみせる男だ。


口が達者でもないし頭が回るわけでもない。至って普通の男子高校生。なのになぜだか奴はどんな修羅場でも上手くまとめてしまう。

それはもう超能力と言っても差し支えないレベルだ。


「……………」


妙な感心をいつものようにしている私の目の前の端に何かが映りこむ。

ちらりとしか見えなかったが妙な引っかかりがある。

いや、まさか、でも………。


今までの所業を考えたらここに現れてもおかしく、ない。


視線を巡らせる私の横で男共の話は進んでいく。


「だからお前は何で俺の邪魔すんだよ!」


「あ~~だからそれは………お前のかんち………ん?どうしたヒジリ」


キョロキョロとせわしなく視線をうろつかせる私に気づいた河野が言葉場を止め、私の顔を覗きこんできた。

どうしよう。確信があるわけじゃないけどもしかしたらあの子がいるかもしれないし。放置しておくとそれはそれで厄介ごとを起こしそうだよね。それにあの子がいればこの勘違い男を一発で納得させられるしこれ以上の迷惑行為をしないように釘もさせる………。でも、あの子が大人しく捕まるとも思えないし私を身代わりにすることになんの躊躇もないから今この場に出てこようとはしないだろうしな……。

あ~~~どうしよう。


「あいつがいるかもしれないんだな?どこら辺だと思った?」


じっと私の顔を覗き込み、私の言いたいことを正確に読み取った河野に頷きながら私は店の隅を指差す。

さすが幼馴染。長年の付き合いから口下手な私の考えをことごとく読む。


「お、おい。何やってんだよ。つぅかそいつ何も喋ってないけど!」


わめく勘違い男をよそに河野はすたすたと店を横切り私たちから死角になっていた席に近づく。がたんっと椅子を蹴倒す音が聞こえたが河野のほうがすばやい。


「み~~~つけた」


「きゃっ!」


河野が猫の子でもつかむように引っ張り出したのは私と同じ顔、だけど化粧もして髪も校則違反にならない程度にいじってお洒落に気を使っている今時の女子高生。


「はなして~~~。え~~ちゃん~~~」


自分と同じ声で甘ったるい話し方をされて私は反射的に目をそらす。生まれたときから傍にいるがいまだに双子の妹のぶりっ子さには慣れない。

同じ顔、同じ声、同じ身長、同じ体格。なのに中身がまったく違うってもう苦痛以外の何者でもない。

自分が一番苦手な人種が自分と同じ姿形って一体何の苦行?


じたばたと暴れる妹には一切かまわず河野はずいぃぃぃぃぃぃと勘違い男の前に突き出す。

勘違い男は目を白黒させながら私と妹の顔を見比べる。

おい、妹よ。そこで顔を赤らめるなもじもじするな。空気を読め。

隣でお花畑の住人になってしまった妹をにらんでいる間に河野がさくさくと話を進めていく。


「こいつはヒジリの双子の妹のセイ。そして根っからの恋愛体質で粘着質でストーカー体質。お前に付きまとったのは姉のほうじゃなくて妹の方だぞ」


「え、双子?へ?え?」


突然の事実に目を白黒させる勘違い男。


「なわけで、話をつけるべきはこっち。俺も同席するからささと済ませよう」


さすが幼馴染。この手の修羅場や勘違いは本当に場数をこなしてますからね。すいません。うちの愚昧が迷惑かけます。


「気にすんな。大体お前、たいてい被害に遭うし、こいつ、わかっていてお前に被害を被せるからな」


ぷすぅとふくれっ面のセイはちらりと私を見るとすぐに目をそらす。私はセイが苦手だがどちらかといえば無関心だ。好きにやってくれ。だけどセイの方は地味でどちらかといえばオタク気質な私を嫌っている。

アニメやゲームや漫画やラノベは日本が世界に誇れる文化だと思うのだけど理解してくれない。


「先に帰ってろ」


ありがたい河野お言葉にうなづく。テクテクと入り口に向かいかけて勘違い男の方に向き直る。


「あの、妹が迷惑かけてごめん」


「………へ」


「じゃ、失礼します」


本当に身内がご迷惑かけました。本来なら妹に土下座させてこの一連の顛末にもお付き合いすべきなのでしょうが私、もう、いっぱい一杯でこの場にいたらたぶん、倒れます。びびりの小心者なんですよ。

本当にすいません。


もう一度頭を下げてからそそくさと店を出る。


暮れ始める空を見上げながらため息がこぼれた。


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