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ねた的な小説  作者:
12/28

美しい世界

暗いです。悲恋で報われない話ですので注意してください。

世界から色が消えた。


美しいと思える光景は二度と、見れなくなった。


絶望した。詰った。怨んだ。憎んだ。腹が立った。


ありとあらゆる負の感情を抱いて暴れてそして最終的には全てをあきらめた。


あきらめでしか心を平穏にできなかった。目をふさいで口を閉ざして耳をふさいで、そして心を閉じて生きることを私は選んだ。


そうして抜け殻のような生を生きていた私の前に彼は現れた。


穢れを知らぬ柔らかな笑顔で彼は言った。


「美しい光景を探しているんです」


忘れたはずの暗い感情が蘇ってきた。


私はもう、美しい光景なんて見れない。夕陽の橙も抜けるような青空も風にそよぐ小麦の黄金も何も見えない。白と黒しかない世界に生きるしかないのに貴方は私が決して見れない美しい光景を見るというの?


どんどん暗い感情に心が満たされていく。

彼が手を差し出した。


「僕と一緒に美しい光景を見にいきませんか?」


無神経な男だと思う。何も知らない愚かな男だ。

傷つけたくて、詰りたくて、やりたくてそして決めた。彼が一番綺麗だと思う光景を見つけたのならお前の言う美しい光景など私にとってはただのモノクロでしかないと言い放ってやろうと。ただそれだけのために私は彼の手を取り、共に旅をした。


様々な国を地をめぐった。


砂漠の中の美しいオアシスの国。


深い森に囲まれた小国。


水の中にある空が海になった国。


一面の塩でできた国。


沢山の国を見た。沢山の美しいと言われる光景があった。


だけど、私にはどれも白と黒にしか見えない。

美しいと思えるものはなく、綺麗ですねと笑う彼の隣でただ、静かにその光景を映していた。


長い、長い旅だった。

終わりなどないかのように。

永遠に続いていくかのように。


そんな錯覚すら起きるような長い時間、彼と私は旅をした。


白と黒の世界は変わらない。

だけど、ほの暗い感情は少しづつ小さくなっていく。


笑顔に笑顔が返せるようになった。

繋いだ手をためらいなく握り締めることができた。


世界は変わらない。旅はまだ、続く。


終わらせたくなくて、一緒にいたくて私はただ、彼に手を引かれ、旅を続けた。


そんな旅は唐突に終わりを迎えた。


最後に訪れた国は春に咲く薄紅色の花びらが舞う小さな国。

私には黒い空に舞う白い紙のようにしか見えないそれに彼は見ほれる。


きっと思う存分見たあとに彼は振り向いてこう言うのだろう。


「とっても綺麗ですね!」


そう言ったのなら、私もこう言おう。

旅を始めてから一度だって言ったことのない「ええ、とても綺麗ね」という言葉を。


本当はずいぶん前からそう思っていた。


白と黒の世界でも彼とともに見た光景はどれも綺麗で忘れられない光景になっていたことを。


優しい気持ちと愛おしい気持ちをくれた貴方。

ねぇ、伝えたらどんな顔をするのかしら?


彼が振り向く。

興奮した笑顔。

ああ、なんて愛おしいんだろう。

彼が。

彼の笑顔が。

消える。

白と黒の世界が………黒に塗りつぶされていく。


不意に何かかから引き離されるような感覚。


ああ。


悟ってしまった。


終わり、なんだと。


最後に彼に。

伝えたいのに。

声がでない。

手が伸ばせない。

何も見えない。

何も感じない。

心だけが。

ただ。

彼だけを渇望していた。


ねぇ、貴方と一緒に見た世界は本当に…………。

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