神様は言うことをきかない
中途半端な終わってないネタ的な小説ですのでご注意ください。
ふぁーと欠伸をしながら顔を洗う為に洗面所のドアを開けたらそこは、明らかに上空うんメートルっぽい大空に繋がっていました。
あまりのことに私、数秒硬直。緩んだ手からタオルがひらりと風に乗って飛んでいった。青い空にタオルの黄色がやけに映える。
「・・・・・・へ?」
なにこれ?見慣れてしまった古い洗面所はどこにもなくただただ青い空と雲が広がっているのは・・・・にゃぜ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ぱたん!(←ドアを閉めた)すうはぁー(←深呼吸)がちゃ(←再びあけた)。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(←変わらず広がる光景に絶句)。
「やっぱり変わんない!嘘!何!夢!私まだ、夢の中!寝てんの!早く起きないと遅刻!」
動揺した私は再びドアを閉めようとして・・・うっかり足を滑らした。本当になんぜこういう時、こんな場面で最悪の事態を招くかな!私!
「ひっ・・・・・」
当然足を滑らした私の行き着く未来は・・・・・・・・・・・・。
「ひゃぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ロープなしのバンジージャンプ!!
「し、し、し、死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
猛烈な勢いで落ちていく。地面がぐんぐんと有り得ない勢いで近くなっていく。いやだ!生まれて十六年。やりたいことも心残りもあり過ぎる。それにそれに・・・・・・・。
「落下死体にだけはなりたくないぃぃぃぃぃぃィィィぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
高いところから落ちた人間っていうのはそりゃぁ、もうえぐい状態なんだよ?人間が作った人工物から落ちてもそんなんなのだ。こんな高さから落ちたらもう・・・・もう・・・(想像中)・・・・・・い・や~~~~~~~~~~死んでも死に切れませんよ!私!
嫌だ嫌だ!死ぬのなら畳の上で安らかに眠るようにが私の生涯目標なのに僅か十六年で享年でしかも棺おけの中身も見せられない死体になるのはいや~~~~~~~~~~!!
「神さまのはっきゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
とんでもない運命と人生の終焉を目の当たりにして私はそんなことを叫んだ。とにかく誰かのせいにしないと気がすまない!
「あほ!ぼけ!どSの鬼畜!恨んでやる妬んでやる祟ってやる!日本人舐めるなよ!死んだら速攻会いにいって体育館裏へいらっしゃい!卒業式のお礼参りだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
もう自分が何を叫んでいるのか分からない。ただただこんな運命に異議を唱え続けていたような気がする。
いっそのこと意識が飛べばまだマシだったのだろうが私の神経は図太いのか一向に気を失う気配は無い。
あ~~~~~~~!!もう、だめだぁ!!!!!!!!!!
「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
もう、神様なんて信じない!!長年の正月初詣の際の賽銭と絵馬代とお守り代その他諸々耳を揃えてかえせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
来る痛みと衝撃に私が覚悟を決め、私はギュッと目を瞑り歯を食いしばった。
「新たな麒麟が生まれそうだというのは本当か?」
荘厳な神殿の一室。そこにいたこの神殿・・・・国を守護する五聖獣の一つ麒麟を奉る黄宮の上位神官の服を纏った老人が入ってきた男の姿を見るなり膝を折、礼を取る。
入ってきたのは二十歳前後の武人。黒い髪に黒い瞳と平凡な色をもつ男だが瞳に宿る強烈な意思とまるで役者絵から抜け出したかのような顔で強烈な存在感を発する男であった。
黒を基調とした鎧を着込み腰に下げた無骨な刀が男を近寄りがたい威圧感を持ったように見せていたが男自身はあまりそのことには頓着していない様子であった。
恭しく礼を取った老人を手で止めさせ男は目線で先ほどの質問の答えを促す。その男に老人は深く一礼をした後に重々しく口を開いた。
「はい・・・・先代の麒麟である紫遼さまが身罷れて百五十年あまり。ようやく兆しが現れました」
「そうか・・・・上手くいけば五聖獣の守護が百五十年ぶりに復活するか・・・・」
この国は東西南北と中央をそれぞれ 聖獣と呼ばれる存在が守護をしている。
北を守護するは玄武。
南は炎の霊長 朱雀
東の守護は気高き青龍
西を守護するのは白虎
そしてそれらをまとめ守護の礎たるのが麒麟だ。
彼らは人より遙かに長い時を生きる存在だがその命は無限ではない。怪我も老いも病気も彼らには無縁のものだが寿命がある。そして寿命を終え、聖獣が死した後はその座がしばし空位になる。
新たな聖獣は世界のどこかに生まれるのだがそれがいつなのかどこで生まれるのか分からない。
そして聖獣復活にはある条件がある。一つはもちろん麒麟自身が生まれてくること。だがこの段階ではまだ形を成さない意思をない人間でいうところの胎児のような状態だ。
意思を持ち形を持つて世に現れるには不思議なことに人の力を借りるのだ。
人の想い。
強く強く神を想ったもの。その意思と願いにより聖獣は世に生まれる。
「一番強く神を思った者がその聖獣を世に導き、巫女となり幼き聖獣を護り導く・・・・人が聖獣を教育するなどおかしな話だ」
だが、強く願う者がいなければ聖獣は生まれ得ない。男が生まれてから聖獣の生誕を目の当たりにしたのはこの麒麟が始めてになりそうだ。・・・・・もっとも聖獣の世代交代は数千年単位であるので滅多にお目にかかれるものではないが。
「他の聖獣たちの世代交代はまだまだ先だろうから俺が目にするのはこの麒麟が最後だな」
その後、男は老人と短く今後のことを打ち合わせると足早に神殿を去った。
聖獣の誕生と巫女の探索の手配をするためだ。
聖獣が生まれると必ず巫女となる人間のもとに現われる。聖獣と巫女が自分から神殿に現われてくれればいいのだがそう上手くはいかないのが世の常だ。聖獣の姿は絵姿に写し取ることが禁止されているため普通の人間はその姿を知らないために聖獣を見てもそうとは認識しない者が多い。そして聖獣と認識したとしても聖獣とその巫女を己の利のために役立てようとする下種も永き歴史の中でそれこそ掃いて捨てるほどいた。
生まれてすぐに巫女が殺され、聖獣が暴走することさえある。聖獣と巫女の保護は早急にすることが一番なのだ。
「さて・・・忙しくなりそうだ」
呟いた言葉がまさか様々な意味で彼の今後を言い当てていたとは言った本人ですら知る由も無い未来であった。
さわさわと頬に温かい何かを押し付けられる。うう・・・なに?
ふわふわした物も同時に感じて私は寝ぼけた頭の中に疑問符を浮かべながら薄っすら目を開けた。
つぶらな青い瞳がまず目に入った。視線を徐々に全体に移す。白い鬣、青い瞳・・・そして抱きかかえるのに丁度良さそうな身体・・・・それらをあわせるとものすご~~~~~くプリティーでキュウトな馬に似た動物になる。
その見ているだけで幸せになりそうな可愛い生き物がきゅきゅと私の頬に鼻を当てていた。
私は無言で起き上がるとその生き物と見合わせる。何故だかその生き物は逃げることもせずにじっと私を見ていた。こう、何かがこみ上げてくるのを必死に我慢する可愛い・・・。
そろそろと鬣に手を伸ばしても逃げないし嫌がるそぶりはない。シルクよりも手触りの良いその毛並みに私の頬は緩む。わぁ・・・何これ、凄くさらさらで気持ちいい・・・・・。むくむくと衝動がこみ上げてくる・・・我慢我慢・・・。
触っても逃げないので図に乗った私は両手を伸ばして生き物を抱き上げる。・・・やっぱり逃げない。私の手の中で大人しくしている。なになにと言わんばかりに私を見上げてくる瞳を至近距離でみせられて・・・・・・・かわいい・・・・もう、我慢できない!!!
「かわぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」
ぎゅーと力の限り抱きしめて頬ずりをする。可愛い可愛い可愛いいいいいいいい!!!
「☆♪!?★♯」
腕の中で目を白黒させながらそれでも暴れないこの子にますます私の可愛いもの好きの心に火をつける。ああ~~~もう!見た目も中身も可愛いだなんて反則!
「もう////////////////////可愛すぎる!!!!!大好き!!!!きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
もう可愛くて可愛くて仕方がない!私が自分の状況を把握して気を失う前までの出来事を思い出し自分が五体満足でいることの不思議に思い至るのは思う存分この子を可愛がり、心を満足させた後であった。