黄薔薇
「最近。無理してない?」
「無理なんてしてないよ?」
そう言って、笑った。
限りなく本当に見える、嘘の笑顔を。
けれど、そこは流石彼氏。
最近話してないといえど、見破られてしまった。
「嘘ついてるだろ」
そう言った彼は、まるで失言をしたかのような顔をした。
その顔の方が傷つく……なんて、言えないのだけれど。
いつも通りを装って、私は言う。
「そんなことないよ」
付き合い始めたときも、こんなふうに、嘘つき、って言われたっけなぁ。
そんなことを、ぼんやりと思っていた。
「莉冬」
何度も呼んだのだろう。声に、少しだけ焦りが滲んでいる。
「……あぁ、ごめん。ぼーっとしてた。どうかした?」
その返答に、少しだけ安堵したらしい。
優海の身体から、少しだけ力が抜けている。
「最近、寝れてるか?」
そういえば、昨日何時に寝たっけ。
そう思いながらも、優海に言う。
「…………ちゃんと寝てる。余計なお世話」
「そうかよ」
そっぽを向く彼の姿が、私に、あの日のことを思い出させた。
〜〜〜
空白が埋められたかのように、音が鳴った。
誰もいない家。仕方なく、インターホンの方へと向かう。
「どちら様ですか」
「莉冬」
インターホンの先にいるのは、確かに私が大好きな彼だった。
「優海?ちょっと待ってて、今開けるから」
そう言って、部屋の廊下を小走りになりながら歩く。
「おまたせ!どうかしたの?」
「これ、渡しに来ただけ」
そう言って、紙袋を差し出しながら、優海はそっぽを向く。
中には、薔薇が3本、咲いていた。
「これ……私に?」
「今日、誕生日だろ。ケーキとか、用意出来なくてごめん」
どうして自分さえ忘れているようなことを、優海が覚えているのだろう。
そして、祝いに来てくれるんだろう。
「……ありがと」
〜〜〜
そんなことがあったのは、いつだろう。
去年だろうか、それとも今年だろうか。
そのことがあってからも、私は優海と話し続けた。
恋愛にうつつを抜かしていたからだろうか。
テストの点数が落ちた。
親に叱られる自分が惨めだった。
そんなときに見てしまった。
あの花の意味を。
【黄色い薔薇は、愛情の薄らぎ、などの意味もあるため注意!】
その言葉が、私の中で回る。
優海は別に、そんな意味で贈ったりしてない。
わかっていても、私は思ってしまったのだ。
__優海は、私のこと嫌いなのかもな、って。
「ねえ、」
気づけば、優海を呼んで、こうして話しかけている。
「何だよ」
息が出来ない。
まるで水の中にいるようだ。
「別れよっか、私達」
目も合わせずに言った。
「どうして」
「合わないから」
もう、これ以上追及しないで。
その願いは、叶った。
いや、叶ってしまった。
「わかっ、た」
「今までありがとう、優海……いや、冬野くん」
そう言った瞬間、私達は恋人ではなくなった。
ただの同級生に戻った。
「じゃあまたな、白雪」
「うん、またね」
その瞬間、家にあった薔薇のことを思い出した。
私達の思い出のように、色褪せた薔薇を。




