神はやっぱり土壇場で来る
薄暗い部屋、パソコンの明かりだけが、顔を照らす。
コーヒーを置いて、キーボードに手を伸ばす。
もういいや。
今日で最後にする。
カチカチッ。
私の目が一瞬止まる。
見つけた。
あしあと。
ここの動物たちは、普通、あしあとをつけたら、「こんにちわー」「はじめましてー」、それくらいは絶対に書いていくもんやが?
はて?何で?
無性に気になってしまった。
プロフィール見ると、案外悪くない。
あれ?こんな人、おったっけ?
もしかして?おハツ?
んー。よしっ!こっちから行ってみるか。
「こんにちわ♪あしあとありがとう♪でも、なんでメッセージくれないの?」
あとから考えると、実に私らしくない行動である。
女はちょっと奥ゆかしく(見せるべし)。を心得ている私は、あまり自分からはアクションを起こさない。基本、待ちの姿勢だ。
だからここでスルーできなかったのは、やはり【神】の力かも知れぬ。
そしてお返事は「身長が足りんから」って。
おい、そこかい!
確かに私のプロフには170センチ以上がいいなー♪って。
はい。書いてます。確かに書いてますけどね。
それであきらめるって、どうなん?
「いやーそれほど気にしなくてもいいんですよー エヘヘッ♪」
そうしてやり取りは始まった。
サイト上のやり取りは心地よかった。
まっすぐな人。
拙い文面から、真面目さが伝わる、ここではとても珍しいタイプ。
そして、なんだか少し、私に似た匂いがする。
彼は自分を硬派だと言う。
硬派が婚活サイト?
なんか腑に落ちない。
でも、それも時代というものだろう。
周りがグニャグニャなので、ものすごく光って見える。
程なく、アドレス交換。
動物園から脱出して、メールを交わすようになった。
その頃彼は、長期出張中。
飼い犬を人に預けて、1人宿舎で悶々としていたそうだ。
宿舎の薄汚れた天井を見上げて、
俺、一体何してるんやろ?この先どこへ行くんやろ?って。
あー。わかるねん。めっちゃそれ。
硬派を自認する彼が、弱みをポロッとこぼす。
あー。きっといい人や。
その頃のメールは、正直何を書いたか思い出せない。
なんせ毎日何十通ものやりとり。
この人暇?マジ仕事は大丈夫?って思いつつ、つい、さっさか返信してしまう。私もかなりの暇人だ。
「大好きだよー」「私も〜♥」みたいなやり取りで盛り上がるアホな2人、アラフィフである。
かなりイタイ。
そして携帯打つ顔はニヤけている。想像しただけでわかる。すごい絵図だ。
もう。ほんまにイタイ。
当時大学生の娘2号は、顔は笑ってはいたが、その実さぞや、ドン引きしていたに違いない。
薄々わかっちゃいるが、やっぱアホやこの母は。って。
そしてかれこれ1ヶ月
未だ、メールと電話(全く会話は続かなかった)位で、
顔は、写メでしか見てないのに
【神】は突然、彼の背中を押した。
「ずっと一緒にいよう」
「うん♪」
「わかってる?プロポーズやで」
「!!!」
なぜか人生初のプロポーズを!
まさかのメールで!!
まだ会ってもいない。
確かにいい人そうやけど。
いやでも。ええぇ~。
返事に困る私に、
サラッと彼は追い打ちをかける。
「大丈夫。お前なら俺を理解できる。」
「きっと幸せになる。」
やられた!すごい自信や。
そうか。こういう人や。
言葉がストンと胸に落ちた。
そして私は、頷いた。
おまけ
パパちゃん七不思議 その1
① 謎のネーミングセンス
「キュルキュル」「ピョリピョリ」
どうやら愛すべきものには、こうなってしまう癖があるようです。
稀に娘に聞かれて、
「え……なにそれ……」、とドン引きされています。
愛車系では、「じゃがりこジャガー」「ミニクッパ」などがありますが、
これは厳重に秘匿されています。
② 謎の会話
パパは早口。せっかくの貴重な会話が、とにかく聞き取りづらい。
聞き直すとスネる恐れがあるため、
私は「流しながら解読する」という高度なスキルを身につけました。
仕事場では、どうしているのかな?
ドヤされていないか。
軽くパワハラになっていないか。
ちょっとだけ、職人さんたちが心配です。
③ 謎のコンビニスイーツ
甘党のパパは、時々コンビニスイーツを買ってきます。
せっかちパパは、商品説明も値段もよく見ずに、レジへ直行。
レジで値段にビビる。→しかし後に引けず購入。
帰宅後、満を持してひとくち→……なんやこれ?
たいてい、
想像と違うお味です。
そして私は、おもむろに老眼鏡をかけ、
パッケージを手に取ります。
――ちゃんと書いてある。




