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火傷メイドは仕える家の主人たちに愛される~母の愛の揺り籠~

掲載日:2026/03/02

アリスはメイガス家に仕えるメイド。

しかし、同い年で年期があまりないメイドから火傷の事を揶揄され、罵倒される。

けれども、そんなアリスを、主人であるメイガス家の人々は溺愛していた。

それにはとある理由があった──




「アリス! 何でアンタ古株だからってアンタばっかり優遇されるのよ!」

「そうよそうよ! そんな火傷持ちで!」

「……」


 私はアリス。メイガス家に仕えるメイドの一人。

 12歳の頃に仕え始めてもう10年になる。


「貴方たち! アリスはメイガス家のサリアお嬢様と、マルスお坊ちゃまをお救いになった誉れある火傷を背負っているんだ! それに仕事熱心! 口先だけの貴方達をどうにかするか、今日旦那様にお話しますね!」


 メイド長のメリッサ様が言うと、若いメイド達はひっと声を上げた。


「そ、それだけはご勘弁を……」

「ここを追い出された理由が知れ渡ったら他でやっていけません!」

「なら働きなさい!」


 メリッサ様の言葉に、若いメイドたちは仕事に逃げるように戻って言った。

 私も邪魔されていた仕事を再開する。


「全く、最近の若いのは頭が鶏頭なのかしらねぇ! 貴方の火傷の事も説明しているのに!」

「火傷にばかり目が行って、そんな見た目で旦那様たちに気に入られているのが気に食わないのでしょう……」

「気に入られるのも当然、お嬢様と坊ちゃまを火事から助け出して火傷を負ったのを見た旦那様と奥様はたいそう感謝いたしました。メイガス家は勤勉な者と、真面目な者をいたく気に入ります。貴方は旦那様たちに愛されているからと言って高慢にならないところが私もとても気に入っておりますよ」

「ありがとうございます、メイド長様」

「なのに、今時の若い子は、全く」


 メイド長様はそう言って仕事に戻られました。


「アリス」

「カリス様」

「釣書には目を通されましたか?」

「あれは兄宛だと何度言えばいいのかな? 私にはアリスがいる」

「……カリス様、私はただのメイドでございます。私のような者のせいでカリス様の立場が悪く言われるのは我慢できません」

「いいんだよ」

「カリス兄様の言う通りよ、アリス。後で私の部屋に来て頂戴、背中と顔に薬を塗りたいの」

「サリアお嬢様、お嬢様の手を煩わせるのは……」


「あら、サリア。今日アリスにお薬を塗るのは私の番よ?」

「げぇ⁈ お母様」


 メイガス家の方々は良い人過ぎて、火傷を負った私の傷に薬を手ずからぬってくださいます、女性陣だけですが。


「いいなぁ、サリアと母上は」

「あら、焼き餅? でも、もう直ぐ焼かなくて良くなるんでしょう」

「ええ、そうですね」


 カリス様、良い御方と巡り会えたのでしょうか?

 それは嬉しいですが、少し辛く、寂しくもあります。

 でも、しょうがないのです、今の私は只のメイドなのですから。



「大分傷もよくなってきたわね……でも今でも痛々しく残っている……本当にごめんなさい」

「いえ、いいのです。お嬢様と坊ちゃまが無事だったのですから」


 私がこの屋敷で働いてた時、別荘のある地へ同行しました。

 旦那様と奥様はまだ幼いサリアお嬢様とマルスお坊ちゃまを置いて、長子のイアソン様と、第二子のカリス様と共におでかけになりました。


 その後です、メイガス家に恨みを持ったものが火を放ったのは。


 その時一緒にいたのは私とサリアお嬢様とマルスお坊ちゃまだけ、火は激しく燃え上がりあっという間に屋敷を包み込みました。

 私はお二人に水を被せて抱きかかえ、自分も少しの水を被って屋敷を歩きなんとか脱出しました、その代償に顔と背中に火傷を負いました。


 犯人は捕まりましたが、旦那様と奥様は私に感謝をするだけでなく、まだ若い私の顔に傷をつけた事を何度も謝罪してくださいました。

 でも、いいのです。

 お嬢様と坊ちゃまが無事なら。




「アリス、今日も綺麗に塗れたわ」

「ありがとうございます」

「それはこちらの言葉よ、貴方がいなかったら息子と娘は焼け死んでいたかもしれない」

「メイドの務めですから」

「護衛をもっとつけておけば良かったわ、そうすれば貴方はこんな火傷を負わなくて済んだもの」

「奥様……」

「でも、私が貴方に薬を塗るのも今日が最後かもしれないの」


 やはり色々あるのでしょう。

 仕方ないのです。

 そう思っていると──


「今度からはカリスに塗って貰ってね、アリス」

「……はい?」


 耳を疑いました。

 ただのメイドと、メイガス侯爵家の次男のカリス様が?


「アリス──いえ、アリス・マーガレッタ」

「──」


 それは、メイドに身を落とす前の私の名前でした。


「家を継いでいた貴方の母君が死んだ後、伯爵になるはずの貴方の財産を使い切り、借金まで背負わせようとした貴方の父が見つかったわ、親族の方が十年もかけて執念深く探してくださったの」

「……」


 言葉が、出ませんでした。


「そして貴方を正式な伯爵後継者──もとい伯爵の地位に戻し、マーガレッタ伯爵を継いで貰うことになったの」

「でも、私は伯爵の勉強は途中までしか……」

「あら、貴方にはカリスたちの為にといって貴族としての勉強は全て教えているわよ」

「……」

「アリスのことを話したら、親族の方は『間違いなくイリス様のご息女だ、あの方ならそうする』ということで伯爵の地位を継がせる手はずは全部整っているわよ」

「……どうして其処までしてくださるんですか?」

「そうね、恩人でもあるし、何より貴方はイリスの娘さんだったから。イリスはね、私の友人だったの」

「だから──」

「そう、だから悪い場所に行く前にメイドとして貴方を雇い入れ、いつか伯爵を名乗れるように勉強もさせたの、迷惑だったかしら?」


 奥様ははにかんで言う。


「いいえ、いいえ、本当に、本当にありがとうございます……」


 私は泣いてしまった。

 嬉しさのあまり。


「ああ、ちなみにあの男は炭鉱奴隷に堕ちてもらったわ、今までの借金を返済させなくては」


 ……すこしだけ複雑で涙が引っ込みました。

 父だった男、母の、祖父母の全てを台無しにした男。

 許せませんが、罰があたったのでもう忘れましょう。



 その後、国王から正式に伯爵の地位を復活させていただき、私はマーガレッタ家の当主になった。

 そして──


「アリス、綺麗だよ」


 白粉を塗って傷跡を隠しながらカリス様が微笑んでくださる。


「カリス様はどこまで知っていたの?」

「全部さ、だから私も手伝った。これから君と二人で幸せになろう」

「はい……」


「カリスにいさま!」

「カリスにいさま!」


 サリア様と、マルス様がいらっしゃいました。


「アリスを悲しませたら許さないからね!」

「許さないぞ!」

「誰が悲しませるか!」

「じゃあ、なんでアリスが泣いてるの!」

「サリア様、マルス様、これは悲しくてではありません、嬉しくて泣いているのです」


 笑顔になって言うと、納得したようにお二人は頷かれた。


「じゃあいいや、苦しい思いさせたり悲しませたらお母様といっしょに怒るわよ!」

「怒るからな!」

「母さん……頼むから息子離れはできるのに、アリス離れできないってどうよ」


 私はクスクスと笑ってしまいました。



 結婚式、少し動揺する方々がいましたがすぐ皆さん微笑まれました。


「カリス・メイガス。アリス・マーガレッタを生涯愛すると誓うか?」

「誓います」

「アリス・マーガレッタ。カリス・メイガスを生涯愛すると誓うか?」

「誓います」


 そして誓いの口づけをしました。



 母が亡くなった後、絶望しかけた人生でしたが、私は母の作った揺り籠の中で守られていたのも、知りました。

 だから優しい方々に会い、カリス様を愛し、結婚することができたのですから。



「アリス、今日も綺麗に塗れたよ」

「とうさまずるい、エミもかあさまにぬりたい」

「ととさまずるい、アルもかあさまにぬりたい」


 火傷の痕は大分薄れましたが、まだ残っている其処にカリス様が薬を塗ると子ども達はむくれます。


「悪いが、これは父様の仕事だからね」

「「ずるい‼」」

「そう、これはお父様の仕事なの、エミもアルフォンスも我慢してね」


 そう言って我が子を抱きしめるとふにゃりと子どもらは笑みを浮かべます。


「「えへへーかあさますきー」」

「私もよ」

「おっと、母様の一番は私だぞ」

「「ぶーぶー」」


 大人げないカリス様と、可愛い子どもたち。

 この縁があったのも、今の私がいるのも、メイガス家の方々と……


 亡き母が作った良縁という籠がったからです──









久しぶりの短編です。

息抜きにざかざか書きました。

母親の縁と、自分の行動がアリスに最良の結果をもたらしたというものです。

アリスの身分を落とす原因になった父親は炭鉱奴隷になったのでそこで溜飲をさげて頂けると。


ここまで読んでくださりありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
た、た、たっ!!短編だぁ!?おっと、失礼しました。あまりの嬉しさに驚いてしまいましたわ。しかし、短編を出してくれるのはありがたいですが、無理はしてませんでしょうか?ツイの方見る限り、調子は悪そうですし…
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