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飢えは怖いし辛いしなんだか嫌だ

自分が一番親しかった友人が言っていた。


「この世界は広いから、僕達みたいな人は見つけてもらうのに、沢山の目がいるんだ。でも神様は、一人でこの世界を見ているからすぐに見つけて貰えないんだ」


空を見ていた友人はこちらを向き言った。


「ここはきっと、神様の目の端っこなんだ。まだ見てもらうことは出来ないけど、きっといつかは僕たちを見つけてくれる」


そう言った友人は眩しいほどの笑顔だった。


正直、私はもうこんな生活にうんざりしていた。

周りを見れば飢えに苦しみ死んでいった動物、あるいは人。

今にも崩れそうな高い建物、生い茂る植物。

鼻を刺すような腐敗臭。

いつかなんて、遅すぎる。

いつかを待っていたら、自分もそこらに転がっている物と同じになるのだと。


「いつになれば、神さまは私たちをみてくれるの?」


思わず口に出る。


友人がそんな私の質問に、なんと答えていたか忘れてしまったけど。

とても温かい言葉だった。


気がする。



夢から覚める、周りを見渡すと四方は鉄でできた壁で囲まれている。

この部屋は、化物を掃除処理する施設の一角。


私の部屋だ。


机の上には、最低限の食事と薬が一錠。


目覚めてすぐは、いつも喉が張り付くような乾きを感じる。


近くにあったコップに一杯の水を注ぎ、薬と一緒に飲み込む。

徐々に喉の乾きは薄れ、水が胃に到達するとそれまで感じていなかった空腹感が押し寄せる。


机の上に用意されたパンを手に取り、一口食べる。

口の中に入った途端普通とは思えないパサつきと酸味を感じさせる、飲み込もうと喉を動かすが体が拒絶して飲み込めない。

必死にそのパンを飲み込み栄養を摂取する。


食べ終わると物足りないような感じはするが、今すぐ食べなければいけない空腹感からは解放された。


今日は仕事だ、部屋に備え付けてあるクローゼットから装備を取り出す。

仕事には、掃除用具が必要になるので点検を始める。


掃除用具を分解し、特殊な液体や布を使って綺麗にしていく。

各パーツの変形や摩耗が無いかの確認をしたら、可動部などに油をさしていく。

最後に組み立て直し、最終確認を行う。


問題は見つからなかったので装着、準備を整えドアに手をかける。

外に出たら、意味は無いが部屋に鍵をかける。


少なくとも、十年間は同じことを繰り返している。

飲んで 食べて 点検して 鍵をかける。

もはやこの動作がなければ、不安で仕方がない。

準備が整ったので、現場へ向かう


現場へ到着すると、すぐに肉の腐ったような臭いが鼻をつく、そこには腐敗の進んでいる死体を身体中に切り貼りしたような化物が居る。

弱点は脳、心臓と足。

私たちはまず最初に足を狙えと教えられる。

体の構築部位で一番不安定だからだ。


化物はこちらの存在に気づき、その巨体からは考えられない速度で一気に近づいてくる。


冷静に足を撃ち抜くと、化物は倒れ叫び声をあげながら、その場で暴れ出す。


「5@#7=353」


いつも化物からは、訳の分からない叫びを聞かされる何を言っているのかは理解できないが、きっと食ってやるとか殺す的なあれだろう。


暴れているうちに正面へと周り、ゆっくりと掃除用具を構え、脳を撃ち抜く。


「*6@@@@@@#8!85@=7!@8!」


化物は悲鳴をあげながらやがて動かなくなった。


今日も仕事が終わった。

毎日このよく分からない化物を掃除していると、だんだん辛くなってくる。

感情や記憶が、抜け落ちていっている気がする。

それが、この化物の能力なのかもしれない。


化物の一部を切り取り、掃除を終えたことを報告する。


「今日の掃除は完了しました。」


表情のよく分からない髭面の社長みたいな人は、声を聞くと紙を渡してきた。


「ここに、今日の日付と名前を記入してくれ」


この紙は掃除を完了した事の証明書であり、名前と日付を書くことによってご飯が貰える。

私はペンを取り記入していく。


日付 2月8日

名前 ヒイラギ


社長は紙を受け取ると完了の印を押し、食事札を部屋へと送ってくれた。

今日もこうして生きていける。


部屋に戻ると食事札が受け取り口に来ている。


札を取り部屋の前に引っ掛ける。

札を掛けることによって、次の日に料理が部屋まで届けられると言うシステムだ。


二月八日と十二月八日に必ず仕事がある。

この一年に2回ある日を逃すと札が貰えないので、水と薬だけで空腹に耐えることになってしまう。

人によっては食事は要らないと言うけれど、私は無いと辛い。

物を口に入れて咀嚼する、この動作がなければ飢えている感覚が収まらない。


飢えは嫌い。


友人も、結局飢えて死んでしまった。

輝いていた友人は、周りの死体と変わらない物になってしまった。


私は食べるものが出来たから生き残ってしまった。

食べなければ、失礼だと思ったから。




時間が過ぎていき、また仕事の日が来た。

相変わらず、飲んで 食べて 点検して 鍵をかける。


十二月ともなれば寒い。

つま先から耳の先までキーンと冷える、ちょっとの振動で体が痛むそんな月になった。


現地に向かう。

今日の化物はなんだが腐敗臭が少ない。

人間の子供と変わらないくらいのサイズ感だ

体のあちこちに欠損が見える程度で、補強している様子も無い。

新種の個体の可能性もある。

悪寒が走る。


寒さのせいだ。

きっと、そう。


化物は急に口を開く


「+884@*8 」


不思議な気持ちだ、普段なら分からない叫びなのに声として聞こえるような。


名前を、呼ばれているような。


そんな、懐かしい気持ち。


「あなたは、誰」


化物は問いかけには答えてくれなかった。

もしかしたら向こうも、私が発する言葉は理解はできないのかもしれない。


息を整える、深く深呼吸して白い息を沢山吐く。

目の前の、変な生物に対して掃除用具を向ける。

寒さで指先が震える、上手く力は入らない。

頭がズキズキする。


「=8?8*@#97#85@8!@4@」


全身が硬直する。


撃てない。


それでも私は、これ以上この化物に掃除用具を構えれない。


化物をしばらく観察していると、襲ってくる様子も無かったので連れて帰った。


「=@?8+@?853847」


施設に行く途中も、この子は何かを喋り続けていた。

理解は出来ないけど、温かい言葉な気がする。

連れ帰った所を見つかれば、私諸共殺されるかもしれないがこの子の事を知りたくなった。


「私、ヒイラギ。貴方は?」


分かるわけがなかった。

身振り手振りで伝えてみたが、効果はいまひとつのようだ。

意思の疎通が出来ず、いつ襲ってくるかも分からないような化物を二月までのご飯を犠牲にしてまで助けてしまった。

あんなに飢えは嫌だったのに、この子も為なら我慢出来る気さえあった。

不思議な感情。


「=@?8#@?@+@6@00@4885@!!&@」


化物は相変わらず、よく分からないことを喋っている。

さっきは少し理解できたような気がしたんだけど、少なくとも今はさっぱりだ。

こちらの言語も伝わらないので確認することも出来ない。


ご飯は貰えないし、よく分からない化物は拾って来たし。

踏んだり蹴ったりだと思うが、割と私のせいでもあるためなんだがやるせない。


言語の理解できない化け物との共同生活は、流石に困難だ。

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