第4話:木の皿と、食卓に彩りを!
翌朝。焚き火のそばで目を覚ますと、ルークが待ちきれない様子で足元をチョロチョロしている。その小さな鼻は、既に朝食の匂いを求めてピクピクと動き、青い瞳は期待に満ちてキラキラと輝いている。ユウキの朝食と、ルークの食料を探すため、今日の準備に取り掛かる。
「お、ルーク、今日は随分と早起きだな! もう腹減ったのか?」
ユウキが声をかけると、ルークは「ワフッ!」と一声、元気よく吠えてみせた。その愛らしい様子に、ユウキの顔も自然と緩む。異世界での生活は、この小さな相棒がいるだけで、格段に明るく楽しいものになっていた。
今日のクラフトは、調理したものを盛るための**『木の皿』**にしよう。黒曜石のフライパンと石の出刃包丁が揃ったことで、料理の腕は上がったが、盛り付けは相変わらず大きな葉っぱや平らな石の上だ。これでは味気ない。ちゃんとした食器があれば、もっと食事が楽しくなるはずだ。視覚的な満足感も、食事の大切な要素の一つだと、ユウキは考えていた。
「よし、見た目も美味そうに見せる一歩だな!」
嘆きの森をルークと探索する。森の中は、相変わらず複雑な様相を呈している。太い蔓が絡みつき、地面には苔がむすぶ。しかし、ルークが一緒だと、不思議と心が落ち着く。彼は嗅覚だけでなく、足元に潜む小さな危険や、隠れた食材を見つけるのが本当に上手い。今日もルークの案内で、鮮やかな色のキノコや、甘酸っぱい香りを放つベリー、さらには小川のほとりで生育する、独特の香りがする野草など、色々な食材を見つけることができた。ルークは、まるで宝物を見つけるかのように、新しい食材をユウキに教えてくれる。
拠点に戻り、早速今日のクラフトだ。森で見つけた、軽くて加工しやすい木材を吟味する。丈夫でありながら、加工すると美しい木目が浮き出るような、理想的な一本を探し出す。その木材を、石の出刃包丁で丁寧に削り、形を整えていく。最初は粗削りだった木の塊が、ユウキのゴツい手の中で、少しずつ「皿」の形へと変化していく。
脳内で「クラフト:木の皿」の文字が浮かび上がる。ユウキの魔力が木材に流れ込み、表面が滑らかになり、温かみのある**木製の皿**が形を成した。直径はユウキの掌二つ分ほどで、深さも程よく、様々な料理に対応できそうだ。木目も美しく、手に取ると温かい感触が伝わってくる。
「よし、これで盛り付けが楽しくなるぞ!」
ユウキは満足げに皿を手に取り、その質感を確かめるように指でなぞった。
早速、石の出刃包丁で食材(採れたてのキノコ、野草、ルークが見つけたベリーなど)を細かく刻み、黒曜石のフライパンで丁寧に焼く。今日は、昨日よりもさらに多くの種類の食材を組み合わせて、見た目も味も工夫した「おっさん特製彩りミックス炒め」のようなものを作る。フライパンの上でジュージューと音を立てる食材から立ち上る香りは、森の空気に溶け込み、食欲を一層掻き立てる。
調理中に、ふと前世の記憶が蘇る。ラグビーの合宿で、大勢の仲間と大鍋を囲んで食べた料理の数々。練習後の疲れた体に染み渡る、シンプルながらも温かい料理。キャンプで、焚き火の炎を見つめながら作った、創意工夫を凝らした料理。「やっぱり、料理は食うだけじゃなくて、作ってる時も楽しいんだよな」ユウキは改めて、料理をすることの喜びを噛みしめる。特に、この異世界では、全てが手作りだ。素材探しから調理、そして盛り付けまで、全て自分の手で行う。それが、何よりも大きな喜びとなっていた。
出来上がった料理を、その新しく作った木の皿に盛り付ける。色とりどりのキノコ、鮮やかな緑の野草、そして甘酸っぱいベリーが、木の皿の上で鮮やかなコントラストを描く。粗末な森の中とは思えないほど、鮮やかな彩りが食欲をそそる。自分の手で作った「食卓」に、じんわりと感動が込み上げる。「うん!やっぱ、料理は見た目も大事だよな! 雰囲気ってやつだ!」
ルークにも料理を分け与える。もちろんルーク用は相変わらず大きな葉っぱだが、ユウキの木の皿の横に並べることで「食卓を囲む」雰囲気を出す。ルークは鼻をヒクヒクさせ、その美味しそうな香りに我慢できないといった様子で、あっという間に平らげた。そして、満足そうにユウキの顔を見上げ、「クゥン!」と小さく鳴いた。その瞳は、まるで「ありがとう」と言っているかのようだ。
美味しい料理と新しい食器に囲まれ、ルークがますますユウキに懐き、表情豊かになっていく。料理をねだるだけでなく、ユウキの周りを飛び跳ねて喜びを表現したり、時折心配そうに見つめたり。ユウキが少し離れると、寂しそうに「クゥーン」と鳴いて追いかけてくる姿は、まるで小さな子供のようだ。
「嘆きの森」という物騒な場所なのに、食事が豊かになり、モフモフの仲間と穏やかな時間が流れる。このギャップが、きっとこの森の日常になるのだろう。ユウキの心は、前世での様々な経験と、この異世界での小さな成功体験によって、ゆっくりと満たされていくのを感じていた。
一日の終わりに、パチパチと音を立てる焚き火の炎を見つめながら、次は何をクラフトしようかと考える。今日、料理を盛り付けている時に、ふと思いついた不便さを解消する「アレ」だな。あれがあれば、もっと効率的に、そして衛生的に料理ができるはずだ。
「よし、明日はあれを作るぞ!」
次なるクラフトに期待を膨らませ、ユウキは静かに目を閉じた。