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第2話:黒曜石のフライパンと、モフモフとの共同戦線!


翌朝。夜明けと共に目を覚ます。慣れない嘆きの森での野宿だったが、「健康に長生きできる」ボーナスのおかげか、体はすっきりしている。前世では、土の上で寝たら体がバキバキになったものだが、今はまるで高級マットレスで寝たかのように爽快だ。朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、小さく伸びをした。鼻腔をくすぐるのは、焚き火の残り香と、森独特の湿った土の匂い。


「よーし、今日も美味い飯食うぞ!」


気合を入れて、今日のクラフトを考える。昨日の今日で、いきなり豪華な料理は無理だ。しかし、火だけでは腹は膨れない。この森で手に入るであろう、様々な食材を調理するためには、しっかりとした調理ができる道具が必要不可ブルだ。生のまま食べるには、どうしても抵抗がある。それに、焼いた方が美味いに決まっている。


「よし、今日はこれだな!」


脳裏に浮かんだのは、シンプルながらも使い勝手の良い、まさにキャンプ飯の主役だ。今日のクラフトは**『黒曜石のフライパン』**に決めた。調理の基本中の基本だ。焼く、炒める。これさえあれば、手に入る食材の調理法が一気に広がる。熱効率も高く、焦げ付きにくい特性を持つ、最高のフライパンをイメージする。


まずは素材探しだ。焚き火の火を少し大きくして、辺りの木々を注意深く見渡す。平らで、熱に強く加工しやすい石が必要だ。しばらく歩くと、そこかしこに点在する、深く黒光りする**特殊な石**(※黒曜石)が目についた。叩くと鋭利な破片が飛び散るほどの硬度と、滑らかな表面を持つ。これなら熱を均一に伝えることができそうだ。さらに、しっかりとした持ち手にするため、焚き火で熱消毒した丈夫な木の枝を見つける。ユウキのゴツい手でそれらを器用に組み合わせ、意識を集中する。


脳内に「クラフト:黒曜石のフライパン」の文字が浮かび、ユウキの魔力が素材に流れ込んでいく。ゴツい掌の中で、集めた黒い石と木の枝が微かに光を放ち、熱を帯び始めた。まるで粘土をこねるように、素材がユウキの意思に応えるように形を変えていく。金属を叩くようなカンカンという音、そして石が削られるような独特の匂いが混じり合う。やがて、光が収まると、手に馴染む重厚な**黒曜石製のフライパン**が顕現した。見た目は少々武骨だが、ズシリとくる重さと、しっかりとした木の柄が特徴だ。表面は滑らかで、指でなぞると吸い付くような感覚がある。これならガンガン熱を入れられるし、食材に火が均一に通るだろう!


「うむ、我ながらなかなかの出来だ! これで美味いもんが焼けるぞ!」


ユウキは満足げにうなずいた。まだ何も調理していないのに、早くも腹の虫が鳴き始める。

早速、火力を調整した焚き火の上にフライパンを置く。ジワリと熱が伝わり、フライパンから温かい空気が立ち上る。そして、森の中で見つけたキノコ──前世のキャンプ知識と勘で、毒ではないと判断した丸くて肉厚なキノコ──と、甘そうな木の実をいくつか乗せてみた。キノコは薄切りに、木の実も半分に割って、均一に火が通るように工夫する。


ジュージューと、食欲をそそる音が、静かな嘆きの森に響き渡る。焦げ付かないように時折揺らし、香ばしい匂いが立ち込め始めたその時だった。


ガサリ、と草むらが揺れる音がする。

ユウキは反射的に音のした方向へ視線を向けた。何かがいる。魔物か? しかし、殺気のようなものは感じない。そっと目を凝らすと、一対の輝く青い目がこちらをじっと見つめていた。その視線の先には、純白のフワフワした毛並みを持つ、子犬ほどの大きさの生き物。警戒しつつも、興味津々といった様子で、小さな鼻をヒクヒクさせている。どうやら、キノコと木の実の焼ける香りに誘われたらしい。


「お? お前も腹減ってるのか?」


ユウキはゆっくりと、警戒されないように声をかけた。白い子狼はビクッと体を震わせたが、逃げ出すことはしない。むしろ、尻尾を小さくフリフリと振り始めた。その仕草に、ユウキの顔も思わず綻ぶ。こんな森の奥で、こんな可愛らしい生き物に出会うとは。警戒心はあるが、餓えの方が勝っているらしい。


「大丈夫だ。これは俺が作った料理だ。お前も食べられるぞ」


そう言って、優しく促すと、白い子狼は恐る恐る口をつけた。熱いのか、フーフーと息を吹きかけながらも、ゆっくりと咀嚼を始める。途端に、その青い目が大きく見開かれる。


「クゥン!」


小さく一声鳴ると、白い子狼はがっつくようにキノコと木の実を平らげ始めた。あっという間に口の中のものが消え、さらに催促するようにユンユンと鼻を鳴らす。その食べっぷりに、ユウキも思わず笑みがこぼれる。まるで、この世で一番美味いものを食べているかのような喜びが、その小さな体から溢れ出ている。


「そんなに美味いか! よかったよかった」


あっという間に食べ終えると、白い子狼は満足そうにユウキの足元にちょこんと座り込み、今度は完全に安心しきった様子で、嬉しそうに尻尾を大きく振り始めた。その白い毛並みが、まるで小さな雲のようにモフモフと揺れている。顔を撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らし、そのままユウキの足に頭をすり寄せてきた。


「よしよし。お前も寂しかったんだな。まさか『嘆きの森』で、こんな可愛いモフモフと出会えるとはな。今日からお前は**ルーク**だ! 明日からは、ルークも一緒に美味いもん探そうぜ!」


ユウキが頭を撫でると、ルークは気持ちよさそうに目を細め、そのままユウキの太い足に寄り添って、安心しきったように微睡み始めた。こうして、ユウキの異世界開拓生活は、早くも最初の仲間を得て、少しだけ賑やかになったのだった。一人きりのサバイバルに、温かい光が差し込んだようだった。


焚き火の炎がパチパチと音を立て、ルークの規則正しい寝息が聞こえる。明日からは、このモフモフの相棒と、どんな食材を見つけ、どんな料理を作ることになるのだろう。想像するだけで、心が弾んだ。


「さてと、明日は……」


ルークの温かい体温を感じながら、ユウキは次なるクラフトに思いを馳せ、静かに目を閉じた。


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