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第19話:食感の魔法!洞窟の泡だて器


翌朝。ユウキは、洞窟に設置された石釜の残り火の温かさに包まれながら目を覚ました。ひんやりとした洞窟の空気も、石釜のおかげで以前よりずっと過ごしやすくなっている。隣ではルークが、ユウキの胸元に顔をうずめて、穏やかな寝息を立てている。


「よしよし、ルーク。おはよ。今日も一日、頑張るか!」


優しく頭を撫でてやると、ルークは「クゥン」と小さく鳴いて、体を伸ばした。その愛らしい仕草に、ユウキの顔も自然と緩む。朝一番のルークとの触れ合いは、ユウキにとって何よりの癒やしであり、この「嘆きの森」での日々を充実させる原動力となっていた。


**今日一日でクラフトできるものは一つだけ。** 石釜、蒸し器、燻製器といった調理器具は揃い、塩、醤油、果実酒、樹液糖、そして味噌といった調味料も手に入れた。乳鉢と乳棒で食材加工の幅も広がり、完全密閉型保存容器や携帯型保温・保冷容器も揃った。食に関する基盤は完璧に整い、食卓はあらゆる味覚で豊かになった。しかし、ユウキの頭の中には、**「食材に空気を含ませたり、液体を均一に混ぜ合わせたりする、より繊細な調理」**への欲求が湧き上がっていた。これまでの道具では、ただ混ぜることはできても、空気を含ませてフワフワにしたり、滑らかなソースを作ったりすることは難しかったのだ。


「なぁ、ルーク。フワフワのオムレツとか、クリームみたいなもの、作ってみたいと思わないか?」


ユウキが問いかけると、ルークは「クゥン?」と首を傾げ、真っ直ぐな青い瞳で見上げてきた。まるで「それって美味しいの?」と聞いているようだ。


「ああ、もちろん美味いに決まってるさ! だから、今日のクラフトは……**『泡だて器』**に決めた!」


これで、森で見つけた特定の植物の卵に似たもの(もし見つかれば)を泡立てたり、滑らかなソースやドレッシングを作ったりと、料理のテクスチャーとバリエーションが飛躍的に広がるだろう。素材は、森で見つけた、しなやかで弾力性のあるつると、それを固定するための丈夫な小枝、そして柄にするための加工しやすい木材を使う。


早速、クラフトに取り掛かる。ルークも、ユウキの周りをちょこまか動き回りながら、作業の様子を興味深げに見守っている。洞窟の奥、調理台のすぐ隣の、作業しやすい場所を選定した。まず、石の出刃包丁を使い、採集してきたしなやかな蔓を丁寧に選別し、適切な長さに切り揃える。次に、それらの蔓を束ね、先端を細かく裂いて、空気を効率よく取り込めるような形状に加工する。小枝で蔓の束をしっかりと固定し、最後に手に馴染むように加工した木製の柄を取り付ける。


ユウキが手を動かすたび、ルークは鼻をヒクヒクさせたり、しっぽを小さく振ったりして反応する。ユウキも時折ルークに目をやり、「もうすぐできるぞ」と声をかける。その度にルークは「ワフッ!」と応え、まるで応援しているかのようだ。


脳内で「クラフト:**泡だて器**」の文字が浮かび上がり、ユウキの魔力が素材に流れ込んでいく。蔓は魔力によってさらにしなやかさと弾力性を増し、空気を効率よく含ませる構造へと変化する。固定する小枝や柄も、魔力で耐久性が向上し、激しい使用にも耐えられるようになる。やがて、光が収まると、ユウキの掌に、見た目は素朴だが、機能美を備えた**しなやかな蔓製の泡だて器**が一つ、完成していた。先端の細かく裂かれた部分が、まるで小さな網の目のように見える。


「ルーク! 見てみろ! これが泡だて器だ!」


ユウキが完成したばかりの泡だて器をルークに見せると、ルークは前足を立てて立ち上がり、鼻先を近づけてクンクンと匂いを嗅いだ。その仕草に、ユウキは思わず笑みがこぼれる。


「うおお! できたぞ! これでフワフワの料理が作れる!」


ユウキは興奮して、出来上がった泡だて器を眺めた。これはまさに、食の可能性をさらに深めるための、新たな調理の道具だ。


早速、泡だて器の試運転だ。森で見つけた、鶏卵に似た小さな卵をいくつか取り出し、新しく作った深皿に割って入れる。泡だて器を手に取り、勢いよく卵をかき混ぜ始める。シャカシャカ、シャカシャカ、という軽快な音が洞窟内に響き渡る。すると、みるみるうちに卵が白く泡立ち、フワフワのメレンゲ状になっていく。


ルークは、ユウキの隣にピタリと寄り添い、目を輝かせながら泡だて器の動きを見つめている。フワフワに変化していく卵に、しっぽを大きく振っている。


「どうだ、ルーク? すごいだろう? これで食感が全然違うんだ!」


ユウキがそう言うと、ルークは「クゥン!」と短く鳴き、ユウキの足に頭をすり寄せてきた。まるで「早く食べてみたい!」と言っているかのようだ。

今日の料理は、泡立てた卵を石釜で軽く焼いた、フワフワのオムレツのようなものだ。これに、樹液糖を少し混ぜた果実のソースを添える。これまでとは違う、軽やかでとろけるような食感に、ユウキは感動した。


ルークも、いつも以上に美味しそうに料理を平らげ、満足げにユウキの足元で丸くなった。泡だて器が手に入ったことで、ユウキの料理への意欲はさらに高まった。ルークの嬉しそうな顔を見るたびに、ユウキの心も温かくなる。


泡だて器の完成は、ユウキの異世界生活における食の表現をさらに豊かにした。食材のテクスチャーを自在に操れるようになったことで、料理のバリエーションと奥深さが飛躍的に広がった。この「嘆きの森」での生活は、ルークというかけがえのない相棒と共に、ますます充実したものとなった。この洞窟は、まさに「食の楽園」へと変わりつつあった。


一日の終わりに、石釜から放出される穏やかな熱を感じながら、ルークの頭を撫でる。ルークもユウキの腕に顔をこすりつけ、小さな寝息を立てている。次は何をクラフトしようかと考える。食に関する生活基盤は完璧に整った。次に考えるべきは、**この豊富な食料を活用し、さらに「食の多様性」を追求するアイテム**か。あるいは、**食料の「栽培」や「飼育」といった、より安定した食料供給源の確保**に繋がるアイテムか。


「よし、明日は、この洞窟での生活をさらに充実させるための、あれを作るぞ!」


ユウキはルークの温もりを感じながら、次なるクラフトに期待を膨らませ、静かに目を閉じた。


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### 連載スケジュールについて


本日が**2025年7月26日(土)** ですので、初回公開日となります。


* **本日(7月26日)と明日(7月27日)で、初回として各日10話ずつ、一挙に公開いたします!**

* 本日中に、第1話~第10話までを公開。

* 明日(7月27日)に、第11話~第20話までを公開。


* その後は、**平日(月~金)は朝と晩に1話ずつ**、そして**週末(土~日)は朝・昼・晩に1話ずつ**公開していく予定です。


読者の皆さんのニーズや反響があれば、公開ペースを増やすことも検討してまいりますので、応援よろしくお願いします!


おっさん・ユウキとルークの異世界開拓記、ぜひお楽しみください!


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