第12話:食の広がり!洞窟の簡易醸造壺
翌朝。ユウキは、洞窟に設置された石釜の残り火の温かさに包まれながら目を覚ました。ひんやりとした洞窟の空気も、石釜のおかげで以前よりずっと過ごしやすくなっている。隣ではルークが、ユウキの胸元に顔をうずめて、穏やかな寝息を立てている。
「よしよし、ルーク。おはよ。今日も一日、頑張るか!」
優しく頭を撫でてやると、ルークは「クゥン」と小さく鳴いて、体を伸ばした。その愛らしい仕草に、ユウキの顔も自然と緩む。この「嘆きの森」での日々は、ルークというかけがえのない相棒と、そして「食」への飽くなき探求心によって、ますます充実したものになっていた。
今日一日でクラフトできるものは一つだけ。調理台と流し台が完成し、食材の下処理から後片付けまで、料理の一連の流れが格段にスムーズになった。塩や醤油といった調味料も手に入れ、日々の食卓はまさに「楽園」と呼べるほど豊かになった。しかし、ユウキの頭の中には、**この充実した食生活に「もう一つ」彩りを加えたい**という欲求が芽生えていた。前世で、疲れた一日の終わりに嗜んだ、あの「一杯」の記憶。そして、料理の幅をさらに広げる、酸味を効かせた調味料の存在。醤油のクラフトで培った発酵の知識が、ここでも役立つはずだ。
「よし、今日のクラフトは……**『簡易醸造壺』**に決めた!」
これで、森で採れる様々な果実を使って**果実酒**を作ったり、料理に使える**酢**を醸造したりできる。酒は飲むだけでなく、料理酒として風味付けにも使えるし、酢は保存食の調味料としても活用できる。食の多様化と保存の幅を広げる、まさに一石二鳥のクラフトだ。大掛かりな設備ではなく、洞窟の環境を利用した、小さくても機能的な壺を目指す。素材は、洞窟内に豊富にある、発酵に適した性質を持つ粘土質の土と、熱に強い石、そして密閉するための特殊な葉を使う。
早速、クラフトに取り掛かる。洞窟の奥、水源にほど近い、比較的温度と湿度が安定している場所を選定した。ここなら、発酵に適した環境を保ちやすいだろう。まず、石の出刃包丁を使い、採集してきた粘土質の土を丁寧にこねていく。水を加え、異物を除去しながら、なめらかな粘土へと加工する。そして、その粘土を器用に成形し、壺の形を作り上げていく。口は狭く、胴体は丸く、発酵に適した形状を意識する。
脳内で「クラフト:**簡易醸造壺**」の文字が浮かび上がり、ユウキの魔力が素材に流れ込んでいく。粘土が焼き固められ、内部の微生物が活性化するような、独特の熱が壺から発せられる。まるで陶芸家が魂を込めるかのように、ユウキのゴツい手の中で、ずっしりと重く、頑丈な壺が形を成していく。やがて、光が収まると、ユウキの膝ほどの高さを持つ、素朴だが機能的な**簡易醸造壺**が形を成した。表面は滑らかで、熱に強く、内部は発酵に適した構造になっている。
「よし、これで酒も酢も作れるぞ!」
ユウキは満足げに醸造壺を眺めた。これで、この洞窟は、食料の生産から加工、保存、そして新たな調味料の創造まで、全てを完結できる「食の要塞」へと進化していく。
早速、醸造壺の試運転だ。森で採集してきた、甘酸っぱい香りを放つ**赤い果実**を、調理台の上で石の出刃包丁を使い丁寧に潰し、果汁を搾り取る。その果汁と、洞窟の水源から汲んだ清らかな水、そして少量の手作り塩を醸造壺に入れる。最後に、発酵を促すために、醤油クラフトで使った黒いカビを少量混ぜ込む。壺の口を特殊な葉でしっかりと密閉し、洞窟の安定した場所に置く。
その様子を、ルークがユウキの足元にチョコンと座り込み、キラキラした青い目で醸造壺の中を覗き込んでいる。ユウキが何か新しいものを作っていることに、興味津々といった様子だ。
「ルーク、これは時間がかかるぞ。美味い酒ができるまで、もう少し我慢だな!」
そう声をかけると、ルークは「クゥン」と小さく鳴いて、ユウキの足に頭をすり寄せてきた。まるで「うん、楽しみだね!」と言っているかのようだ。
醸造は、時間がかかる分、完成した時の喜びも大きい。ユウキは、前世で培った発酵の知識と、この異世界で手に入れたクラフトスキルを組み合わせることで、まさに「異世界流醸造術」を確立しつつあった。
数日後。醸造壺から、かすかに甘く、そしてアルコール特有の香りが漂ってきた。壺の口を開けると、琥珀色に輝く液体が満たされていた。一口飲んでみる。口に含むと、甘酸っぱさと共に、心地よいアルコール感が広がる。これは間違いなく、**果実酒**だ!
「うむ、完璧だ! これは美味い! 疲れた体に染み渡るなぁ!」
ユウキは満足げに果実酒を味わった。洞窟で手に入れた素材だけで、これほどの品質の酒が作れるとは、まさに驚きだ。
今日の料理は、石釜でローストした肉を、この果実酒で軽く煮込んだものだ。肉は柔らかく、果実酒の甘みと香りが染み込み、これまでとは一味違う深みのある味わいになった。
ルークも、いつも以上に美味しそうに料理を平らげ、満足げにユウキの足元で丸くなった。新たな調味料と楽しみが増えたことで、ユウキの料理への意欲はさらに高まった。
簡易醸造壺の完成は、ユウキの異世界生活に新たな彩りをもたらした。食料の確保、調理、保存の基盤が整い、さらに味のバリエーションと楽しみが広がったことで、生活の質が格段に向上した。この洞窟は、まさに「食の楽園」へと変わりつつあった。
一日の終わりに、石釜から放出される穏やかな熱を感じながら、ルークの頭を撫でる。次は何をクラフトしようかと考える。食に関する生活基盤はほぼ完璧に整った。次に考えるべきは、**この「嘆きの森」で、より効率的に、そして安全に食材を確保する方法**かもしれない。あるいは、洞窟での生活を、食以外の面でもさらに快適にするための工夫か。
「よし、明日は、この洞窟での生活をさらに充実させるための、あれを作るぞ!」
次なるクラフトへの期待を膨らませ、ユウキは静かに目を閉じた。
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### 連載スケジュールについて
**本日(7月26日)と明日(7月27日)で、初回として各日10話ずつ、一挙に公開いたします!**
その後は、**平日(月~金)は朝と晩に1話ずつ**、そして**週末(土~日)は朝・昼・晩に1話ずつ**公開していく予定です。
読者の皆さんのニーズや反響があれば、公開ペースを増やすことも検討してまいりますので、応援よろしくお願いします!
おっさん・ユウキとルークの異世界開拓記、ぜひお楽しみください!
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