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マハラジャ☆ラーメン1991

作者: コロン

 





「さあぁぁぁ〜!今夜も盛り上がって行こうぜぇ〜い!ジュ・リ・ア・ナ・ト・キ・ヨー!」









 時は1991年、バブル弾ける少し前。


 ディスコの盛り上がりはマックスで、巨大なウーハーボックスの上にはワンレンボディコンの戦闘服を着た女性たちがひしめき合う。

 太眉に合わせる口紅は、シャネルの青みがかったショッキングピンク。

 高いハイヒールのせいなのか、膝が曲がった立ち方でくねくねと踊るパンツ見え見えの彼女たちのその手には、貴族さながら巨大な扇子。

 扇子は巨大な方がいい。扇子の先のファーは必須だ。

 扇子がない日は、長いフェザーマラボーを首から下げて手拭い代わりに汗をぬぐう。



「ね、昨日の101回目のプロポーズ観た?」

「みたみた!武田鉄矢の「僕は死にません!」でしょ」

「素敵よねー!あんな風に愛されてみたい!」


 あそこでトラックに撥ねられていたら…

 鉄矢は異なった世界が見れたかもしれない。


「またちょっと踊ってくる」トレンディなドラマの話でひとしきり盛り上がった後、フロアに向かう。


 前から見たらスクール水着のようなワンピース。しかし背後は紐で編み上げの、お尻だけを折り紙ほどの布で隠したびんぼっちゃま仕様の衣装でお立ち台へ上がる。


 人呼んで「マラボーNAOMI」


 蝉の命は短いの。

 高く扇子をかざしヒラヒラと舞う。

 蝉の一生のように、人生の短い夏を今日も謳歌している。


( ※ 蝉は土の中に居る時間は7年と長く、虫のわりに長生きです )



 ★


 こんな私の趣味は実は編み物。


「じゃんっ!見て見て〜」


 誰も居ない部屋で1人、鏡に向かって笑ってみせる。

 ディスコに行かない日は風間トオルのセーターブックを見ながらセーターを編んでいる。

 BGMはもちろんMCハマーのU・キャント・タッチ・ジス。

 ダンサーたちの足の動きと同じように編み棒を動かすと、あっという間にセーターが編み上がっていく。

 トオルとお揃いのセーター。

 冬が楽しみ。


 激しく手を動かしたらお腹が空いたので、近所のラーメン屋に向かう。

 この店は、細麺に澄んだ醤油スープがあっさり美味しくて有名だ。


 入り口に吊られているブルーのライトが、バチバチと音を立てて容赦なく虫を殺している。

 私と同じようにお腹を空かした数人の客がラーメンを食べているのが見える。その哀愁漂う背中がココが営業中だと教えてくれる。


 ラーメンと書かれた黄色い暖簾を手で分けてひょっこりと顔を出す。

「やってる?」

 いつものように問い掛ければ変わらないマスターの笑顔。

「ぃらっしゃあっ!」

「マスターいつものやつお願い」

「へい!味噌バターラーメンぃっちょおうっ!」

「あ、コーントッピングも追加して」

「あいよ!コーンつぃかあっ!」


 ラーメンが出来るまで店の隅に置いてあるテレビを見れば、お笑いタレントが真似したMCハマー。

「やだ〜くりそつう〜」

 笑い過ぎて腹が痛い。


 マスターが高く放り投げる麺が宙を飛び、天井にぶつかり湯切りが終わる。


 ビチャン!


 乱暴に器に投げ入れられた麺。


「へい!お待ち!」


 私の前に出された味噌バターラーメンは、マスターの親指入り。

「マスター親指入ってるう〜」

「サービス!サービス!」

「やだも〜」


 ワンレンソバージュの髪がどんぶりの中に入らないよう、箸を持つ右手とクロスさせた左手で髪を押さえてラーメンを啜る。


 ずそそそそ…


 その仕草に周りのオトコたちは釘付け。


「マブイ…」そんな小さい呟きが聞こえた。


 この瞬間、私こそが時代の最先端を歩くいい女なのは間違いなかった。



 ★



 あれから30年の月日が経つ。


 ディスコの衰退と共に、私のディスコ熱も終焉を迎えた。

 その頃知り合った肩パッドが厳ついダブルのスーツが似合う男性と結婚し、子どもも二人育て上げた。


 最近ようやく一人の時間が取れるようになった。友人からデパートで無料で肌診断をしてくれると聞き、スーパーへの買い物がてら途中デパートに寄る。

 お肌ぷりぷりの販売員が、私の肌にマシンを当てる。


 ピピ…


「お客様のお肌は…」


 機械に表示された数字を紙に書き写しながら、販売員が説明してくれる。

 どうやら潤いが足りないらしい。



 「これが私の水分量…」



 実年齢より上を行く肌年齢にがっくりと肩を落とす。


 若い頃、欲しい物はツレの男性が買ってくれていた。

 今やネギ一本でも吟味し、1円でも安く手に入れようと必死の私。

 煌びやかなデパートの照明。あちこちの鏡に映る私はもうあの頃の輝きはなかった。


 今は近寄ることもないGUCCIの店舗。中央にあるソファーに座る一人の男性客が目に入った。

 ノームの帽子のようにとんがり上を向く靴。ナスのヘタのような頭にはサングラス。

 少し火に焼けた褐色の肌色をした男性は、何かお目当ての物を買ったのだろう。ニコニコと足を投げ出してソファーに座っているのが見えた。


 エスカレーターで移動する私の視界から遠ざかって行く若くもない男性。


「まだ生息していたんだ…」


 彼の笑顔がなんとなくおかしくて…


 私は前を向きデパートを後にした。


おしまい。


コロンは、ディスコにも合コンにも行った事はありません。

テレビを見てキラキラなお姉さんたちが羨ましかったです。


マラボーNAOMIとともに、コロンも応援してもらえると嬉しいです。


拙い文章、お読み下さりありがとうございました。

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祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり……いつか夢の終わりはくるものです。魂を焦がすような熱狂と贅沢をしない慎ましい生活、どちらが良いかと言われると難しいですね。 私としては慎ましい生活を選びたいです…
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