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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あたしの好きな幼馴染と

作者: pan

 高校に入学してから、もう二か月が経とうとしている。というのに、あたしは何も進歩していない。


 最近席替えをしたから退屈も退屈、今は窓際の席で友達と会話をしているけど退屈だ。

 時々相槌を打っては、名前を呼ばれたら返事をして会話を途切れないようにする。だって仕方ないじゃん。話したい相手は他にいるし。


 あたしは最近、対角線上にある席を見つめるようになった。

 そこは朝のホームルームが始まる前も、授業の合間にある休憩時間も、昼休みも放課後も、ありとあらゆる休み時間になれば人に囲まれる。


 今も席に座っている人物が見えるかどうかといった具合に人が群がっている。その様子を見れば人気者だと誰でもわかる。


 耳に入ってくる声だって「かっこいい」だの「素敵」だの褒め言葉ばかり。言われている当の本人は嫌な顔せずに笑顔を振りまいている。そういうところがモテるんだろうなあ。


 あたしはその光景を一週間ほど見ていた。羨ましすぎてしょうがない。今すぐにでも、あたしだって()に話かけにいきたいのに。どれもこれも全部席替えのせいだ。


 (あおい)とは幼稚園から一緒の幼馴染。

 家も隣同士で家族ぐるみで仲がいい。クラスだって一度も別れたことなない。しかも、あたしの苗字は『さかまち』で葵は『さくら』、つまり出席番号順に並べば高確率で並ぶことになる。もはや家族なのではと思ってしまうほど一緒にいる。


 しかし、中学のときに一度だけ『さくま』が入ってきて枕を濡らした日のことは忘れない。佐久間、許すまじ。


 それは置いといて、この高校に入学したときも席替え前は縦に並んでいたのだ。あたしは事あるごとに後ろを向いて葵に話しかけては、その日を満喫していた。


 だから、目の前に広がる光景を妬んでしまう。

 席替えする前は葵のまわりに人なんていなかったのに、この一週間でどうだ。日に日に葵を囲む人は増えていくし、ドアの近くにいるからか廊下から見ている人だっている。


「って(かえで)。話聞いてるのー?」


「え!? うんうん聞いてるよー。……で、なんだっけ?」


「やっぱ聞いてないじゃーん。ちゃんと聞いてよー、それでさ――」


 長ったらしい会話に飽き飽きしていることに気づかんのか、と思っても口に出さない。


 今は眺めていることしか出来ない自分を情けなく思っても、あたしは葵の悲しむような顔は見たくないから間に入れない。


 だったら、学校にいるときはこのままでいい。我慢できるし、多分。

 この際、会話に専念して一度忘れよう。


「でさ、結局付き合うの?」


「いやー、うちのタイプじゃないから絶対ナシ。気持ち悪いし」


 会話の内容から察するに興味のない男からの好意に苦言を呈しているようだ。まあ、確かに全然タイプじゃない男に言い寄られていたら悪口も言いたくなるけど。


 適当に話を聞いていたから半分も覚えていないけど、話は終わりかけているようで今日も乗り越えられそうだ。


「てかさ、楓ってどんな人がタイプなの?」


「え、タイプ? 男?」


「そりゃ男だろ、どんなんがいいん?」


 急に話を振られて、びっくりした。

 好きなタイプと言われても、すぐに出てくる。というか、好きな人いるし。

 もちろん、葵が好き――女の子だけど。




 小さい頃は男の子だと思って一緒に遊んでいた。男の子と言っても、昔のあたしの方が男勝りというか。虫を捕まえて怖がっている葵に見せつけたりしてただけだけど。


 幼稚園、小学校と時が進んでいったけど、何も疑わなかった。けど、中学校に入学してから制服というものを着て登校するようになって初めて知ることになる。


 葵が女の子だったってことにね。


 その時、すでにあたしは葵のことが好きというか、惚れる部分が垣間見えて心を動かされていたんだと思う。最初こそ慣れないでいたけれど、同性だと気づいてむしろ嬉しさが勝っていた。


 いや、だって罪悪感なしで触れ合いし放題じゃん。


 けれど、中学に入学してから葵は変わってしまった。女の子にしては伸びた身長に端正な顔で凛々しい。まさに、スポーツ少女のような風貌に入学してからバスケ部に勧誘され、そのまま入部していった。


 当たり前だった葵との時間が引き裂かれても、それは学校のときだけ。あたしはそう思って過ごしていたけど、現実はそうではなかった。


 そりゃ部活に入れば友達は増えるし、葵の見た目から男女関係なくモテるのも納得いく。学校では話す機会も減っていき、しまいには朝練や放課後の練習で登下校の時間も別々になってしまった。


 少し寂しい気持ちになって、たまーに泣きたくなる日もあったけど、あたしにも友達はいるし大丈夫。そう思い込んで過ごしていたけれど、やっぱ何をしても埋められない溝があった。


 そして気づけば二年生、三年生と時間は過ぎていき、進路の話が出てきた頃。

 その時も席は離れていたが、葵が突然あたしの席に来て話かけてきた。


「楓、高校どうするの?」


「あたし? うーん、近くの女子高かなあ」


「そう……。なら、わたしもそこにしようかな」


「え? ここバスケ部ないけど……」


「ううん、高校ではバスケやらないから。それに」


 この先の言葉は一生忘れることはない。いつか死にそうになったとき、脳内再生して悔いのない人生だったと言えるくらいには心に残っている。


「それに、中学ではあまり遊べなかったから、高校ではまた昔みたいに遊びたいなって」


 なんだよそれ、あたしのこと好きなの?

 そう言ってやりたくなるほど、この時の葵の顔は赤くなっていて目も合わせようとしなかった。


 でも、そんな葵を好きになった。

 不器用だけど気持ちは伝えてくれるし、なんだかんだ一緒にいてくれるし。みんなは葵の見た目のことしか見ていないみたいだけど、あたしは中身をよく知っている。優越感とかそんなんじゃなくて、葵にとって特別でいれるだけで嬉しかった。


「……なんかもう、好きなタイプってより好きな人のことじゃね?」


「確かに、楓って他校に知り合いでもいるの?」


「え? いないけど、何で?」


「いや、何でもない……」


 ありのままの好きなタイプを話していたつもりなのに、なぜかまわりは引いている。


 あたし以外にも優しくできて、気配りもできる。でも、あたしのことを大事にしてくれて、一緒にいたいと言ってくれる。


 かなり要約したつもりだけど、これで引かれるのはなんで?




 教室では見ていることしか出来なかったけど、放課後になればそれは別。


「楓、帰ろうか」


「おっけー!」


 高校に入ってからは葵と一緒に帰れている。好きな人と一緒に帰れるなんて高校生の青春そのもの。この時にどんな表情をしているのか自分でも見たくない。多分、ニヤニヤしているし、それを抑えようとしてキモイ顔になってると思う。


 しかし、葵は背が高いな。

 小学校低学年まではあたしの方が高かったのに、急に成長して気づけばあたしが軽く見上げないと目線を合わせられないくらいになっていた。


 運動していたのもあって体つきもそこそこいいし、まるで彼氏みたいな、って何を考えているんだ、あたし。


「楓、どうしたの?」


「ううん! 何もないよ! てか、顔近いよ!?」


 呆けていた顔をしていたのか、急に葵が心配そうにあたしの顔を見てきた。しかも、鼻が当たりそうなくらいに近くで。


 ホントずるいよ、そういうとこ。心配するなら声かけるくらいでいいのに、別に動作も加えちゃって。そりゃ、女の子も惚れちゃうよね。


 あたしは恥ずかしくなって急ぐように外靴に履き替えた。今の顔を見られるのだけは絶対に勘弁。

 逃げるように校門に向かうと、葵が小走りで追いかけてきた。


「ちょっと楓、どうしたの」


「何もないってば、ほら帰ろ!」


 怒っているわけでもないのに、感情がバレたくなくて強く当たってしまった。多分、教室でのことが少し気になっているのもあるんだと思う。


 今まであたしが話していた時間が他の人に取られてしまって、やきもちを焼いているのかな。

 考え事をしているうちに、いつの間にか先を歩いていた。


「……ねえ、楓」


 葵が後ろから話しかけてきた。あたしは後ろを振り向くと、右手が差し伸べられていた。


「何か嫌なこととかあった? それともわたしが何かしたとか……」


「え? 何もないよ! 大丈夫!」


 なんで素直に言えないんだろう。

 それは、葵との悲しむ顔をみたくないから?

 いや、あたしは葵との関係を終わらせたくないんだ。

 だって、女の子が女の子が好きって普通じゃない。

 変に思われても仕方ないし、だったら我慢して今の関係のままでいれば――。


「楓」


 葵ははっきりとした声で名前を呼ぶと、あたしを見つめてきた。葵の顔に当たる夕陽の影がなんとも悲しく見えて、情に訴えかけてくる。差し伸べられていた右手は、いつの間にか引っ込んでいた。


「あ、あのさ、昔楓が『嫌なことがあったら手を繋ぐの。そしたら、嫌なこと全部なくなるの』って言ったの覚えてる?」


 覚えているに決まっている。

 でも、それは健気な子どもの励まし方に過ぎない。葵を求めているあたしには効果があるのかもしれないが、手を繋ぎたいなんて言ったらどうなるのか考えたくもない。


「だから、手を繋ごうかなって思ったんだけど……。どう、かな?」


 照れ臭そうにしながらも、また右手が差し伸べられた。


 ああ、もう!


「……わ!? ちょっと楓、強いって!」


「何さ! 手を繋ぐって言ってきたのは葵でしょ! ほら帰るよ!」


 あたしは、もうどうにでもなれと思って考えるのをやめた。そのまま葵の手を強引に引っ張って帰路に向かった。


 葵もそうだけど、あたしも不器用だ。

 だって、手を繋いだ瞬間、さっきまであった溝が埋まり、心が満ちている。


 やっぱり、あたしは葵のことが好きなんだと思う。


 胸の高鳴り方が今までと全然違う。教室で見ていたときとも、学校で話しかけられたときとも違う。

 多分だけど、昔と同じように葵と過ごしかったんだな。



 あたしは、今日。



 あたしの好きな幼馴染と、手を繋いで帰りました。

お読みいただき、ありがとうございます。

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感想やレビューもお待ちしています。


=====================

さらなる後書き


これは僕の思う百合なので、思っているものと相違していたら申し訳ないです……。

そして、おそらくですが短編として『あたしの好きな幼馴染と』シリーズを作ろうかと思っています。

登場人物も設定も何もかも同じで、一話読み切りみたいな感じにしようかなと。

更新したら活動報告等で告知しますので、よろしくお願いします。

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