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少女漫画じゃないんだから  作者: 名も無き囚人
1/2

前編

思いつきなのでゆるりとお楽しみいただけますと幸いです。

 少女漫画にあるような、図書室の本を通じて文通し恋に落ちる話。そんな話が現実にあるのだろうか。


 相手の声も姿もわからないのに、文字の書き方や文体からこの人はこんな性格をしていてとかこんな感じの見た目でとか、なんかそんな感じで想像して、勝手に恋に落ちていくそんな話が。


 もしあったところでそれは俺に関係ないし、正直言うと「ふーん」って思うだけだ。


 嘘だ。


 めっちゃ気になる。

 野次馬よろしく、こんな事やってますぜ!?って吹聴したいくらいに面白いと思う。どんなことを書いてるんだ!?誰が書いてるんだ!?ってなる。


 だってそうだろ?


 今は手紙でやり取りなんてアナログなことしてるやつ滅多にいないし。

 そんな少女漫画みたいなことが起こるなんてなかなかないし。


 まあ、なんで俺がこんなことを思っているのかというと手紙が俺の借りた本の中にあるからである。


 もう一度言おう。


 手紙が俺の借りた本の中に入っていたからである。


 ……やばくね?


 いや、待って、言い訳させてくれ。


 この本がその文通に使われてる本だなんて知らなかったんだ。知ってたらこの本を借りる訳がない。誰かもわからない人たちの恋路を邪魔する理由もないし。


 入っていた手紙の主はおそらく女子だ。

 全体は可愛らしい薄ピンク色の、ふわふわした子猫らしきイラストが描かれている小さなメモ用紙。それが二つに折りたたまれていたのだ。


『あなたが好きです』


 女子っぽい丸文字でそう書かれて挟まっていたのだ。


 ……やばいだろ?


 まさかの展開。まさかのタイミング。

 女の子が勇気を出して伝えたこの時に、全然関係ない第三者の邪魔が入るとは思ってもみなかっただろう。というか第三者の俺が一番びっくりしてる。


 ってか、本を通じて文通するな!

 するならもっと誰も読まなさそうな本でしろよ!絶対俺以外にもこの本読んでるやついると思うし!!だってこの本、普通の文庫本だし、シリーズものなんだぜ!!!?


 本の貸し出し期間は二週間である。


 本来なら俺はじっくりゆっくりこの本を読んで堪能していただろう。

 だがしかし、この本を相手の男子がいつ開くかわからないため俺は早急にこの本を読み、急いで返却しなければならない状況にいる。


 まあ、別にゆっくり読んでもいいんだけどな。

 ぶっちゃけ俺、第三者だし。誰かもわからん相手の恋愛事情とか関係ないし。


 だがしかし、こんなラブレターという名の爆弾を抱えたままゆったりと読書をするメンタルは俺にはなかったのである。



 §




「あれ?池田、昨日に続いてまたすぐ図書室?」


 本の返却の為に図書室に入ろうとした手前で俺に声をかけてきたのはセミロングの髪を後ろに一つにまとめた女子。友達である宮本なぎさだ。


「別にいいだろ。それに、それを言うなら宮本もだろ。また図書委員の仕事か?当番って連続でくるんだな」

「んなわけないじゃん。また当番とかやってらんないよ!ちょっと昨日忘れ物したから取りに来ただけ」

「だよな、宮本が本読むわけないしな」

「ちょっと!?読むかもしれないじゃん!」

「読むのか?」

「読まないけどさ」

「ほら見ろ」

「なんかむかつくー!!」


 そう話しながら図書室に入る。

 受付には見覚えのある隣のクラスの女子がいた。名前は忘れたが。

 図書室内にはその子以外には誰もいなかった。

 彼女は俺の隣にいる宮本に気づき、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「あれー!?やっほー!なぎさじゃん、どしたの?」

「昨日、メモ帳忘れちゃってさ!」

「あ、もしかしてこれ?」

「それ!!ありがとうー!」


 にこにことメモ帳を受け取る宮本に、受付の彼女は、小声で興奮したように話し出した。


「ねー!聞いて、今日も来たよ!彼が!」

「えー、また?」


 にやりと笑う宮本に、俺は首を傾げた。


「何?誰の話?」


 俺の疑問に、二人してにんまりとした顔を向けた。


「知らない?女子の間で最近騒がれてるんだけどさ」

「そうそう、瀬崎くんがよく図書室に現れるのは、図書委員の誰かに会いに来てるんじゃないかって噂ね」

「候補としては、2組の稲垣ちゃんよね」

「うん、稲垣ちゃんめっちゃ可愛いしね。しかも稲垣ちゃんもまんざらでもなさそうだし」

「まあ稲垣ちゃんじゃない日も来るからどうなのかはわかんないんだけどね。本当はただ本を読みにきてるだけかもしんないし」

「いや、私の勘は恋愛がらみだといってるね!」

「きゃー!りほの勘当たるから本当にそうかもしれない!」


 女子は恋話が本当に好きだよなあ。

 楽しそうに話をする二人に、俺は呆れた視線を向けた。


 瀬崎一樹。

 俺らの学年の中で男女問わずに人気がある男だ。からっと明るい性格に、誰に対しても平等に優しく、人との距離の取り方が上手い。だからこそ友達も多い。ぱっちり二重のアーモンド型の目に形の良い眉、すっと高い鼻に薄い唇。少女漫画に出てくるヒーローかよってツッコミたくなるほどに完璧なイケメンだ。


 その瀬崎が図書室によく現れる?


 そこで俺はハッとした。


 あのラブレターの相手は瀬崎か!!!


 瀬崎が図書室に現れるのは、図書室の本で文通しているからだ。

 俺の予想ではこうだ。


 何かのきっかけで本を借りた瀬崎はそこにメモ用紙が挟まっていることに気づく。

 内容はそうだな……その本の感想とかにしておこう。

 その感想に対して人の良い瀬崎は、俺もそう思いました!とかなんとか書いたのだろう。

 そして読み終わった瀬崎は本を返却する。

 一方、感想をかいたメモを本に挟んだままにしてしまったとある女子はある日その本を手にし、見つけるのだ。

 感想に対する言葉が書かれたメモ用紙を!!!


 そこからなんやかんやあって文通がスタートするのだ。きっとたぶん。


 ってかマジで少女漫画じゃねーか!!


 俺はとてもわくわくした。

 まさか本当にそんなことが現実で起こるとは思わなかった。


 そうなると気になるのは、その瀬崎と文通する女子の正体だ。


 一体誰なのだろうか。


 少女漫画だと大抵、大人しそうな地味目の女の子だと決まっているのだが――


 そう俺が考えこんだ時、後ろから声が聞こえた。


「あの、本の返却をお願いしたいのですが」


 俺が振り向くと、そこには黒髪ロングの大人しそうな女の子がいた。まさに、先程俺が想像していたような女子像そのままの女の子だった。


「あ、はーい!こっちで伺いまーす!」


 宮本と話していた受付の子がにこにこと手を振った。

 女の子はぺこりと俺に会釈するとぱたぱたと俺の横を通りすぎた。


 女の子の上靴には緑のラインが入っている。俺たちの学年は赤ラインだ。つまり彼女は後輩にあたる。

 俺はじっと彼女を見つめた。


 顔立ちは可愛い系だ。ロングの髪は艶やかでサラサラとしている。瀬崎が抱きしめたらすっぽり収まってしまうような小柄でまさに小動物みたいな雰囲気。


 そして彼女の手には、俺が借りていたシリーズの本があった。


 あー!!!!見つけた!!!


 驚いて、目を見開いた。

 いた。なんてタイミングよく現れるのか。

 すげぇ。この子が瀬崎の文通相手!!


 マジかー!



「池田、ああいう子が好みなわけ?」

「え?」


 静かに盛り上がっていた俺の隣にいつの間にか宮本がいた。宮本はまっすぐに黒髪ロングの女の子を眺めている。


「いや、そういうわけじゃねーけど。なんで?」

「なんか……じっと見てたから」

「あー、それは」


 それは――なんて言おう。

 俺は言葉に詰まった。


 俺が借りた本に挟まっていたラブレターを書いた子で、瀬崎の(おそらく)好きな相手。


 だが、これを他人に言うのは違うだろ。


 てか俺が知ってしまったのも本来はダメなのに。


「あー、っと特に意味はないな。ちょっとぼんやりしてただけっていうか、ははは」

「……ふぅん」


 適当に誤魔化す俺に、宮本はなんとも言えない表情をしていた。なんだ?


 この日、俺が返却した本を瀬崎がちゃんと借りれたのかはわからない。そこは俺が介入していいところではないしな。

 返却した次巻にはもちろんメモ用紙は入ってなく、俺はもやもやがとけてすっきりした気持ちで物語をゆっくりじっくり堪能することができたのだった。



 §



「この本、面白い?」


 本を返却し続きを借りにきた俺に、受付当番の宮本が聞いてきた。本に興味がなさそうな宮本からの予想外のその言葉に俺は驚いた。


「え!!あの宮本が本に興味を!?」

「なんでそんなに驚くのさ。池田が熱心に読んでるし――あの子も読んでたし」

「え?最後の方なんて言った?」

「別に!まあとにかく!ちょっと気になっただけ!悪い?」


 全然悪くない。

 というか、むしろ良い。


 ムッとした顔をしている宮本に俺は笑った。


 このシリーズは、俺の読んできた本の中でも上位に入るくらいに面白い本だ。

 宮本が読んでハマってくれたら、本の話ができるし、俺は嬉しい。


「なら読んでみろよ。一巻あったし、持ってこようか?」

「えっ、じゃあ読んでみようかな」

「お!じゃあ取ってくるな」


 本棚へと戻るとそこには瀬崎の姿があった。

 男の俺から見てもやっぱり瀬崎はイケメンだった。


 そういえば、あの子とはどうなったのだろうか?


 本棚の前でじっと動かない瀬崎をチラチラと見ながら、俺は一巻を手に取った。


「あ!」

「わっ!?」


 急に叫ばれて、俺はビクリと体を震わせた。

 瀬崎が申し訳なさそうな顔をする。


「驚かせてごめん!俺も同じの読んでて、つい声が出ちゃった。それ面白いぜ!俺の今一番のおすすめ!!」

「うん。実は俺も途中まで読んでるんだ。面白いよな」

「だよなー!って、ん?また一巻読むのか?読み直し?」

「あー、いや、これは友達が借りるっていうから取りに来たんだ。俺が読んでるのを見て気になったらしくて」

「なるほどな。俺も友達が読んでてさ、気になって読んでみたらハマったんだよな。なあ、池田はどこまで読んだ?」

「俺はここまで読んだよ。今日はここの巻借りたんだ」

「おー!じゃあだいたい同じだな!なんだ、この巻ないなぁと思ったら池田が借りてるのか」

「え、マジか。ごめん、すぐ読みきるわ。なんなら今日借りたばっかだし、先読む?」

「いやいや、俺のことは気にせずゆっくり読んで!次こんな展開かなって想像してるのも楽しいからさ!」


 瀬崎は爽やかに「じゃあ俺はもう行くな!今度、感想語ろうぜ!」と笑って去っていった。


 イケメン、すげぇな。


 整った容姿もだが、コミュ力の高さもすごい。なんかキラキラしたオーラを纏っているし、めちゃくちゃかっこいい。

 あれがまさに王道イケメンか。

 キラキラの余韻がすごくて、目がちかちかする気がした。




 そしてその夜、家に帰って借りた本を読んだ。

 そこには、見覚えのある薄ピンク色のメモ用紙が入っていた。


『そろそろ返事がほしいんだけど』


 見覚えのある丸文字で書かれていた。


 しかし、前回と違う点が一つあった。

 そのメモには名前が書いてあったのだ。


『宮本 なぎさ』




 ――は?




 

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