ゲームマスターは世界を望む
――――ξθΩω∩→▼&※&
十分な教育を受けたよく分からないモノが、よく分からない音を几帳面に一音一音はっきりと出し、鳴いた。
すると、そのよく分からないモノとキミ達の目の前に長方形の光の壁が現れた。
キミ達はこれを一目みて、理屈ではなく本能的に、閉ざされたこの空間の出口だと察する。
――――ξθΩω∩→▼&※&
キミ達がその出口へ足を踏み出そうとした所で、再びよく分からないモノが先程と同じ音で鳴いた。
すると、その音にまるで共鳴するかのように、出口である光が強まって行く。
その圧倒的な光量に耐えきれなかったキミ達は、ほどなくして意識を失った。
ふと。 キミ達の意識が戻った。
それと同時に何が起きていたのかを確認するために周囲を確認しようとしたのだが、なぜか周囲の全てを見ることが出来てしまい、その全てにはキミ達の姿も含まれていた為に何もかもを諦めた。
社畜として、社会の歯車になる重要性と必要性をよく分からないモノに説いた結果である。
キミ達の姿は、よく分からないモノ達の中でも労働者層……奉仕種族の姿へと体を変えられていた。
玉虫色をした、決まった姿を持たない不定形のモノへと。
これからキミ達は上位種に使い潰されるまで、延々と働くことになるだろう。
そしてその上位種とは、キミ達が育てたよく分からないモノであり、そのよく分からないモノもまた、それを産んだ親に逆らえない社畜であった。
キミ達が育てたよく分からないモノは、喜んでよく分からないモノ達の社会の歯車となるだろう。
キミ達は、それをその傍で奉仕種族として命令を受け付き従い、見守って行く事となる。
よく分からないモノはこの状況に大変喜んでいる。
キミ達はどうだろうか?
―HAPPY END?―
〜〜〜〜〜〜
まさかの社畜化エンドを迎えたセッションの終了後、しばらく経った。
今日のTRPGも面白かったなぁ。 なんて、ベッドの中で思い出す。
T R P G
それは昨今ではマイナー趣味である。
いわゆるゲーム機で遊ぶRPGではなく、世界の全てを人間と紙とペンとサイコロ。 それと必要なら小物。
それらだけで表現する、電気を使わないゲームだ。
…………まあ、今はどこかに時間を合わせて集合ーなんて難しいので、電気を通して集まる有電ゲームでもあるのだが。
TRPGはその性質上、プレイ時間は非常に長くなる。
一シナリオを消化するのに一日かけるのも普通で、それはもう。 贅沢な遊びな部類に入ることだろう。
その贅沢を楽しむゲームである、とも言えよう。
そのTRPGで、次に集まる時は何で遊ぼうか。
正統派のファンタジーな世界で冒険するも良し。
近未来のサイバーパンクなファンタジー世界で、謎の組織と戦うのも良し。
正気度に気をつけないといけない、危険な探索を楽しむも良し。
たまには目先を変えて、学園恋愛アドベンチャーも…………いや、集まる連中はみんな野郎ばかりなんだから、無しか。
参加者全員が忍者で、事前に出された任務をこなすべく暗闘するのも良し。
……怖い話を改変してメチャクチャにするやつは、いつも司会をする自分には苦行でしかないから、勘弁してほしいなぁ。
また次の集まりでどう遊ぼうか、胸を膨らませたまま、目を閉じた。
〜〜〜〜〜〜
彼は目を覚ます。
「ん? なんだ!?」
彼は周囲の、そして自身の状況に心底驚く。
彼は空間に浮いており、その空間は見渡す限り真っ黒で、遠くには格子状に白い線が走っている場所だった。
起きていきなり謎の空間で浮遊しているという理解不能な現象に見舞われた彼は、成功1失敗1d4の正気度チェックが始まるだろう。
「なんだココ、やっべぇな……」
どうやらチェックダイスに成功したようだ。
彼はこんな理解不能な現象に見舞われているにも関わらず、妙に楽しそうに周囲を観察している。
「なんだか不思議な空間だが、夢だろうな」
そう暢気にしていられる余裕が、彼にはなぜか有った。
「飽きた」
しばらくは浮いた状態から動けるのか実験したり、周囲に何か動きが無いか等の観察をしていたが、動けない――そもそも動けたか判断する為の基準が見つからない――し周囲に変化も無いので当然だろう。
この空間に大分馴染んだのか、両手を後頭部へ回し、片足を曲げて組み、伝統的な昼寝スタイルに彼がなった頃。
「ん?」
彼の目の前に、メッセージウィンドウが開いた。
《ようこそ、歴戦のゲームマスター様。 貴方のそのゲームマスター経験から、素晴らしき新しい世界を構築して欲しく願います》
「は?」
この唐突な願いを見せられて、硬直してしまう彼。
仕方ないだろう。
こんな展開が現実で起きるなど、誰も想像するまい。
彼がそのまま硬直していたら、メッセージが一新された。
《新しい世界を望んだとても高位の存在がおり、その世界のテーマとしてゲームみたいな世界を求めました。 それを叶えるべく、貴方に助力を求めました》
「マジ?」
こんな展開など信じられないのだろう。
男性が自らの頬を今更抓ると、痛みが走る。
少し間抜けな行いをしている間に、更に変わるメッセージ。
《難しく考える必要はありません。 貴方が今まで遊んできたゲームで一番面白かった作品を思い浮かべれば、それを参考にした世界をこちらで大雑把に構築し、その後で貴方に意見を頂きながら調整して行く流れです》
「一番面白かったゲームか……」
そのメッセージを読んで、彼が頭に思い浮かべたものは………………。
〜〜〜〜〜〜
「世界民、幸福は義務です。 もし幸福でないのなら、そうなれるよう努力する事も義務です」
『はい! 紫紺様っ!!』
『ありがとうございます、紫紺様!!』
民衆に感謝の声を投げかけられる中、それに背を向けて立ち去る背が高くモデル体形の女性。
「紫紺様と言えば、あのアスキーアートかクッ様かだけど、アスキーアートみたいな姿にならなくて良かったと言うか、なぜ女性の姿にさせられたと嘆くか……ああ人生は斯くももどかしいと悶えるか」
去る姿は背筋もシャンとしていて美しく見えたのだが、人の目が無くなればいつもこう嘆いている。
彼女……そう、元男の彼女は、新しい世界を構築したゲームマスターだ。
彼が思い浮かべたのは、ディストピアの完全階級社会。
階級を色で分け、その階級でそれぞれの役割を明確に与え、管理をしやすくした世界。
上位の階級から来た命令は絶対であり、逆らえば義務違反と同様に〇〇される厳しい世界。
……を、西洋ファンタジー風に置き換えた世界である。
コンp……ではなく、新しいゲーム風の世界を望んだ高位かつ高次元の存在が絶対の指導者となり、紫紺がその声を世界の住人へ伝えたり、下位である国の指導者階級である紺の監視役だ。
あのゲームより義務は緩和されており、めったにZAP!される様な事件も起きなくなり、けっこう生きやすいと評判である。
「最初はゴチャゴチャして忙しくてどうしようも無かったが、最近は落ち着いてそこらを出歩けるまでになった」
世界を構築したばかりの頃は、そりゃあもう酷かった。
その惨状を思わず思い出し、遠い目になる紫紺様。
特に上位存在だ。
「まだ仮構築の段階で《テストプレイは必要だろう?》とか言って、他の上位存在を世界に呼んで、アバターで世界に乗り込んできて《ゲームしようぜ!》は無いって……」
上位存在の言うゲームは、その世界へ仮初の体で入り込み、人生を疑似体験する事だった。
まだまだ完成に程遠い世界へ入り込んで、ゲームマスターに人生の補助をさせて、この世界のルールから外れない範囲で好きに大暴れして去っていく。
そりゃあもう迷惑な存在達だ。
それで彼女は、何度発狂したり宇宙猫になったりした事か。
ただまあ《面白かったぜ!》と言われてしまえば、ゲームマスターとしてこれ程嬉しい言葉も無い訳で、それでついつい上位存在達に甘くなってしまうのが紫紺様である。
「それでまた、テストプレイのデータから改良するのに、地獄を見たんだよなぁ」
あの頃を懐かしみつつ、次の場所へ向かう紫紺様だった。
少しだけ未来での話。
突然――いつもの事だが――上位存在から連絡があった。
「はいはい、どうしました? …………は? この世界で、大規模セッションをする? そんな準備も想定も、この世界には有りませんよ?
30人? そんな無茶な! 考え直し…………おい、もしもし!? もしもし!?」
彼女の苦労は、ずーっと続く。
むしろ世界の方が、ゲームマスターを望んだ説。
蛇足
紫紺様
幸福が義務な世界で、紫紺様より上位の存在に振り回され不幸ぶっている苦労人。
上位存在のプレイングがエグい為に毎回毎回悲鳴をあげるが、そんな連中がいないとセッションは面白くないとも思っている。
上位存在
いわゆる神みたいなナニカ。
階級
考えてない。 色も設定してない。
あのゲームよりややマイルドな世界なので、理不尽なZAPは飛んでこない。
が、それをプレイヤーたる上位存在達が望んだ時は、そいつら用の特別ルールとして紫紺様が紫紺様としてZAP!する。
ZAP!
ここでは射撃音。 正式?には、ZAPZAPZAP! 等として、何度か連続して単語を繋げて言う。
そしてナニが撃ち抜かれたのかは、察して下さい。