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霊界ラジオ  作者: がむがむ
7/10

決死の覚悟、逃亡

更新遅くれたーーー

すまん

振り返った俺の視界に映ったのは目、口、鼻から尋常じゃない血を出している戸部。そして、こちらをゆっくりこちらを向き、無機質な笑顔を見せる女の子。


「ネェ、イッショニアソボウ」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


気付いたら俺は叫んでいた。

意味が分からない。わからない。ワカラナイ。

分かりたく無かった。それを脳が拒絶した。目の前の事象を叫んで塗り潰そうとした。


「ああああああぁぁあぁぁぁあ!!!」

「来栖! どうした!」


遠くから俺を呼ぶ声。牧野だ。声からして職員室付近ではないだろう。


「みんなぁ! 来るなぁ!」


俺は叫びながら反対側の出入り口からでようとする。だが、何故か鍵がかかっていて開かない。鍵がかかっているわけが無い。内鍵が開いているから出られるはずではあるが、どうしても扉がびくともしない。扉と格闘している間に女の子は近くまで来た。


「クソっ」


俺は大回りをして入って来た時と同じドアを目指す。女の子は弄ぶかのように、またも先回りして俺を翻弄する。どうしてもここから俺を出さないつもりだ。女の子の傍らで、むごい姿になっている戸部を見て俺は決意した。


「俺とも遊ぼう!」


戸部の決意を犠牲を無駄にしてしまかも知れない。だがここから出られない以上、この言葉に賭けるしかなかった。最悪俺はいなくなってもいいのだ。目的は俺の生還じゃない。


「アソボ、アソボ。オニゴトデアソボ」


オニゴト。鬼事。鬼ごっこか。つまり捕まったら戸部と同じ姿になるって事か。しかし、要は捕まらなければいい。絶対に逃げてやる。


「鬼さんこちら!」


言いながら俺は鍵を職員室の外へと投げてもう一度叫んだ。


「その鍵持って逃げろ!」


その言葉が合図となり、鬼事は始まった。そして予想以上に女の子は爆速でこちらに直進してきた。机などの障害物はお構い無しにだ。半透明ということは幽体か。


スピードと障害物無視というアドバンテージは予想外のことだが逃げきれないことはない。持久力には自信ないが、こちとら中学時代はインターハイに行ったスプリンターだ。全力で端まで走る。だが、女の子の方が速い。でもこのまま出口まで走ればギリギリ逃げ切れそうだ。いや、職員室の外まで追いかけてくる可能性の方が高い。だからといってこのまま死にたくは無い。せめて牧野たちが鍵を手に入れるまでは。


「来栖くん!?」


扉が開いているから俺が逃げている様が見えたのだろう。扉で不安げな顔を覗かせる日野。日野がいるということは牧野は鍵を受け取ったのだろう。しかしここで職員室外に逃げるのは他のみんなが危険だ。俺はここで命を捨てる。その覚悟を決めた。


「絶対ここに入るなよ!」


そう叫んで俺は日野のいる扉に向かう。職員室から出るためでは無い。日野に俺が今襲われているものを見せるためと、日に近くにいる戸部の姿を見せるのが目的だ。今は俺に注視して気付いていないだろうが、俺が近くによれば戸部の姿も目に映るはずだ。それを見たら恐怖でここに入る事は無くなるだろう。それまでは全力で遊んでやる!


「アァァァァァ!!」


またも叫び声に俺は驚き振り向く。まるで断末魔のような苦しい悲鳴。どうしたというのだ。


「ズルイ。ズルイズルイ。ズルイズルイズルイズルイズルイー!!」


ずるいと叫ぶ女の子は、明らかに日野を見ていた。直線上の俺など眼中にないように。


「ズルイ! ナンデオマエダケ! アァァァ」


何が起きているのかはさっぱり分からないが、とりあえずチャンスのようだ。女の子がもがき苦しんでいる間に職員室から出てしまおう。この分ならしばらくは大丈夫だろう。


「日野、どいてくれ」


俺は無事、職員室から出ることが出来た。女の子はまだ苦しんでいる。とにかく今は考えるよりここから逃げること優先だ。女の子がいつ正気を取り戻して襲ってくるかも分からない。俺たちは牧野、江原と合流し、人魂の下をくぐり抜けて体育館放送室へ向かう。だが、角に差しかかったところでまたあの鈴の音が聞こえた。


どうする? 壁に窪みなんか都合のいいものはないからここは丸見え。後ろに戻るにしてもさっきの女の子がまた襲ってくるかも知れない。


まさに万事休すだ。


「みんな、体育館放送室はさっき通った廊下に右に曲がる通路があったの覚えてる? 体育館放送室はその先にあるの。そこまで走ろう」


この土壇場の状況で姿を相手に見せて走るなんて、江原にしては随分と大胆な作戦だ。作戦かどうかも怪しい。もしかしたら、ヤケになっているのではないかと心配になった。


怪訝な表情浮かべていると「安心してください。ヤケになってる訳じゃないです」と、弱々しい口調だが、ハッキリとそう言った。


「法則を見つけたんです。あの能面女は直線しか走ってこないんですよ。でなければ里中君を襲った時、あんな机を避けて大回りせず、構わずに机を蹴散らして良いからです。後は足はそこまで速くないってとこです。里中君は残念でしたけど、私たちが走っても距離はずっと一定でした。それに一回撒けばそこまで執拗に追ってこないって感じなのは最初に追われた時に感じました。だから、大丈夫です」


すごい。そこまで分析して対策を立てたとは。しかもあの能面女とは一回しか対峙してないのに、すごい情報量だ俺には到底出来ない芸当だ。


一人一人が役割を全うし、それを信頼する事が生存率を高めることに繋がる。実際俺は囮という最も危険な役を買ってくれた戸部に命を助けられたし、この鍵だって江原がくれた情報だ。ここで江原を信じない、という選択肢はない。みんな同じ気持ちのようだ。


意見がまとまったなら善は急げだ! 俺たちは一斉に走りだした。後ろから、シャンシャンシャンと、激しい音。だが俺らは振り向かない。江原の言う曲がり角を曲がる。


「奥の階段を降りてください!」


江原の指示に従い階段を下る。降っている途中「あっ」と声が聞こえた。なんだと思った瞬間、上から江原が降ってきた。まさ階段でコケるとは! 鈴の音は鳴り止んでいない。あの能面女はまだ追って来ている。


「痛っ」


立ちあがろうするも足を強打し、紫色に膨れ上がっている。まずい状況だ。しかし江原は立ち上がり、また走りだした。


「正面扉に隣ある階段を登ってください! そしたら体育館放送室です!」


俺らは江原の言う通り階段を駆け上がる。すると扉があった。これが体育館放送室か。迫る鈴の音。俺らは躊躇い無くその扉を開けた。


広がるのはどこを触って良いか分からない放送機材ばかりだ。とりえず俺らは急いで扉を閉め、部屋の電気をつけた。

見失い諦めたのか、鈴の音はだんだん遠ざかっていった。これでようやく一息つける。


「あーしんどい」

「でもこれでようやく体育館に行けるね」


明るい声で日野が言う。そうだ逃げ込むだけではなく、そのために来たのだ。当初の目的を忘れるほどの恐怖に駆られていた。追いかけられるのは、もうウンザリだ。


俺は立ち上がり辺りを探す。先生達が体育館から体育放送室に向かう場面は見たことあるが、実際に使った事はない。体育館へ繋がる階段の位置もさっぱりだ。


それにしてもここはメチャクチャだ。なんというか……汚い。書類は乱雑に床に散らばっているし、何かの大道具だと思われる物もここに仕舞われてある。いや、仕舞うというよりは置いてある、と言った方が適切かも知れない。とまぁそんな感じにそこらじゅうに物が散らばっているせいで、電気を点けても歩きづらく、探し物をすのには向かない場所であった。ここまで来たなら探すしか選択肢はない。とりあえず隅っこを念入りに調べるが、何もない。


「おい来栖、ちょっと手伝ってくれ」


反対側を調べていた牧野から声がかかった。どうやら大道具らしきものを動かすらしい。確かに裏に隠れているのは、脱出ゲームなどでは鉄板だ。互いに端を持ち「せーの」の掛け声でそれを動かす。


中々に重い。なんの道具だこれ?

そんなくだらない感想は次の牧野の一言に消える。


「あったぞ! 階段だ」


本当に道具の裏に隠れていたのか! それでは一体どうやって先生たちは行き来していたのだろうか。まあ、なんにしてもこれで体育館に行ける。このまま人が通れる所までこれを動かせば……。


「待って! 動かさないで!」


切羽詰まったように言われ俺は戸惑うも、言葉通り力を抜いた。この言葉に悪意はない。なぜなら知った声だからだ。俺が急に力を抜いた事で牧野は慌てたが、すぐに手を離して、見えていた階段を塞いだ。

俺は声が聞こえた方に顔を向けた。俺だけじゃない。この場にいた全員が同じ行動をした。


「来栖?」


もう一つの大道具の裏から、おずおずと顔を出す。その顔を見て一同は安心し、安堵のため息をついた。そしてすぐ顔を輝かせた。もちろん大道具から出て来た人物も。


「南! 無事だったか!」

「鮮美ちゃん! 良かった」


歓喜の声を上げる俺、南の無事が分かり涙ぐむ日野。その姿を見て南も泣き出した。

「会えてよかった……このまま会えんないじゃないかと……」


泣きながら南は俺と日野に抱きついた。不慣れなシチュエーションにドキッとしたが、南の波だから安心とそれまでの不安を感じ、見つられて良かったと、そう思いながら抱き締め返した。


日野も「良かった……本当によかった……」と泣いて南の肩をずっと抱いていた。日野も不安だったのだ。なんせここに来る理由が、俺みたいにまどろっこしくなく、単純に「助けたい」からなのだ。さぞ嬉しいだろう。


一通り涙を流した南はありがと、と言って残り二人に向き直る。


「いきなり変なとこ見せてごめんね。知ってると思うけど、私は南鮮美。牧野くんと、江原さんだよね? これからよろしくね」


気さくにそう言ってのける南。さっきまでの不安はどこに置いたのだろうか。切り替えが早いな。


二人の私、俺のことを知っているのか、という質問に対して「もちろん、牧野くんはいつも昼休みにくると絡んでるし、江原さんに至ってはクラスメイトじゃん」との解答。すごい記憶力だ。


「それにしても人が悪いな。いるなら最初から出てきてくれればよかったのに」

「ごめん、いきなり人の声がして驚いたし、朱莉とか来栖の声は聞こえてたけど、なんとなく怖くって……」


確かに一人で隠れているところに、いきなり人の声がしたら驚くな。たとえ知った声だとしても。しかもここは俺たちの知る世界ではないのだ。警戒するのが最もだろう。


「そういえば南、さっきあの大道具動かしちゃちゃダメって言ったよな? あれはなんでなんだ?」


再会の喜びに忘れかけてた疑問を、俺は投げかける。かなり切羽詰まっていたようだったのでかなり気になる。牧野は人見知りなので喋ったことない相手は基本俺がする役割になっているのだ。


「あ、うん。みんなは信じられないかも知れないけど、体育館にお化けがいるんだ……」


不安そうな声で話す南。きっと信じて貰えなくて、相手にされないと思っているんだろう。だが俺たち見てきた。能面女、人魂、半透明の少女。どれも常識では考えられない、化け物、お化けの存在を。だから南の言う事はみんなが緊張した面持ちで頷いた。そして俺たちが体験してた不可思議で、凄惨な体験を話した。


「そんな……もう二人も犠牲に……? しかもまだそんな訳の分からないやつが他にもいるなんて……」


南は心底信じられない、といった声音だ。理解が追いついていなのだろう。無理もないことだ、俺だってまだ信じたくない。夢であるならどんなにいいか。


目的は果たした。体育館から外に行けるかを試してみたかったが、体育館に南の言うお化けがいるなら無理だ。諦めよう。だがせめてお化けの風貌は確認しておきたい。俺では無理かも知れないが、江原なら今までの見てきた超常の者たちの共通点などが分かるかもしれない。


それに、まだ体育館にいるのかも重要だ。体育館限定のお化けなのか。そして、そいつからどうやって南が逃げたのかも聞きたい。


「南、まだ混乱してるところ悪い。そのお化けの見た目と、そいつからどうやって逃げ切ったのかも教えてくれないか?」

「いや、私は逃げてない……見つかってないだけ……私が名前を呼ばれた時、偶然ここの真下にいたから、お化けを見て怖くなって、ここ上がってきて道具で階段を塞いだの……見た目は……ハッキリとはわからない……なんか半透明のザ・お化けって感じだった……」


なるほど。南は運良く見つからない場所にいて、それからずっとここにいたのか。本当によかった。体育館のど真ん中にいたら、すぐに見つかっていただろう。


それにしても、お化けの見た目に関してはえらく抽象的だな。まぁ遠目から見たらそんなものか。半透明と聞くと、職員室の女の子を連想させる。もしかして同じなのか?


体育放送室は目の前がガラス張りになっており、そこから体育館全体が見渡せるようになっている。普段、今もだが、暗幕がかかっていて体育館の様子は伺えないが。


「江原、暗幕をちょっと動かせるか? ほんのちょっとだけ」


ここを案内してくれた江原ならこれを動かせるだろうと思い、声をかける。すると江原は首を横に振った。


「ほんのちょっとだけは出来ないです。完全に閉めるか、完全に開けるかの二つしかないです」


開けるか、閉めるかの二択。完全に開けるとなるとかなりのリスクがある。お化けがいた場合はバレる確率が圧倒的に高い。だが、開けないで確認をしないのもそれはそれでリスクがある。なんせずっと南の言うお化けに怯えなくてはならなくなるし、職員質の女の子と同じ対日、もしくは同一であるなら、対策ができるからだ。


どれもいた場合の想定だが、いないならいないで構わない。現状が変わらないという結果になるだけだ。

要はどっちのリスクを取るか。このまま去るか、様子を見るか。


個人的には様子を見た方が得だとは思うが、みんながどう思うか。


「あの皆さん、私は暗幕を全開にしてでも見た方がいいと思うんです。そっちの方が後のリスクが低くなるかと……どう思いますか?」

「わ、私もそう思う。江原さんの意見に乗っかるわけじゃないけど、リスクを負ってでも情報は取るべだと思う」


まさか江原と日野がこんな事を言うなんて……意外だ。だが、これについては俺も大賛成。もちろん牧野も賛成だったようだ。なんの迷いも無く「俺もだ」と言い放った。


「鮮美ちゃんはそれでもいい?」


優しい声音で日野が聞く。この中で一番こう言う手合いに体制がなく、不安感があるのは、間違いなく南だ。それを知っているからあえて意見を聞いたのだろう。


もし南が拒絶するようならこの案は無かったことにしようと、牧野に小声で提案したら、すんなり受け入れてくれた。牧野も今一番追い詰められている南に、精神的負担はかけたくないようだ。だがそんな心配は杞憂だった。


「私もそれに賛成。私よりみんなの方がこういう経験あるわけじゃん? そのみんなが満場一致で言うなら反対する意味は無いしね」


南は非常に合理的な理由で判断を下し、簡単に俺たちに自分の命を預けた。すごいとしかいえない。なんか男子より女子の方が肝が座っている気がする。


南の言葉を聞き、江原は暗幕を開けるボタンを押す。


徐々に暗幕が開き体育館を見渡せるほどに視界が開けてゆく。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

次回掲載日時は8/18の12時〜5時くらいに掲載予定です。


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