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霊界ラジオ  作者: がむがむ
6/10

存在証明、悲劇

新しい会社で覚えることいっぱいであわあわしてます

「わかったぞ。この違和感の正体」


違和感? なんだそれは。


「聞いてくれ。俺はこの教室に入ってからずっと違和感を感じていて、それに今気づいたんだ」

「まどろっこしいな。その違和感って一体なんなんだ?」


たまらず俺は口を挟む。


「思い出してくれ。俺らが保健室に行く途中で見た教室には何があった?」


言われて俺は声に出しながら思い出す。確か机には花、黒板には謎の文字が塗り潰されたという奇妙な光景だ。黒板はクラス教室だけだが、花は必ずと言っていいほどどの教室にもあった。もちろん保健室にも。って、そうか!


戸部も俺と同じ感想のようだが、俺が思いついた仮説については思いつかなかったようで、首を傾げている。


「何がそうだ、なんだ? 全然話からねぇんだが」


戸部がそう言うのも仕方ない。この情報を知り得たのは俺と牧野だけだ。


「言った通りだよ。あそこにあったものがここに無い。花も、黒板の落書きも」

「そうだ。江原と日野は分からないかもしれないが、さっき俺たち三人が見た教室はそんな感じだった。それがこの教室にはないんだ。おかしいと思わないか? 他の教室にはあるっていうのに」


牧野が説明を引き継ぐが肝心なとこは勿体ぶる。気持ちは分かる。これを公言して、もし当てはまったら、とある疑問が浮かんでしまう。


「それがなんなの? 私とその、里中君が待ってた教室にもそんなのはなかったよ」


当然の疑問を江原はぶつける。確かにそれもそうだが、もし仮説が本当に正しければヤバいことになる。というか俺らは相当に危ないことをやっていた。その危うさを改めて認識し、改めて怖くなった。


そして俺は恐る恐るその仮説を口にした。例えそれで新たな疑問が浮かび上がろうとも、里中の犠牲が俺の背中を押した。


「つまり、花が置いてあった教室は犠牲者があった教室ってことで良いんだよな?」


牧野は静かに頷く。


余りに突飛な仮説で江原と戸部と日野はキョトンとしている。二人は実際に他の教室を見ていないから無理ないし、戸部もこの仮説を打ち立てる情報は持っていないないからだ。


俺と牧野は里中が能面女の犠牲になる瞬間こそ見ていないがそのギリギリの瞬間を見た。そこであるものを見てしまったのだ。花瓶が机に置かれたのだ。まるでそこに初めからあったように。


それを口にした時、江原と戸部の二人は大きく驚いた。日野は保健室の時のように、表情に微かな不安を滲ませる。


「じゃあ、俺たちの見た教室はすでにあのバケモンが通った後ってことか……」

「あぁ、だから俺らは本当に運が良かったんだ」


不安な表情を見せつつも、「マジで危なかったんだな」と、安堵のため息を出す戸部。そこに新たな疑問を江原がぶつける。


「あれ? でも呼ばれたのって私たち七人だけよね? なんで花がそんなにあるの?」

「それについては完全な憶測なんだが、ここは俺たちの学校じゃなくて霊界って認識した方が分かりやすいと思う」


江原も戸部も頭にはてなを浮かべている。一方で日野の顔はみるみる不安を滲ませる。


「ここは霊界、霊道と呼ばれる場所だ。つまりここはただ俺たちの学校を模倣しているだけなんだ」


俺に変わり牧野が説明をする。俺はというと青ざめる日野の隣に行って手を握った。何があっても味方だから安心してくれと、そう思いながら。


「確かに呼ばれたのは俺、来栖、戸部、里中、江原、南、日野の七人だが、犠牲者はここにきた全員。過去に行方不明になった者たちだろう。記憶を模倣した理由は分からない。それはおそらく、日野の方が詳しいだろう」


そこで二人の記憶に「みんなの記憶の私」という日の言葉と、「記憶から作られた」という牧野の言葉がよぎる。強い一斉に視線が日野の方に向けられた。


「わ、私は関係……ない……」


消え入りそうな日野の声。それに対し、不安と焦り、恐怖からか戸部は「どういう事なんだよ!」と、口調が荒くなる。江原は怒ると冷めるタイプなのか「日野さん、嘘ついたの?」と、静かに日野に問う。牧野はただ黙っている。


日野は二人に詰め寄られ泣き顔で、半ばパニックになっていた。手を握っている俺に「どうすればいいの」と泣きついてきたので、俺はなんとかこの場を収めようと日野にはっきりと言った。


「日野、信じてくれ。俺は……俺らは日野の味方だ。だから日野の言葉で、考えられる理由を、日野が関係ないって事を教えてくれ」


俺の言葉に心を動かしてくれたのかは分からないが、意を決した顔で日野は頷き、自分の意見を話してくれた。


「最初に言った通り、私はあの化け物とは関係ない。証拠はないけど、信じて欲しい……としか言えない。ごめんなさい、だから化け物のことは何も話せないの」

「肝心の証拠がないのにどうやって信じれば」

「俺たちを襲ってない事が証拠になるだろう。それより話を聞こう」


戸部の無粋な言葉は牧野によって遮られた。それに対し日野は「ありがとう」と言うと、話の続きを始めた。


「次に何でここが私たちの記憶を模倣しているのか、についてなんだけど、それも憶測でしか話せない。私が記憶でできた幽霊みたいな存在って事は話したでしょう? きっと成仏出来ないでいるうちに、私の魂と、みんなの記憶が結びついた結果だと思う。多分それと同じで、霊界って現世でもあの世でもない曖昧な世界だから、みんなの記憶と結びついたんだと思う。これが私の考え」


日野の意見は筋が通っていて矛盾点はないものだ。なるほど、と言わざるを得ない。日野の意見に対して、二人が何も言ってこないという事は、納得したという事だろう。だが、日野はまだ秘密を持っているはずだ。俺はそう確信しているが、それを今喋って日野を追い詰めるような事はしたくない。


日野がまだ語っていない秘密について、この中で一番頭の切れる牧野が気付いていないという事は考えにくい。だというのに牧野はそれについては言及しない。単に気付いてないのか、俺と同じ心情か、はたまた別の目的があるのか。


いずれにせよ、この場がまた荒れるような事はなくて良かった。


こうして日野の変な疑いは晴れ、仮説が立証されたわけではないが、牧野と俺の疑問も腑に落ちた。とすると残りの問題は、どのようにして職員室に行くかだ。俺は今すぐ行くべきだと思うが、俺一人で行動する訳にもいかない。あんな化け物がいると分かった以上ここは足並みを揃えないと大惨事になる可能性がある。それに今この場のリーダ的存在は、何となく牧野という空気になっている。妥当な人選だ。


リーダー役がいる以上勝手は許されない。集団とはそういうものだし、冷静に物事を見る牧野がすぐ行動、と発案するとも思えない。今ここにいるみんなの安全を優先する案を出すだろう。今はそれがもどかしい。


「みんなの意見を聞かせてくれ。俺はすぐ動きべきだと思う」


意外だった。てっきり牧野は安全を考慮してもう少しゆっくり動くと思っていた。だが牧野がそう言ってくれている以上これはチャンスでしかない。俺は牧野の案に全力で乗っかった。


「俺もそう思う。もうあの鈴の音は聞こえないし、他のバケモンが同じように巡回してるかどうかも、そもそもいるとも分からないじゃないか。もしかしたら教室に入ってくるタイプもいるかも知れない。だから鈴の音が聞こえない今がチャンスだと思う」


「俺も来栖と同意見だ。分からない以上、リスクはあっても動きべきだと思う。そうした方が情報も集まるし、うまく鍵が手に入れば儲けもんだ。ここも絶対安全とは言えないし、少なくともここで無為に時間を過ごすよりはいいと思う」


牧野の意見もあってか慎重派の江原と戸部も、不安げながらも、うーんと、前向きに検討する。


「私もそうしたい。二人のような論理的な考えがある訳じゃないけど、鮮美ちゃんを早く見つけたい。それに……職員室に行けば放送室の鍵もあるでしょ? もしかしたら私たちをここに飛ばした犯人がそこにいるかもしれないし」


「でも危険なことには変わりないんだし、もうちょっと考えさせてくれても……」

「私は行く」


戸部はまだ考えたいというが、江原は即断したようだ。


「だって、早くこんなとこから抜け出したい……あんな化け物に殺されたくない……」


そう言って啜り泣く江原。江原の言い分はもっともだ。誰だってこんな訳の分からないところからは抜け出したい。このいつ死ぬとも分からない状況で見つかっていない友達を探したい、という感情が先行する俺の方が異常なのかも知れない。ともあれこれで意見は四対一だ。


「ああもう分かったよ。行けばいいんだろ」


ヤケになった感じではあるが、戸部も行く事になった。

一応満場一致で職員室に行くことになった俺たちは、役割を決めることにした。過半数がに行くことに積極的だったので、二分ほどで役割はすぐ決まった。


危険度で言ったら一番か二番目に危険な斥候役、これは俺がやる事にした。リーダー役は牧野。何かあった時の囮役は日野。斥候と同じくらい危険な囮役を日野が買って出たのだ。これについて口を挟もうとした俺だが、みんなの信頼を得るにはこれが一番と日野自身が語ったので、何も言えなかった。


そして囮役二人目が戸部だ。役割的には日野と同じで危険な役回りだが、行くと決めたからには命をかける。という事だ。それに女子がやるなら男子を代表して俺がやるとも言ったのだ。正直囮役は何人いても助かるし、二人いればうまく撹乱させてみんなが生き残れるかも知れない。最後まで渋った癖にこうなると頼もしい。


江原は俺たちが何かを捜索している間に、別のとこに注意してもらって異変が来たらそれを知らせる、という役割だ。いわば捜索時の見張り役。もちろん危険にはみんな注意するし、異変や違和感があったら、その情報を共有する。しかし江原はかなり臆病な性格であるので、危険を察知したり、小さな違和感に気付きやすい。そういった意味ではピッタリの人選だ。


「よし、何もない。今なら行けるぞ」


斥候役となった俺は窓から外を眺め何もないのを確認してから、その後に教室ドアから顔だけ出して完全に安全である事を確認してみんなに告げた。


そうして安全を確認しながら廊下を進む。今のところ順調だ。


江原の言っていた別棟への廊下の手前にたどり着いたが、別棟へ繋がる廊下は今いる渡り廊下と直角になっている。曲がり角で俺らは立ち止まり、そっとその先の廊下を見る。いた。


青い人魂のようなものが複数個浮かんでいる。幸いこちらには気付いていない。俺は牧野がやったように自分の上履きを放り投げた。それは人魂のすぐ近くに落ちたが、何の反応も示さない。大丈夫なのか? いや生物に反応するタイプなのかの知れない。


「どうなんだ? 来栖。なんかあったか?」

「人魂みたいなものが複数個浮かんでいる。俺が投げた上履きには反応しないな」

「反応しない? 人間も上履きも有機物だから……生物かどうかで判定しているのか?」


さすが牧野。鋭い考察だ。その理由も聡い。


「判定基準は分からん。とりあえず近くまで寄ってみるよ」

「そんな大丈夫か? ここは囮役の俺が……」

「大丈夫だ。とりあえず偵察で戦力や危険を調べるのが斥候の務めだからな。囮は危険と分かった時頼むよ」

「鈴の音も聞こえないし、周りに異常はないです」


江原のチャンスは今だと言わんばかりの報告に、「行ってくる」と言って廊下を渡る。俺は内心ビビりつつも歩みを止めない。今のところ異常はない。ついに眼前まできた。……異常はない。


人魂の下を潜らせるように上履きを人魂の向こう側に放ったり、逆に上に放ってみたが反応はない。人魂に触れないよう人魂の隙間に手を入れていた。その時だった。脳が危険信号を発し、俺は反射的に手引っ込めた。


俺の手があった位置に人魂があった。心臓がうるさいのも無理はない。一瞬でも手を引くのが遅かったら、自分の手が焼かれていたのだ。焼かれただけでなく無くなっていたかもしれない。


だが目的地はこの先なのだ。どうにか方法はないかと考えてみた。モタモタしているとあの能面女や他の化け物がくるかも知れない。とりあえず上履きが無事だった人魂の下に手を入れてみた。大丈夫だった。これならしゃがんで行けるはずだ。俺はみんなの所に戻って起きた事象、対処法を報告した。


早速みんなで行く事にした。案の定、人魂はしゃがんで進めば何の問題も起きなかった。

廊下を渡り、またも曲がり角で安全を確認する。異常はなし。


みんなには角に隠れてもらい、自分の上履きを回収して、そそくさと俺は職員室前に移動する。そして例の如く静かにドアを開ける。花が置いてはあるが、化け物はいない。


どうする? 戻ってみんなと職員室に入るか、このまま俺一人で行くか。正直一人で行くのは怖い。だが、まだ完全に安全とも言い切れないのに、全員でここに入るのは如何なものだろうか。全滅のリスクがある以上、それは避けるべきだと結論を出し、俺は職員室へと足を踏み入れた。


一応、どこかに化け物がいるかも知れないのでしゃがみながら進む。そして退路の為にドアは開けておく。


ガシャン。


突如前にある花瓶が倒れた。俺は触れていない。割れた花瓶からこぼれるのは透明な水ではなく、赤い水。そのドロリとしている様はまるで血だ。


職員室内に子どもの笑い声が響く。ひどく、不気味な声だ。「ねぇ遊ぼ、遊ぼう」と語りかけてくる。

俺は嫌な予感がして一歩、また一歩と後退する。


「ねぇ、遊ぼうよ」


突如、花瓶の割れた位置から半透明の女の子が現れた。


俺は脱兎の如く走り出した。この時何故かただ逃げる、という思考ではなく、どうせなら鍵を取ってから逃げおおせてやろうという思考になっていた。


俺は大回りして職員室の反対側に行き、様々な鍵がぶら下がっている所まで回り込もうとする。しかし半透明の女の子は笑い声を響かせながら「遊ぼ、遊ぼ」と連呼して、近づいてくる。しかもまるでこちらの動きを先読みしているかのようにだ。なかなか鍵の場所へ行けない。しかも早い。これじゃ辿り着けても、どれがどれの鍵か確かめる暇もない。


「俺と遊ぼう!」


突然の大声に俺は足を止めて、振り向く。声の主は戸部だった。


「遅いんだよ! 心配するだろ!」


他のメンバーの姿は見えない。まさか俺のためにここにきてくれたのか。しかも状況把握してその言葉を叫んだのか! ナイス過ぎるぜ!


戸部の言葉に反応し女の子は俺を追いかけるのを止める。その隙に俺は急いで鍵がぶら下がっている場所まで行き、放送室、体育館放送室、ついでに体育館の鍵を取る。後は逃げるだけだ。


「戸部! 逃げ……は?」

ここまで読んでいただきありがとうございました。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

次回掲載日時は8/17の12時くらいに掲載予定です。


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