霊界、或いは霊道
稚拙な文章ですが、楽しんで読んでいたたけたら幸いです。
ここから怪奇パートです。
無機質なチャイムが鳴った。下校時刻を知らせるチャイムかと思ったが、第六感とでもいうのか、何故だか物凄く嫌な予感がしたのだ。
そして、その予感は当たってしまった。
『皆さん、こんにちは。あの世とこの世を繋ぐラジオ。霊界ラジオの時間です。この放送は冥府放送局部がお送りします』
ドクン、と心臓が脈打った。
逃げられない。そう悟った。そして選ばれる。なぜだかそんな予感もした。
「みんな耳を塞げー!」
そう言って耳を塞ぎ、力強く目を閉じる。とにかく今出来る精一杯の抵抗をした。だが耳を塞いでも、流れるノイズががった声が聞こえてしまう。
『皆さんはあの世を信じておりますか? あの世とはアニメやゲームだけの世界ではなく、実際にある場所、概念です。魂が成仏する前に必ず通る道、一方で成仏できない魂が彷徨う不安定な場所でもあるのです。それが霊道、霊界と呼ばれる場所です。そしてその先に天国、地獄というものがあるのです』
不気味なほど淡々としたアナウンスが流れてくる。ゾワゾワと鳥肌が立つ感覚がする。
『本番組はあの世、つまり霊界に興味がある者、またこの世に残る未練が希薄である者を、独断と偏見で数名選び、実際に霊界を体験してもらおうという番組です。それでは今回、参加してもらう人物を発表します』
霊界、と聞いて俺は南に霊界ラジオなる存在を知らせたことを後悔した。霊界ラジオ、冥界放送自体はとっくに噂になっていたし、俺が教えたのはあくまでアーティストだからきっと大丈夫だ。南も日野も大丈夫だ。そう願っていたが、この放送は淡々と名前を上げた。
『今回の参加者は、江原由梨。来栖麓太。里中公一。戸部有紀。牧野凛。南鮮美。日野朱莉。以上六名を霊界へお招きします』
名前を聞いた瞬間、俺は心の中で何かが崩れる音がした。
全員知っている名前じゃないか……。
なんで? どうして!?
あまりの動揺に閉じていた目を見開いた。そこに映ったのはいつもと変わらぬ教室。鳴り止まぬ鼓動を押さえつけ辺りを見渡すが、変わった様子はない。
ほっとしたのも束の間、すぐに異変に気づく。
今まで聞こえていた他生徒の声が聞こえない。不思議に思い窓から外を覗くと校庭には誰も居ない。時計を見ると秒針さえ動いていない。見た目こそただの教室だが、ここは完全に元の世界と遮断された空間なんだと、ここで認識した。
ここが隔絶された空間であることに変わりない。それは外の状況から明確だった。だがどうしても理解が追いつかない。それは他の三人も同じだ。信じられない、という顔をして固まっている。そんな沈黙がしばらく続いたが、その沈黙を最初に破ったのは戸部だった。
「なぁ、三人とも、体や記憶に何か異常はないか?」
「……いや、特別何もないけど……」
俺の解答に他二人が頷く。
「ということは、俺たちは今無力ってことだな。こんな空間に来るってことは、何か超常の力が働いてるってことだけど、俺たちにはそれに対抗するような術はない。もちろん隔絶されてるから助けも呼べない。ここにいるのはただの高校生だ。この状況はやばいぞ」
冷静に状況を分析して、ことの危うさを指摘する戸部。こういう時に咄嗟に言葉で表してくれるのはありがたい。
「監禁物や異空間物の漫画読みまくって得た知識だけど、捨てたもんじゃないだろ?」
「あぁ、正直頼りにになってるよ。オタクは世界を救うってホントだな」
少しおどけて言う戸部に合わせて、牧野も少しおどけた感じで、有名なゲームのセリフで返す。
「よし、超能力なんて都合のいい力はないってことは分かった。俺たち四人知恵を搾りあってここを脱出するぞ」
里中がそう言って俺はあることに気付く。そういえば、俺たちの他にも名前が呼ばれてた。江原と、南と、日野だ。俺は急いで自分のクラスへと足を急かした。呼ばれた三人は俺と同じクラスだから、教室にいるはずだ。
「はぁ、はぁ」
ほんの短い距離にも関わらず息が切れた。少し遅れて他の三人も俺に追いつく。
「急に走り出して、どうしたんだよ」と牧野。
「いきなりの単独行動はやめろよ」と戸部。
「なんなんだよ一体……」と里中。
口々に三人は言うが、それは右から左へと流れる。スゥーと、深呼吸をして、俺はドアを開けた。そこには教室で本を読んでいる江原が一人。南と日野の姿はなかった。
「江原……一人か?」
「く、来栖君? うん。一人だよ」
なんだか妙によそよそしい。まぁ昨日一言交わしたぐらいだからそんなものか。
明らかに俺は落胆した表情をしたのだろう。相変わらず少し怯えた表情の江原だが、震えた声で謝り始めた。
「あ、あの、南さんじゃなくてごめんね」
「そんなこと思ってないって!」
「……」
随分お怒りだ。というかかなり気まずい。これに関しては俺が全面的に悪い。
「えーっと、ごめん誰?」
牧野がいきなりの光景に動じず聞いてくる。こういうときに空気を読まないのは助かる。俺のせいで黙られちゃうと困っちゃうもんな。牧野に尋ねられると、少し顔を赤らめて江原は名乗った。極度の人見知りなのだろうか。そういえばクラスでも誰かと喋ってるところをあまり見たことない。
江原も戸部と同じく意外と冷静だった。俺らが説明するまでもなく、この状況をある程度把握していた。加えて校内から出られないという新情報も得られた。想像はしていたが、実際に検証していなかった。江原は窓の鍵どうしても開けらなかったことから、この結果に結び付けたとのことだ。江原は話している間ずっと顔が赤かった。俺以外に対して。
「こういう状況で自分から行動出来るのはなかなかできることじゃない。出来ればここから脱出できるまで協力して欲しい」
「わ、私が協力出来る事ならなんでもやります」
牧野がそう提案すると江原は快諾してくれた。俺が交渉するとあまり上手く行かなそうな気がするので、江原への対応は牧野に任せた。
「江原の無事は確認できて良かった。じゃあ次は南と日野を探しに行こう」
俺はそう言うと三人は固まった。なんだと言うのだ。少し間をおいて牧野が「そうだな」と同意した。
「どうしたんだ?」そう俺が疑問口にすると、里中が口を開いた。
「南さんを探すのは分かるけど、日野さんを探すのはちょっと……」
そこで言い淀む里中。表情を見ると皆同じような表情だ。どことなく暗い。それにむっとした俺はその怒りをぶつけた。
「南も日野も名前を呼ばれたって事はこの空間にいるはずだろ! それなのになんで南は良くて日野はダメなんだよ!」
また言い淀む四人。同意した牧野まであまり浮かない表情だ。もういいと言って俺が一人で行動しようとすると牧野が俺の手を掴み、牧野も三人に言った。
「確かに日野の名前が出てきて驚いたが、来栖も言った通り、名前が出た以上ここにいる可能性は高い。どっちにしろ探して損はないだろ。俺は行くぞ」
牧野の言い方に違和感を覚えたが、いちいち口出したら、話がこじれるので口を挟まないことにした。それに牧野も一緒に行くと宣言してくれたのは、正直心強い。やはり一人は怖いものがある。
「俺も行くよ。南は探さないとだし、日野も何か鍵になっているはずだ」
戸部も一緒に行くと宣言した。やはり言い方に違和感は感じる。
多数決的には三対二で、行く・行かないに別れているが里中と江原は首を縦に振らなかった。江原はただ怯えているようだった。さっきまで冷静だったようだが、やはり人見知りというのが大きいのだろうか。里中も同じよう怯えていたが、このメンツで人見知りはないだろう。何に怯えているのだろか。あまりに怖いのか、俺らに行くなと説得もしていた。
確かに未知のこの空間を移動するのは危険で、友達がそんな目に遭うのは嫌だろう。だがこれだけは譲れない。南も日野も友達だし、日野に至ってたは個人的な感情がある。
これ以上は話をしても平行線なので俺、牧野、戸部の三人は捜索組、江原、里中の二人は教室で待機組、と分かれた。
勢いよく探すぞと息込んだものの、どこを探せば良いのか全く見当がつかない。南も日野も同じテニス部だから一緒にいるとは予想できるが、テニス部が基本外で活動していることに今さら気づいたのだ。外で部活してとなると今どこにいるのか見当もつかない。
とはいえ自分から探すと言い出したのだ。立ち止まる訳にもいかず、歩きながらどこから探そうかな、と考えてる。
「なぁ来栖、二人がどこにいるのか見当ついてんのか?」
戸部が核心をついてきた。もちろん! と即答したかったが、すぐには適当な答えは出てこなかった。
あー、とか唸っていると戸部も牧野も呆れたようにため息をついた。
「お前闇雲に歩いてただけかよ」
「いや、ちゃんと歩きながら考えていたって。えーっと、多分体育館か保健室じゃないかな? 外に出られないなら多分そこらへんじゃないか?」
「そういうのを闇雲って言うんだよ! ったく、動き出すならもうちょっと考えろよ」
俺の曖昧な答えにまたも呆れる戸部。これにはグゥの音も出ない。
「確かに運動部の二人がそこにいる可能性は高い。どうせ手掛かりはないんだ。闇雲に探すよりそこを優先にするか」
困っていたところに牧野が助け船を出してくれた。ありがたい。やはり持つべきものは友だ。
牧野のおかげもあって最初の目的地は体育館となった。道中何も起こらず、あっさりしすぎて拍子抜けするくらいだった。誰もいない校舎というのは不気味であったが、それ以外何もない。だが問題はそこからだった。
体育館は一階から一度外に出て入らなければならないのだ。そのことを完全に失念していた俺は、いつも使ってる体育館入り口に通じるドアの前で「あっ」と情けない声を出していた。
「まさか想定してなかったのか?」と戸部。これに反論できずにうなだれたが、外に出られない、というのは情報だけで実際に確かめたわけではない。それに今目の前にある光景は、江原が言っていた状況とまるで違う。
今の状況は若干の不気味ささえある。なぜかと言えばガラス扉は開いていて、そこには映画やドラマでよく見かける『keep out』というテープが幾重にも貼られているだけの状態なのだ。なんだかこれを見ると立ち入ってはいけな気がするし、立ち入ったら良からぬことが起きてしまうような気がしてしまうのだ。
このまま立ちつく訳にもいかないと俺は意を決し、テープに手をかけようとした。
「来栖待て!」
牧野が声を張り上げて俺を制止する。驚いて振り向くと牧野は自分の上履きを外へと投げた。
重さある物を投げたら落ちる、という当たり前の法則である万有引力とは無縁の謎の力で、上履きはその場から消えた。落ちたとか弾き返されたのではなく文字通り、消えたのだ。原理は不明だがここは異空間で、物理法則など無視で何が起きておかしくはない場所なのだ。もう少し慎重になって行動すべきだった。もう少しで俺自身が消えるとこだった。
「ありがとう……助かった」
もう少し考えて動けよと、睨んで目で語る牧野。それ対して俺は乾いた笑いでしか返せない。この数分こんなんばっかだな俺。自重しよう。
「さて、これで次は保健室だな。いくら最有力候補地でもこれじゃあ行けないからな」
「そうだな、保健室行くか」
俺が情けない笑みを浮かべながら牧野の意見に同意すると、戸部も意見を出した。
「なぁ保健室まで達教室もついでに見て行かないか? いくら候補地と言っても確証はない訳だろ。ならその方が効率良いと思うんだが」
確かにそうだ。今の今まで体育館、保健室にいるだろうと固執して考えていたが、そもそも何処にいるかなんて分からないし、そこだと、断定する材料も確証もないのだ。俺はかなり視野が狭くなっていたようだ。
「そうだな、途中に通る道なら、そこまで時間も使わないしな」
牧野もこの意見に無言で頷いた。
そうして俺たちは保健室に向かう途中の教室を見て回った。保健室も同じ一階にあるのでほんの数カ所だが。こうして見て回った生徒指導室や補習教室などに、南や日野はいなかったが、歪なほど不気味な光景が広がっていた。
机には白い花が添えられた花瓶が飾られており、教卓には血のような赤い水が溜まっている。黒板は誰かが落書きしたのか、何かを上書きするように青いチョークでグチャグチャにされていた。全部が読めるわけではないが、その下からはありとあらゆる罵詈荘厳が無造作かつ乱暴な文字で覗いてみせる。黒板に普通使わないようなマジックで。
他の教室もそうだった。
嫌な感じはしたが、とりあえず目下の目的とは関係がないのでスルーし、保健室に着いた。
俺は緊張しながらそーっとドアをひく。目に映ったの白い花。特に気になったのはそれくらいで、ドアを全開にしても目に映るのはいつもの保健室だ。机に置かれた白い花。それ以外変わりなかった。
「なんかおかしなことはあったか」
「南たちは?」
牧野と戸部が矢継ぎ早に聞いてくる。俺はそのどちらにも当てはまるようなことはないと、首を横に振った。この時に口から漏れ出た空気は、安堵からくるものか不安からくるものかは自分でも分からない。
とりあえず、軽く見ただけでは分からないので保健室に足を踏み入れる。ゴクリと唾を飲み込む音さえ聞こえる。今までなにも起こらなかったとはいえ、恐怖や不安が消えることはない。むしろ何も起こらないのでずっと緊張の糸は張ったままで心が休まらない。早く二人を見つけたいところだ。
「おーい」
返事はない。いないのか、そう思いすぐひき返ろうとすると、戸部に肩を掴まれる。
「掛け声に反応しないだけじゃ分からないだろ。奥まで探そうぜ」
「俺もその方がいいと思う」、せっかくついてきてくれた二人に申し訳が立たない。俺は適当に「ですよねー」と相槌を打ち、保健室を探索することにした。
と言っても探すところなんて限られている。例えば個別に仕切られているベッドぐらいだ。他には死角になっている数箇所ぐらい。そんなに気合を入れて入念に探すといったところはない。いの一番に怪しくて探すべき場所はカーテン越しのベッドだが、二人とも嫌な予感を感じてか死角となっているところを探していた。
「ええい、ままよ!」
怖さを紛らわすためにおそらく一生使うことのない言葉を大声で叫びながら、カーテンを勢いよく開ける。特に異常はない。お次はベッドだ。
「はぁぁぁ!」
「きゃぁぁ!」
「うわぁぁぁ!」
同じように叫びながら布団を剥ぐと、俺よりも甲高い叫び声がそこから聞こえて、咄嗟に俺は布団を離してそれを隠した。
「「どうした!?」」
悲鳴に反応して二人が駆け寄る。心臓がバクバク鳴っている。しばらくは鳴り止まなそうにないほどに鼓動が早いが、深呼吸しながら冷静になって一瞬見えた姿を思い出すとだんだん落ち着いてきた。
「おい、どうしたんだよ」
「大丈夫だ。見つけた」
「どっちを?」そう戸部が言いかけたのを遮って俺は、布団を剥いだ。またしても悲鳴が聞こえたが、布団を離す事はしなかった。そこにいたのは、日野だった。
怯えた様子でこちらを見ているが、暫くすると安堵の表情を見せた。落ち着いたいた日野は自分のことを話し始めた。保健室にいたら放送で自分の名前が呼ばれた事。ベッドから覗いてみると机にさっきまでは無かった花が置いてあった事。廊下を見ると誰もいなかった事。それからは怖くてベッドに引き篭もったという訳らしい。
とりあえず日野が無事で良かった。俺はその事実に一つ安心した。
「そいえば南は一緒じゃないのか?」
「鮮美ちゃんは体育館に行っちゃった……」
「そうか」
一緒じゃなことは残念だ。それに体育館とは……どうやって行けばいいのか見当がつかない。
ともあれ日野は無事なのだ。言っては申し訳ないが、日野よりしっかり者の南は大丈夫だろう、という安心感が出てきた。それでも不安があることは変わらないが。
話していく内に日野が落ち着いてきたので、日野に今まで俺らが知り得た情報を話す事にした。情報はなるべく共有しておきたい。そうすることで新しい気付きもあるはずだ。だが今は話を理解するのでいっぱいいっぱいのようで、これといって新しい情報は出てこなかった。唯一出た情報は南が体育館にいる可能性が高いという新情報は出たが、そこに行く方法がない。
とりあえず俺たちは一旦状況を整理するためにも三階の教室で待機しているはずの、江原、里中の元に戻る事にした。
気になる心配事は沢山ある。情報はなるべく共有したいと言ったが、日野が俺以外、つまり戸部と、牧野に対して若干の怯えにも似た感情を向けているのは気のせいだろうか? いや、気のせいだろう。俺はそう思い込みこの事は心に閉まっておいた。
道中も行きと同じく何も起こらず、俺たち四人は二人と合流した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
次回掲載日時は8/15の12時くらいに掲載予定です。
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