暗雲
稚拙な文章ですが、楽しんで読んでいたたけたら幸いです。
オカルト事象が起こる前の日常パートです。ここから物語が大きく動きます
(Vtuberの名前、アーティス名、楽曲名が出てきますが、全て実在するので、興味を持っていただけたら聴いてみる事をオススメします。一部名前をパロって使ってます。これも実在します。全てに許可はいただいてます)
朝からなんとなく教室が騒がしい。聞き耳を立てたつもりはないが、偶然耳に入った話によると、話題は昨日起きた事件についてだった。高校生にとって事件や時勢などはあまり関心がないものではあるが、今話題となっているのは、少し都市伝説みもあって話題となっているのだ。しかも身近な出来事でもある。
「ねぇ知ってる? 霊界ラジオの話」「また起きたらしいね。しかも近くで」「あれ? 冥界放送じゃなかったっけ?」「どっちでもいいよ」「今回まじヤバい。やられたの俺の同中なんだ」「犯人誰だよ?」
など、様々な話が飛び交っている。
事件の概要はこうだ。事件現場は必ず学校。いきなり放送が入り、その放送を聞くと忽然と姿を消し、ここでは無い『どこか』に飛ばされるのだ。そしてその『どこか』から抜け出した者は誰もいない。そして抜け出せない者は姿を消されたまま。つまり永遠に行方不明となるのだ。
この話が広まった時はただの都市伝説としてエンタメ程度にしか思っていなかった。なぜならその話が本当なら、その噂自体広まることがないからだ。だが、ここ最近学校でいきなり行方不明となる者が増えたから、笑い事ではなくなっていた。今やエンタメ性のあるただの都市伝説から、事件性のある恐怖の対象、としてみんなから恐れられるようになったのだ。
しかも事件は放送を聴いた者全員ではなく、その中の複数人、また一人なのだ。放送を聴いた者が一人なら必ずその人間だが。そういった謎の特性、特殊性から不可解な難事件として瞬く間に広がった。その事件が霊界ラジオ、冥府放送と呼ばれる事件だ。
確かに恐ろしい事件だが、俺にとってはいい迷惑な事件だ。正味事件にはさして興味ない。だがその事件の名称が、好きなアーティストと同じなのが気に入らない。ニュースはスマホでしか見ないが、サイトによってどちらかの名前が使われているから、このように二通りの名称があるのだ。
事件が学校の放送から始まるため、一応、世間一般的にテレビで扱われてる名前は冥界放送である。だが、語感がいいとのことでネットでは霊界ラジオの名前が流行っている。
全く誰だ。霊界ラジオなんて名付けた不届き者は。他意はないのだろうが、好きなものにケチをつけられた感じで気分が悪い。
「おいっさー」
「来栖くんおはよ」
突然声をかけられビクッとした。振り返ると南と日野がいた。それにしてもおいっさーとは……俺の好みをついてくるじゃないか。
「おはよう、南はなんかテンション高いな」
「昨日、来栖みたいにいい曲探そうと動画を漁ってたら、たまたま見た動画でこの挨拶気に入ってね」
すごい貪欲だ。一昨日聞いたばかりなのに、こんなにも深く掘って早速いろいろするのはやっぱ凄い。そんな風に感心している俺に対してドヤ顔する南。それを見て苦笑いする日野。
つい先日までは考えられない日常だが、今ではすんなり受け入れてる。適応能力ってすごい。
「来栖ーおはー……って俺邪魔だった?」
入ってきて早々なぜか卑屈になって、自分から退場をしようとする里中にキョトンとする俺たち。邪魔なんか思ってないのに何言ってんだ。いや、一昨日までの俺も同じ場面だったら同じこと言ってたかも知れない。たった二日関わっただけでこんなに考え方って変わるもんなんだな。
「邪魔なんかじゃないよ。おはよ。どうした」
「そう、か。んじゃ聞いてくれ。昨日の冥界放送がヤバいんだ」
里中はネットの情報の方が詳しいが、俺が【霊界ラジオ】が好きなのを知っているので、気遣って冥界放送の名前を使ってくれる。気遣いができる良いやつだ。ホントにたまーに擁護できなほどキモいが。
「ヤバいのはいつもの事だろ。何がそんなにヤバいんだよ」
すると他の人から逃げるように俺の手を取り教室の外に出て、誰も来なそうな階段の踊り場まで連れてこられた。
「なんだよ、急に」
「悪い、あんま人聞かれたくないからさ」
「んじゃラインでいいだろ」
「いや、直接口で伝えたかった」
なんだ、この思わせぶりな言動。実は俺が好きで、昨日のだる絡みはその裏返しだったとか? 先ほども言った通り、たまに擁護できない程のことを言うから、それもあり得ない話では無い。俺はその気は全くなく、できればこのまま友達でいたいんだが……。
そんなことを考えていたら、里中はキョロキョロと周りに誰もいないこと確認すると、声をひそめて言った。その内容が衝撃的で、俺はさっきまでの邪推は消え去り、頭が混乱し、考えがまとまらなくなった。
「それ……本当か? 間違いじゃないよな?」
「あぁ、牧野はショックだと思う。一応体調不良ってことで、学校には今日来ないことになってるが」
そう言って俺にラインのメッセージを見せてくれた。
確かにこれはショックがデカすぎる。まさか昨日の事件に巻き込まれた人物が牧野の友達なんて。それにしてもいつも仏頂面の牧野が学校を休むか。やっぱり友達ってどんな関わり合いがあっても大事なんだなと、今更ながら改めてそう思った。
「里中は……その、大丈夫なのか?」
「俺だって気が気じゃないよ」
「だよな」
愚問だった。里中も牧野と同じ中学出身だ。当たり前の事だろう。いつも行動を共にしているグループだが、牧野の個人ラインは里中以外はいない。これも同じ中学故だろう。
「はぁー、まだ信じられないよ。あいつが巻き込まれたって。信じられないし、信じたくないから、俺は学校に来ていつも通り過ごそうとしてんのかな」
そう、里中が言った。いつも限界オタクしてる里中が真面目な顔で言うから、いつも通りと言っても簡単には切り替えられないのだろう。
ここでようやく俺も、この一連の事件が、迷惑な事件から恐怖の対象となった。
キーンコーン。
突然のチャイムにビクッと体を震わせる。ただのホームールームを知らせるチャイムだったが、いつも何気なく聞いてるこの無機質な音がここまで怖く感じるものなのか。その認識の変化に戸惑い、固まっていたが、「おい、急ぐぞ」と里中に背中を叩かれ、俺たちは急いで教室へ戻っていった。
俺は浮かない気分で午前中を過ごしていた。こんなにも身近に、直接関係ないとはいえ、友達の友達が被害に遭っているのだ。よく友達の友達は他人と聞くし、今まで俺もそう思っていたが、実際にこういう事が起きると全く他人事とは思えない。
それが表情に出ていたのか、南や日野にまでも心配されて声を書けられた。本人でもない俺が本当の事は言う訳にもいかないので、ちょっと気分が悪いんだ。と、適当に誤魔化した。
昼休み。いつもの面子で集まり、出来るだけいつも通りに過ごす。朝に里中が言ったように、俺らも出来るだけ日常を過ごして、起きてしまった非日常を忘れようとしているのかも知れない。しかしながらやはりどうしてもいつも通り、とはいかない。会話は弾まないし、全体的に暗くなってしまう。
そんな暗い雰囲気の中、唐突にガラっと扉が勢いよく開いた。反射的に俺は振り向いた。俺だけじゃない、教室にいた全員が注目しただろう。だが、皆はすぐに視線を元に戻した。牧野の事情を知る俺ら以外は。
「牧野……お前大丈夫なのか?」
「あぁ、心配かけてごめんな」
俺と牧野はそんな短いやり取りをし、牧野は床に座って弁当を広げた。
どことなく暗い雰囲気が漂う牧野だが、その所作はいつも通りだったので、それ以上何も言えなくなって、俺らはただただ無言で味のしない弁当を口に入れた。
「おいおい、暗いな。せっかくだからなんか話そうぜ」
そんな沈黙破ったのは、まさかの牧野だった。心情的に一番辛いであろう牧野にこうして気を遣わせてしまったことに、俺らって情けないな、と思うばかりだ。
牧野が口を開いてくれたおかげで、完全とまではいかないが、俺らは日常のノリを取り戻し、いつものバカみたい失敗談、しょうもない自慢、オススメのアニメやVtuberなどを押し付け合いながら残りの昼休みを過ごした。弁当の味は徐々に感じるようになった。
そうやって極めて明るい雰囲気で昼休みわ終わり、俺は拭いきれない不安はあったものの気にならない程度の気持ちで午後の授業を受けた。
放課後になるといつも俺はすぐに帰っていた。特に用事もないし、部活も委員会もない。だがやはり、牧野の事が気になった。朝、里中から見せてもらったラインでは休むと言っていたし、昼休み話している時もどこか無理を感じた。
お節介が過ぎると言われるだろし、自分でもそう思う。ここは気にせずそっとしておくのが、いわゆる大人の選択ってやつなのだろう。だがどうにもほっとけなかった。俺は拒絶を覚悟で牧野のクラスへ向かった。
牧野はクラスで里中、戸部と話していた。内容は昼休みの時の延長線のような内容だが、心配していることが分かる。それに教室ではあの話しはしづらいだろう。俺も三人の輪に入り、会話に参加した。
かなりの時間が経った。それこそもう教室には人が居なくなるくらいに。そこで俺は核心に触れた。
「牧野、本当に今日来て大丈夫だったのか? その、言い方が適切じゃないかも知れないけど、今回の被害者って牧野の友達だったんだろ? 無理してんじゃないか?」
「大丈夫だよ。って断言したら嘘になるな……けど俺が引きこもりになったって変わんないだろ?」
すごいな。ここまでしっかりした考えが出来るものなのか。
「それに、里中がラインでうるせーんだよ。とにかく学校にこいって」
里中もやっぱりかなり心配してたんだな。
「とにかく! この話はもう終わりだ。それより皆んなこのあと暇? 俺昨日新しいゲーム買ったんだけど、やらん?」
「あ、そのゲーム俺持ってるわ。オンラインの友達いないからやってなかったけど」
そう言ったのは戸部。空気を変えた牧野にのったのだ。本当は先週、違うゲームを買ったと言っていたので、本来持っていないはずだが、これを機に買うのだろう。
「マジか。んじゃ帰ったら家でもやろうぜ」
早々に暗くなりそうな話題を切り上げて、分かりやすく明るい方向へと話題を変えた。そんな風にしている牧野に申し訳ない事したと思ったのと同時に、安心した。この分なら牧野は大丈夫だろう。
ゲームを持っていない俺たちは最終下校時刻の六時くらいまでそのゲームを遊び倒した。部活動もないのにこの時間まで残るのは不思議な気分だ。とは言え夏の時期の六時だ。外はまだ比較的明るく、まだ夕方に差し掛かったぐらいの感覚だ。俺たちは名残惜しく思いつつ帰り支度をする。
その時だった
キーンコーン。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
次回掲載日時は明日の0時くらいに掲載予定です。
ご意見、ご感想をいただけるととても励みになります。
(Vtuberの名前、アーティス名、楽曲名が出てきますが、全て実在するので、興味を持っていただけたら聴いてみる事をオススメします。一部名前をパロって使ってます。これも実在します。全てに許可はいただいてます)