日常①
稚拙な文章ですが、楽しんで読んでいたたけたら幸いです。
オカルト事象が起こる前の日常パートです
(Vtuberの名前、アーティス名、楽曲名が出てきますが、全て実在するので、興味を持っていただけたら聴いてみる事をオススメします。一部名前をパロって使ってます。これも実在します。全てに許可はいただいてます)
ミーンミンミン……。
鬱陶しいほどに照りつける太陽、部屋に篭った熱気。騒しい蝉の合唱と共に朝を迎える。部屋のカーテンは遮熱、遮音性の高いものなのに、夏という季節は何故こうも人類の科学的叡智を無視するのか。
それに朝は嫌いだ。何となく憂鬱になる。これは殆どの確率で性格的な問題だが、医学的にもこのような症状の病気はある。だから起きれなくて学校に行けなくても許して欲しい。どちらかなんて俺には断言できないからだ。文句を言うなら学校に医者を配置してくれ。
それにしてもなぜ人は暑く明るい時間に活動をし、涼しく活動しやすい夕方から夜にかけてを休息に使うのか。普通逆ではないか。
そんなを考えてもしょうがない事だ。それはわかっているが、嫌いなものは嫌いだし、十六年しか生きてない自分でも、世の中の理不尽さに嘆きたくなる時もある。
だが十六歳という年齢では何も出来ない。自分はどこにでもいるようなモラトリアム的男子高校生だ。何か嘆くことはあっても、それは愚痴止まりで何もしないし、出来ない。おそらく大人になっても自分は変わらないだろう。そんな自分に嫌になる。
微睡む視界で時計を眺め、気怠い体を起こし、学校の制服に着替える。
布団の中、頭の中では反抗的な考えをしても、結局学生という殻を抜け出せないでいる自分に嫌気が差し、着替えの途中もため息が絶えない。
また、一日が始まる。
別にイジメに遭っている訳でも、仲間はずれにされているという事もない。勉強は嫌いだが、学校での友好関係は至って良好だ。気の合う友達がいて、没頭できる趣味もある。
……片想いだが、好きな子だっている。
学校に行くのが嫌ではい。ただ自分が好きになれないのだ。そんな感情も学校に行きさえすれば忘れるのだが、寝起きで自分一人の空間でいるとそんな感情が渦巻くのだ。
顔を洗い、歯を磨き、軽い朝食を食べて学校に行く準備を済ます。時間的にはまだいつもの時間より早かったが、たまには早く行くのもいいだろうと思い、リビングの母の写真に「行ってきます」と言って家を出た。父親はもう出ているようだった。
自転車でゆっくりと学校へ向かう。途中の坂道で気付いたのだが、自転車のブレーキがバカになっていた。そのせいで自転車が加速してしまい、夏の生温い風を全身で受けて非常に不快だったが、それ以外はいつも通りの日常の景色だった。
学校に着いたが、まだ人はほとんどいない。部活の朝練がある連中か教員くらいだ。帰宅部で朝練も無い俺は真っ直ぐ教室に向かい、静かな教室でスマホを見た。
「っあー、やっぱかわええ〜」
ホーム画面が最近推しのVtuberだ。それだけでテンションが上がり、朝の憂鬱な気分が少し晴れる。だがスマホを開いたのはただホームを眺めるだけではない。音楽を聴くためだ。
音楽は何だか違う世界に連れて行ってくれる気がしてたまらなく好きだ。本好きの人や映画好きの人がよく同じようこと言うが、俺にとってはそれが音楽なのだ。あと推しの配信。この二つが没頭できる趣味だ。
何かしら趣味がある人は、恐らく同じようなことを言うだろう。
イヤフォンを装着して音と自分だけの世界に浸る。最近のお気に入りは【霊界ラジオ】と言う音楽グループだ。かなりマイナーなグループらしく、周りに知っているという人はあまりいない。というかいない。
だが個人的にはドハマりする楽曲ばかりで特にアルバム【Poltergeist】と言うアルバムが最高だ。アルバムのセトリの順番に聞くと本当に異世界に迷い込んだ気分になるほどだ。中でもそのアルバムにある【for Domingo】という曲がオススメだ。陰キャの自分でも陽キャになったような不思議な高揚感を得ることが出来る。まさに音楽は世界そのものだ。もちろん他のアーティスト、最近だとVtuberの楽曲とかも聴くが、今はこればかり聴いている。
「ふぅ」
陰鬱な気分も晴れ、アルバムに入っている全部の曲を聴き終えた俺はイヤフォンを外し顔を上げる。クラスのほとんどが集まっていた。当たり前と言えば当たり前か。アルバムは全部で二十分ほどだ。逆にこの時間で教室にいなかったら、遅刻ギリギリだ。大概の生徒が模範的なこの学校では遅刻する者などほぼ居ない。
「おーっす。来栖ー、おはよー」
「ん、おぉう。南か。おはよう」
声かけてきたのはクラスメイトの南。下の名前は忘れた。
こんなVtuberをホーム画面にしている陰キャオタクである俺にも、気さくに声かけてくれるありがたいクラスの陽キャだ。感謝。卒業までには名前を思い出すように頑張ります。はい。
「ところで何聴いてるの? 来栖っていつもなんか聴いてるよね」
「あぁ、音楽聞くの好きなんだ」
「いーよね! 音楽! 私もよくロックとかパンクとか聞くんだよね! 去年の夏フェスは最高だったなー。あっ、そーだ、今度みんなでカラオケでも一緒に行かない?」
意外や意外。南はフェスに参加するほど音楽好きだったのか。人を決め付けていけないとは分かっているが、いつもエイトフォーの匂いを漂わせ、部活一本! という感じだからこれには素直に驚いた。南なら俺の聴いている曲も分かるかもしれないと、密かに胸を弾ませた。
「あ、いや、悪い。カラオケはちょっと……俺音痴だからさ」
「音痴でも全然いいんだよ、楽しめればさ。誰もプロなんかいないんだから」
「そう言ってもらえると気が楽になるよ」
何と寛大な心なのだろうか。俺は素直に嬉しくなった。南が男子、女子問わず人気者なのも頷ける。こんな風に相手を否定せず、楽しければオールオーケー的な人の良さや、相手を選ばず自分から話に行ったりするところが理由だろう。
「ところで、さっき何聴いてたかそろそろ教えてくれない?」
「ん、あぁ! 【霊界ラジオ】って音楽グループなんだけど知ってる?」
「れいかいらじお? 事件の方じゃなくて? いや、知らないなぁ。テレビとかに出てんの?」
「あ、いや、テレビには……出てない、けど」
自分でも明らかに語尾が小さくなっていったのがわかる。何故か知っていると勝手に思い込み勝手に落ち込んでしまった。自分でも良くない癖だとは思う。しかしこれはオタクあるあるである。自分の好きな話題を話す機会があるのに誰も自分の話に共感しなくて落ち込むと言うことは。あと真っ先に事件の方? と聞き返されたのにも落ち込んだ。
確かに最近、巷で流行っている事件にそのような名前の事件はあるが、それが先に来るのはやはり悲しい。確かにネームバリュー的には話題のやつが先に頭に浮かぶのは当然かと、納得はするものの、悲しいものは悲しい。
そんな俺を察して気を遣ってくれたのか、それとも素なのか、南は俺のイヤフォンをとって耳につけた。
「ねっ、流してみせてよ。れいかいらじおってやつ」
何の躊躇いもなくそんな行動をとってくれる南。ありがたい行為だが、逆に俺はちょっと引き気味になってしまった。と言うか近い。制汗剤の匂いと少しだけ香る女子特有の匂い。
何だ匂いって。まるで変態みたいじゃないか。
照れと焦りとが入り混じった俺は、誤魔化すように再生ボタンを押した。
俺はドキドキしていた。異性がこんな距離が近いって母親以外いないから。真面目に聴いてくれてる南には申し訳ないが、首から流れて制服のワイシャツに吸い込まれる汗に目が奪われる。あぁイカンイカンせっかく陽キャの彼女が俺みたいな陰キャのおすすめを聴いてくれているのだ。不誠実極まりない。反省しろ! 来栖麓太! この発情猿め!
自分を叱咤するが目はついつい彼女の滴る汗の向かう先、つまりは肌色が覗く胸元に向かってしまう。
仕方ないのだ。これは男に生まれた者の本能なのだ。抗えぬ愚か者の性なのだ。許してくれ……!
誰に向けたかもわからない意味不明な言い訳を頭の中で唱えていると、スッと、南はイヤフォンを外して離れた。ヤバい、陰の者が放つ気持ち悪い視線がバレたかっ!
「良い世界観じゃん。なんか民謡? みたいで。あんま聴いた事ないジャンルだから、時間ある時にでも全部聞かせてよ」
バレたわけじゃない。よかった。社会的、もといクラスからハブられるという事はなさそうだ。同時に無邪気に感想を言ってくれたことに関して少し罪悪感を覚えてしまうが。でもやっぱそれ以上に嬉しい。偏見もなく感想を言ってくれたし、また違うのを聞きたいと言ってくれた。
別に俺はこの曲を作ったわけでも、何かの作成に携わったわけでもない。だが、好きなものを褒めてくれて、またこの話ができると、思うとそれだけで嬉しいのだ。好きなものを語らい楽しい時間を共有する事は何よりも楽しい。これもオタクあるあるだ。もちろん嫌な顔を少しでも見たらすぐやめるが、興味を持ってくれた事が嬉しい。
南に聴かせたのはアルバムの一曲目【into the Room】いわばこれは雰囲気づくりだ。まだまだこれからかっこいい曲が続くのだ。早くそれを聴かせたい。
早く聴かせていろんなことを語りたい、南の聴いている音楽の話を聞きたい。そんなことを考えてソワソワとしていたから、退屈な授業はいつもより早く終わった気がした。
キーンコーンと、昼休みのチャイムが鳴る。
俺はこの情熱を一刻も早く爆発させたかったが、このテンションのままいきなり話しかけたら引かれないかな、とか、南が周りからどう思われるだろう、とか、そもそもあれはお世辞で内心キモいとか思われたかなぁ、とか色々おかしなことを考えてしまい、自分から話しかける勇気を持てずに受け身の状態。完全に話しかけられ待ちになってしまった。
そうこうとあぐねいていると、いつも仲の良いグループが南を取り囲み一緒にお弁当ーーでなく購買に行ってしまった。
我ながら何とも情けない。何も余計なことを考えずにただ朝の話の続きがしたいと、素直に言えばいいものを、そんな簡単な事さえ出来ずにいる。しかも無意識に、聞きたいと言ったのは南だ、南の方から俺に話しかけてくるべきじゃないかと、最低な言い訳をしている。もちろん本心ではない。わかって欲しい。陰キャ男子高校生特有の心理的防衛だ。ごめん。
「はぁー」
自己嫌悪のため息。
まぁ別に今日の昼休みではなく別日な場合もあるし、そもそもお昼ご飯を食べるだけが昼休みの過ごし方じゃない。むしろその後の時間の方が長いし。そんな淡い期待を持ちながら、俺もいつものメンツと昼食を共にする。
「またこのメンツかよー」と憎まれ口を叩くのは俺。それに対して個性的な返しがくる。
「俺の高校生活に青春ラブコメはないから」と仏頂面の牧野。
「俺の彼女はたまたまに二次元だったんだよ」ニチャアという気持ち悪い擬音が聞こえそうな笑顔で言うのは里中。
「トラックかフォークにはねられて異世界転生しようかな……いやアレはショック死か」と、ブツブツと語る戸部。
こうしていつものオタク友達と馬鹿話をながら食べる昼食をやはり美味しいし楽しい。きっとこいつらなら、何を話しても笑って受け流してくれるだろうという、安心感がある。より自分を解放できる、いわゆる学生ノリができる友達だ。たまにほんと気持ち悪いが。
昼食も終わり、今期アニメは〜だとか、最近の推しは〜だとか話しているといつもこういった話している。いつも話す話題のくせに夢中になってすぐ時間は過ぎてしまうのだ。誠に不思議である。だが今日に限って俺以外の三人は次の五限目が移動教室らしい。昼食だけ済ませて即解散となった。今更だが俺以外は同じクラスで、俺だけ違うクラスだ。せっかく高校生活一年も続けて作った友情なのに、俺だけハブられていて辛い。
そんな内向的でオタクな俺にグループに途中から割って入るほどの度胸はない。自分の席に戻りスマホを取り出して音楽の世界に浸ることにした。早々に暇を持て余しているとふと、視界に一人でいる南が入った。
一人でいること自体、そんなに珍しいことではない。誰にだってそんな時間はある。いくらクラスの人気者でも常に人に囲まれている訳ではない。
もしかして今なら話しかけられるチャンス? 行くならここ?
別に話しかけるにタイミングを何もないのだが、自分から女子に話しかけに行く。圧倒的コミニケーション不足の俺はそれだけで大緊張だ。まるで告白でもするのか、というくらいに心臓はバクバクしている。
意を決して俺は席を立った。
「お、おっす、南。今時間大丈夫か」
最初の声が裏返った。キモっとか思われたらどうしよう。
「あれ? 来栖? うん、今大丈夫だよ。なに?」
対して南はこれといった緊張もせず自然だ。裏返ったこともまるで気にしたないみたいだ。これが陽キャか。うん、まぁ俺がおかしくて、南の反応が普通なんだろけど。
南が気にしてない事を俺が気にしても変なので、そのまま会話を続ける。
「あの、さ、朝に話した音楽の事なんだけど……」
「あぁ! 何だっけ? れいかいらじお? だっけ? 聴かせてくれるの!?」
「南さえよかったらだけど」
「聴く聴く」
すごい食いつきだ。もしかして待っててくれたのか? そこまで食いつかれると自意識過剰になってしまう。
俺はスマホでサブスクリプションの画面を見せると、南も同じサービスを使っていたらしく、すぐさま霊界ラジオを検索してくれた。布教の瞬間って気持ちいい。
「で? おすすめは?」
「朝聴いたやつはこのアルバムの【into the Room】ってやつなんだけど、このアルバム通しで聴くとどっぷり世界か浸れるし、最初に感じた印象とは全然違う印象になるから、このアルバムは通しで全部聞くのがオススメ。中でも【for Domingo】って曲がアルバムではオススメかな。霊界ラジオの曲全体では【Toon World】がオススメだな。これはYoutubeだけなんだけど。【into the Room】の雰囲気とかこのアルバムの【GEDATSU】って曲の雰囲気が好きなら【こわいものがこないように】って曲がオススメだな。あ、これもYoutubeでしかないんだけど、あとは……ってごめん。喋りすぎたよね!? ほんっとにゴメンな」
つい熱が入りすぎた。早口で好きな事を語ってしまうのはオタクの性。そしてこいつ気持ちわるっと思われる一番の要因。けど止められない。なんか自分の好きな話題の時はテンションおかしくなるのだ。その都度反省しているが、一向に改善する気配が無い。
しかし南はそんな俺に引いたりせずに、笑ってくれている。
「あはは、謝んなくていーよ。ホントに好きなんだなって伝わってくるし、音楽の話は嫌いじゃないからさ。それにそんないっぱいおすすめされて嬉しいよ」
なんてありがたいお言葉。こんなん惚れそうになる。
「でも、一度にそんな聴けないから、まずはこれっての教えてよ」
「んー、じゃあやっぱりアルバムかなー【Poltergeist】を通しで聴くのおすすめ。この20分で大体どんなアーティスか分かるよ」
「へー、わかった。帰り見てとかに聴いてみるね! じゃ、次は私のターン」
「ん?」
「ん? じゃないよ。来栖のおすすめ聴いたんだから、今度は私のおすすめ聴いてよ」
南のおすすめか。それは是非聞きたい。普段に間にはどういった音楽聴いてるのだろうか? あと知らない音楽を知れたら嬉しい。
南がおすすめしてきたのはどれもメジャーどころのバンドだったが、紹介された曲自体はシングルに無いアルバム曲だったり、タイアップされていないマイナーどころだったりと、メジャーどころだが俺も知らない曲ばかりで楽しいし、パンクに関しては全くの未知の世界だったのでかなり面白い。とりあえずこれは良いぞ、というサブスクでも聴けるアルバムを教えてもらって昼休みは終わった。
そして午後の退屈な授業も終わり、帰宅部の俺は早々に帰って、おすすめの曲を聴いたりして音楽の世界に浸ったり、推しの配信を見たりと充実なオタク生活をして一日を終えた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。
次回掲載日時は本日の正午に掲載予定です。
ご意見、ご感想をいただけるととても励みになります。
(Vtuberの名前、アーティス名、楽曲名が出てきますが、全て実在するので、興味を持っていただけたら聴いてみる事をオススメします。一部名前をパロって使ってます。これも実在します。全てに許可はいただいてます)