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ひとりぼっちの朝食

「二番目、ということは、一番がおありですか……?」

 メヴィーはなぜかカタカタと震えながら、私に尋ねてきた。

 一番。

 イケメン好きな私が、この世で一番美しいと思ったひと。


『君は、この僕を好きだと言うの?』


 本当の名前も知らない。ただ、困ったような嬉しいような、複雑なその表情が頭に焼き付いて、離れない。


「奥様……」

 返答のない私に焦ったメヴィーから、再び呼び掛けられて、はっと、意識が過去から現在に戻る。


「え、ええ。そうね……って、メヴィー!?!?」


 メヴィーはよほど驚いたのか、泡を吹いて倒れてしまった。


◇ ◇ ◇


 すぐに他の使用人を呼んで、メヴィーを介抱した後──メヴィーはわりとすぐに目を覚ました──、ダイニングに行き、朝食をとる。


 旦那様は、もう出立された後だったので、ゆっくり気楽にとても美味しい朝食を食べることができた。

「んん!」


 なにこれ、めちゃくちゃ美味しい!

 こんな美味しい朝食初めて!


 私は感動に震えながら劇でよく見て、ひそかに憧れていた

「シェフを呼んで頂戴」

を実行することにした。


 私が一言そういうと、シェフはすっ飛んできた。シェフは、だらだらと汗を流している。


 え? そんなに息を切らして、大丈夫??

 私、なにか不味いことしてしまったのかしら。

 それとも、調理場が暑かったのかしらね?


 それなら調理環境の改善を──って、私は女主人じゃなかったわ!


「あのぅ、奥様……」


 シェフの怯えきった声にはっとする。とりあえず、わざわざ忙しい中呼んでしまった謝罪と目的を伝えなければ。


「急に呼んでごめんなさい。朝食、とても美味しかったわ! ありがとう。その感謝を伝えたかっただけなの」 


 思わず満面の笑みでそう言ってから、はっとする。花嫁修行で習ったことその二。貴族は満面の笑みで笑わない、ができてなかったわ。しまった。もっとたおやかな笑みで微笑むべきだったわね。


 要反省だわ。それにしても。固まったシェフを見る。


「……シェフ?」


 シェフは、私の平民らしさが抜けない表情に驚いたのか、目を見開いた後──、滂沱の涙を流した。


 えっ、えええええええ。

 怖がらせちゃった? 恐ろしいこといったかしら。考えてみれば、いきなり呼び出されれば誰でも怖いわよね。私が考えなしだったわ。


「お、おくさま……」


 嗚咽を漏らしながら、泣くシェフはよく見るとどこか弟に似た顔をしていた。

 

 良かった、旦那様に首にされるかと思った。


 シェフがそんな不穏な呟きをしていたのに気づかず、私は弟を慰める気分で思わずその背をよしよし、と撫でる。


「ひょえ!」

「し、シェフ!?」


 シェフは私の手に気づくと奇声を上げて後ずさった。そして光にも劣らぬ早さで、どこかに消えてしまう。


 取り残された、私の手は、空しく宙に浮いていたけれど。

 やっぱり、元平民に触れられるのが嫌だったのかしら。これからは軽々しく、触れないようにしよう。なんて、呑気なことを思いながら、朝食を食べた。

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