第零話 プロローグ
俺は、救うことができない。
趣味で遊んでいるゲームでは簡単に救うことができるのに。
囚われの姫、彷徨いの仲間、監禁された家族、混乱した世界…を策略を立て、工夫を凝らし、立ち向かって救済する。
でも、それがリアルになるとできない。
頭の中で考える理想郷と実際に感じる現実とでは、全くと言っていいほど異なっている。
***
俺はもうすぐ二十になる。特に尖った出来事などは起きず、義務教育は全て受けて、目標を立てず適当に大学で過ごし、現在に至る。
尖った出来事が無いと言った通り、女経験なしの童貞で今は大学とバイトとの両立の日々だ。
俺の家庭は経済的には平凡だから、将来の事は好きに決められる感じだった。
でも、俺は現在に至るまで本当にやりたい事を見つけられなかった。
そんな中、俺に彼女ができた。
才色兼備という言葉をそのまま人にしたような完璧な女性だった。
十九の頃に俺は彼女に告白された。
勿論オーケー。断るなんて言語道断。
彼女は家族以外の今まで会った人の中で誰よりも俺のことを見放さなかった。
こんな俺を愛してくれた。
こんな俺を見限らなかった。
こんな俺と笑って接してくれた。
こんな俺に「私をあげる」と言ってくれた。
ここが俺の人生のターニングポイントだと確信した。
俺はこの人と付き合ったその日からやる事が決まった。
結婚して、子を作り、金を稼いで、この人にとって
完璧な存在になろうと。
この人を守ろう。
誰よりも愛してくれたこの人を。
こんな俺を、選んでくれたこの人を。
今日は、俺の誕生日の日だ。デートの約束もしている。ーー俺はここでプロポーズする事に決めた。
こんな何もない俺の人生に価値を見出してくれた彼女の為に。俺は彼女に尽くしてみせる。
彼女を、救ってみせる。
俺はこの日、トラックにはねられ事故死した。
突然だった。どうしようもできない状況だった。
でも、死んだ。
…俺は彼女を置いて死んだ。
せっかくあそこまで俺を好きでいてくれた彼女を置いて、死んだ。
俺にはもったいない女の子だった。
どうせならずっとこんな時間が続いてほしいと思った。ーーそんな油断が、彼女に絶望を与えた。
***
でも神様は、そう簡単に俺を亡き者にしようとはしなかった。
「あなたには、世界を救ってもらいます」
どうやら俺は異世界転生なるものをするらしい。
俺も一時期ずっとハマっていたものだ。
魔法ありありの自由な冒険が待っている。
当時の俺だったら、喜んで転生しただろう。
しかし、家族、そして彼女を置いて死んでしまった今の俺には元の世界に返して欲しいという思いしかなかった。
勿論、死んだ世界に戻る事は出来ない。その世界のバランスがおかしくなるらしい。
……。なら、決めた。
この二度目の人生では、なんとしてでも大切な人を救おう。
前のような最悪な人生にはさせない。
「必ず、救う。絶対に後悔なんてするもんか」
その強い決意とともに、俺は異世界に転生した。
***
この物語は、そんな彼が異世界で、皆を救おうと足掻く、異世界救済物語である。