結婚したらどうしたい?
「一戸建てがいい? マンションがいい?」
ソファーに深々と腰かけている僕に、さらにもたれかかりながら香はそう質問してきた。結婚を控えたふたりの会話は『結婚したらどうしたい?』がそのほとんどを占めていた。
「それ究極の質問だよ……。香はどっちがいいの?」
僕は香の頭を撫でながら質問を返した。
「私はねぇ……マンション! ちょっとオシャレな感じのマンションがいいなー。駅から近いとこ。あ、高層じゃなくてもいいからね」
香は体をねじりながら僕の方を向いてそう答えた。
「やっぱマンションだよね! 俺もどっちかと言えばマンションかなぁ。」
「じゃー決まりね!」
香は嬉しそうにスマホに『マンション! 決まり!』とメモしている。
「子供は何人欲しい?」
「んー。俺は特にこだわりないかな。香は?」
「私は2人! 男の子と女の子! あとはペットね。犬と猫はどっち飼おうか?」
「猫かな? 香実家でも猫飼ってたよね?」
「うん! 私も絶対猫がいい!」
「じゃー決まりだね」
香は次々とメモをとっている。
「香は結婚したら専業主婦がいいんだっけ?」
「もちろん! 美味しいご飯たくさん作って待っててあげるからね」
満面の笑みでそう言う香は今日も幸せそうだ。今日だけではない、香はいつも幸せそうだ。そんな香を見て僕も幸せな気持ちになる。
僕は住むなら絶対に一戸建てが良い。子供はいらないと思っているし、ペットもいらない。強いていうなら犬が良い。専業主婦よりも香には働いていて欲しい。香の兄弟とも友達とも仲良く出来る気がしないし、仲良くする気もない。実は香の作る料理もあまり好きではない。
でもそんなことはとても些細なことではないか。僕は香を愛している。それだけで十分だ。僕の意見を通そうと思わないし、言うつもりもない。香といるための気にもならないような些細な我慢は我慢ではないのだ。僕は、香が僕との結婚で幸せになってくれればそれでいいのだ。香と一緒にいられるなら『僕』はいらない。
香はいつも幸せそうだ。
僕もいつも幸せだ。