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0.プロローグ

注意:シリーズものです。一応前作を読んでなくても話の内容が分かるようには書いていきますが、そこを念頭に置いていただけると幸いです。

国に魔王討伐という多大なる貢献を果たした勇者パーティの弓使いにしてアーゼンベルグ伯爵家の長女であるフェリシア。彼女は今、祖国・イースディール王国の王都の片隅――貸し切りにした酒場にて、6人のパーティメンバーという仲間内のみので開催された祝勝会の真っただ中にいた。


「よっしゃー!久しぶりの酒だ!!今日は吐くまで飲むぜ!!」

「はいはい。飲み過ぎて倒れない程度にね、ダリア。フェリシアの世話ならともかく、俺は酔っ払いの薄汚れたおっさんの世話なんて絶対にしたくないから」

「……ユリウスさん、物凄い笑顔でキッツいこと言ってますね。気持ちは分からなくはありませんが」


パーティの最年長であるダリアが飲んだくれる宣言をし、それに対して旅の中でも勇者であり、まとめ役でもあったユリウスが軽く注意をする。そしてその言葉に対してフェリシアの妹で聖女の役目を担っていたイリスが冷静なツッコミをいれるというある意味いつも通りの光景がそこには広がっていた。


それを見て、お酒を胃に流し込みながらもフェリシアは『本当に平和になったんだなあ』としみじみと感じる。

少し前まで魔王討伐という生きるか死ぬかの戦いをしていたとは思えないほどの平和さだった。

魔王城までの道のりは本当に苦しいものであった。魔王が出現したポイント――最北の地・ノルド周辺の村や国は全て滅ぼされ、魔物が闊歩する荒れ果てた土地に変化した。だからそこに辿り着くまでは食料も物資も全てが絶たれた状況で彼らは闘い続けたのだ。


道中、フェリシア自身も何度も自分の命の『限界』を感じて恐怖する時があった。けれどその度に支え続けてくれた存在――彼のお陰で最後まで妹を守りながらも踏ん張ることが出来たのだ。彼は最初から最後までパーティを守る騎士として最前線で戦い続け、その活躍は勇者であるユリウスにも引けを取らなかった。そうして命を絶つ最後の一太刀をユリウスと共に、魔王に放った――。

こうして彼らはこの国を……世界を救ったのだ。


平和になった今、フェリシアは改めて彼の事を考えていた。

それとなくそんな彼の方に視線を向けてみる。


「おい!ディラン、お前全然酒が進んでねえじゃねえかぁ!!」

「げ!ダリア……今度はこっちに来やがったか」

「なんだぁ?その嫌そうな態度はぁあ。年下のくせに生意気だぞぉ」

「おい、ロジー!!この厄介な親父なんとかしろよ。お前こいつの息子だろ!?」

「嫌でーす。僕も相手したくないので、自分で何とかしてください」


先程の場所から移動したのだろう、既に酒で酔い始めているダリアに絡まれて、ダリアの息子であるロジーに助けを求めても断られるという可哀そうなことになっているその男こそがフェリシアの想い人であり、幼馴染でもあるディラン=アッシュブレイド。その人であった。


昔は泣き虫で情けない所も多々あった男だが、数年前から彼の涙は見ていない。彼自身もきっと成長し、強くなったのだと思う。そして今は幼馴染で昔の情けない姿やらなにやらを全て知っているフェリシアすらも惹きつけるほどの強い魅力を放っている。


「ダリア。ユリウスが貴方と飲みたいって言っていたわ」

「ユリウスゥ?……アイツ散々俺の世話をしたくねぇとか言っておいて――可愛いやつじゃねえかあ」


『仕方ない』と溜息を吐いて、助けに行く。しかしフェリシア自身も酔ったダリアの相手なんてしたくない。それとなく自分に対して兄のように振舞っており、常々甘やかしてくるというちょっと面倒な相手に、敢えて嫌がらせのように厄介なモノ(ダリア)を押し付けておいた。ユリウスならきっと文句は言えど察してくれるであろう。


「……フェル、ありが――」

「感謝してるなら、今度お礼に何か奢ってね。ディランのお金、全部食い潰す勢いで食べてあげるから」

「うっわー。すぐに対価要求してくるとか可愛くねーなー」


お礼の言葉を聞くのが少しこそばゆくて、思わずいつもの『可愛くない幼馴染』の態度になってしまう。自分は何故可愛く「じゃあ、今度一緒にご飯を食べたいな」的な感じでデートに誘えないのか……と少し嫌になってくる。

彼の事が好きだと言えど、長年染み付いた幼馴染という関係性と態度というのは中々修正できないものであった。


***


まず最初にダリアが酔い潰れ、彼を押し付けられたユリウスも一緒にダウン。夜も遅く流石に騒ぎ疲れたのか、年齢的な問題でお酒を飲んでいなかったイリスとロジーも寝静まった頃。

なんとなく今後についてフェリシアと話していたディランだったが、酒によって気分が高揚したのか、少し繊細な話題――自身らの恋愛について話し始める。


「にしてもフェルって本当、脳筋ゴリラだよな~。魔物も一捻りだし、もうそこいらの男より強いじゃん?そんなんじゃ恋愛対象外認定で貰い手見つからなかったりしてな」

「は?」

「ん?もしかして気にしてたのかなー。そりゃそうだよな。お前ももう22だしな!!やーい、恋愛対象外~行き遅れ~!」

「っ――!!」


いつも通りの揶揄うような口調。何度か既に言われている言葉なのに……お酒が入って、より感情が外に出やすくなっているせいか好きな相手からのそんな言葉はフェリシアの心をズタズタに切り裂いた。

知っていた筈だ。この男は自分のことを基本的に『脳筋ゴリラ』や『可愛くない』、『恋愛対象外』などと思っており、それを色んな所で言いふらして女として見ていない事など。


確かにずっと好意なんて見せずに、ツンケンした態度をとっているフェリシアも悪いが、そうさせるのは実際、ディランのこういう幼馴染然とした揶揄いの態度もあった。


しかしフェリシア自身も今回はいつも以上に心が傷付き、同時にイラっと来てしまった。


「だから――」

「そんなんなら今からでも貰い手見つけてやるわよ!」


きっと更に揶揄いの言葉を続けようとしたのであろう。そのディランの聞きたくない言葉を遮り、フェリシアは言った……言ってしまった。彼以外に目を向けれる余裕なんてないくせに、そんな反抗的な宣言を――。


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